第7話 ざまあヒロインと孤高のボッチ飯
学校。
昼休みの教室。
昨夜からの断食でお腹が超空いていた私は、早速お昼ご飯を取ることにした。
颯爽と机の上にランチクロスを敷き、その上に可愛い白菊が描かれたヌードピンク色のランチボックスを置く。
さっそく蓋を開けると、そこには茹でない生のままのブロッコリーとホウレンソウのサラダが入っていた。
おかずはゆで卵と焼きシャケ。
主食は冷やし焼き芋が2片だ。
極めつけは粉末ビーツにココアパウダーとシナモンを加えた私特製プロテインドリンク。
最適なPFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物)と大量の抗酸化物質を一度に取れる上、ビーツが持つナイトレイトにより筋肉疲労をも素早く回復させる。
これが、世界最高のプロ美少女にしてスーパーエリート女子高生である私が辿り着いた美容食の結論である。
我ながら完璧過ぎる弁当を前に腕組みをし、チラと周囲を見回す。
教室では、私と同様にお腹を空かせたモブどもが机を寄せ合ってランチをしていた。
だがメニューが酷い。
菓子パンや総菜パンに牛乳とかジュースといった連中ばかり。
そいつらがワイワイおしゃべりしながら楽しそうに食べている様を見て、私の口角が吊り上がる。
フ……!
完璧な私に比べて、奴らの食べているものはなんだ?
油でギトギト。
炭水化物の塊ではないか。
高カロリーの割に栄養素が殆ど無い。
体に良くないものをバクバク食って、デブデブ肥えて死ぬがよい!
グワハハハハハハハハッ!
私が内心そんな高笑いをしていると、
「ねえ。鎌瀬さんまたニヤついてない……?」
「あの人ちょっと怖いよね」
「シッ。目をつけられるわよ」
クラスのモブどもがまた何か言っている。
遠いしボソボソでよく聞こえなかったが、どうせ私への悪口だろう。
美し過ぎるのは罪ね。
妬まれちゃって仕方がないわ。
なんて思っていると、
「鎌瀬」
突然背後から声を掛けられた。
凛々しい女の声に、ビクリとして振り向く。
そこに居たのは黒髪ロングで巨乳な生徒会長。
明星院明日香だった。
げっ!?
明星院!?
「何の用よ!?
まさか果たし合い!?」
「ん?
いや、2人で話がしたいんだ。
よかったら一緒にランチいかないか」
言って、私に弁当箱を見せてくる。
どこか2人きりになれる場所で弁当を食べようというのだろう。
「ど、どうしてアンタと弁当食べなくちゃならないのよ!?」
どうせ誰かと食べるならコイツじゃなく内木と食べたい!
「……お前に相談したいことがあるんだ」
明星院の言葉。
そして全校生徒憧れの生徒会長であるコイツにしては、珍しく不安そうにしているその表情を見た時、私の脳裏に一つのトラウマが思い起こされる。
先日雪村から喰らったアレの事だ。
ま、まさか……!?
思っているうち、明星院が私の傍までやってきて、
「実は……真人の事が好きなんだが……!」
そっと私に耳打ちしてきた。
てってってっ……!
てめえもかああああ!!?
っていうか分かってたけど!
お前が内木のこと好きとかゼンゼン分かってたけど!?
でもよりにもよってなんで私に相談してくんのよ!?
「嫌がらせか!?
お前分かってて私に嫌がらせしてんのかああああ!?」
怒りの余り、私は明星院に掴みかかった。
「お、落ち着け鎌瀬!
どうした!?」
だが体格で勝る明星院には勝てず、すぐさま押さえこまれてしまう。
しかも、気付けば周囲の視線が私と明星院に集中していた。
そのうちの一人は内木。
マズい……!
内木に聞かれる訳にはいかない。
だって、こんな非現実的なメロン乳の女が自分に惚れてるなんて聞いたら、内木は即刻交際し始めるだろう。
そうなれば超一流のマンガ家の嫁になるという私の計画は全て台無しになる……!
「ハア……ハア……! わかったわ。別の場所で話しましょう」
私は明星院にそう言って教室を出た。
絶対に食い止める!
◆
5分後。
私と明星院は新校舎3階にある漫研の部室にやってきた。
この階は殆どが文科系部室や空き教室になっている。
そのため人気も少ない。
ここなら誰もやってこないだろう。
2人で机を寄せ合い、持ってきた弁当箱を置く。
「で、アイツのどこが好きなの?」
弁当箱を開けるなり、私は訊いた。
とりあえず内木のどこが好きなのか先に聞いておく。
っていうか、率直に疑問だった。
内木はクソダサ陰キャの根暗オタク。
あんな分かりやすいモブの量産型に、どうして明星院のようなハイスペ女が惚れるのか分からない。
「そうだな……」
私が尋ねると、明星院の顔にフッと微笑みが浮かんだ。
もう幸せ度1万パーセントって感じの笑顔だった。
私がザコども相手にマウントとってる時の顔と同じ。
「理由なんて考えたこともなかったが、改めて考えてみると色々ある。
真人は一見目立たないが、普通に勉強もできるしマンガという趣味もある好青年だ。
それに何より人がいい。
ポスター制作の時にも真人にはお世話になった。
殆ど見ず知らずだった私のために、彼は毎日放課後まで残って手伝ってくれたんだ。
感謝しかない」
明星院が「ホウ……」と溜息を吐く。
うううう内木の奴うううう!?
私が一人で選挙戦頑張ってた時に、コイツとイチャイチャしてやがったのかあああああ!!?
ゆるせねええええええ!!!
「フン!?
それ絶対アンタの乳に目がくらんだだけだから!
言っとくけど、アイツが興味あるのなんてアンタの体だけよ!?
だから止めておきなさい!!」
取りあえず内木をディスっておく!
少しでも明星院が退いてくれるといいけど……!
「そうなのか?
だが嬉しいな。
私の事を良く思ってくれて」
「いやなんでそうなるのよ!?
キモオタからキモい欲情を向けられているのよ!?
もう少し気持ち悪がらないの!?」
「せっかく好意を向けられているというのに、なぜ嫌悪する必要がある?
それに真人はマンガに関して本気だ。
オタクではあるが気持ち悪くはない」
明星院は真剣な眼差しで私を見つめ返し言った。
ダメだ!?
こいつガチで内木のこと好きだ!
このままじゃ、この脳筋ド下品生徒会長に内木を取られてしまう!
どうする……!?
話を聞いた限り、
恐らく私が何を言っても変わらないだろう。
ならば内木の方を変えてしまうか。
内木の明星院に対する評価を著しく下げることができれば、コイツが内木に告白したとしても失敗するはず。
よし。
それでいこう。
雪村の時は失敗したけど、今度こそ明星院が内木に嫌われるように仕向ける!
そう思った私は、明星院が持ってきた弁当箱に目をやった。
コイツ弁当作りドヘタね。
ゴハンを詰めた領域に、オカズのきんぴらごぼうやらシャケの切り身やらが浸食しちゃってる。
詰め方がなってない。
あと水気も多すぎてべちゃべちゃしてて、ぱっと見汚い。
これじゃせっかくの栄養素も抜けちゃっているだろう。
明星院の奴、運動神経は抜群だけど、こういう手先でやるものは苦手らしい。
よし……!
これを使えば!
「弁当とかいいんじゃないかしら?」
「弁当?」
「そうよ。
思春期の男子の頭の中なんて、基本的に三大欲求しか詰まってないわ。
だからそこを刺激してやればいいの。
色気を出すか、美味しい手作り弁当でも渡すか。
そうすればイチコロよ。
見たところアンタは色気の方はイケてるから、後は内木のためにお弁当作ってくるの。
それでバッチリ」
「ふむ。
色気というのはよく分からないが、確かに胃袋を掴むというのは大事だな。
私も食べるのは大好きだ。
だが、弁当作りのような細かい作業は正直苦手なんだが……」
言って、明星院は自分の弁当を見る。
珍しく自信が無さげだった。
そんな奴の顔を見て、私のマウント魂がそそられる。
「アンタ内木と付き合いたいんでしょ?
付き合うって事は、将来内木と家庭を持つってことじゃない。
だったら今の内から努力しないと。
内木や内木との子供のお弁当にも、そんな汚い弁当持たせるの?
苦手だからってそういう所で手を抜くの、よくないと思うわ。
明星院さんらしくない」
私はここぞとばかりに正論をブチかました。
すると、
「う……」
いっつも率直で明晰な(というのは明星院の信者どもの言で、私流の言い方では『生意気で余計な事しか言わない』)あの明星院が、私の正論を喰らって黙る。
ああ……ッ!
あの明星院に対して上から目線で説教……ッ!
きんもちいい~♡
「たしかに、鎌瀬の言う通りだな……。
早速明日、内木の分の弁当を作ってくるとしよう」
そう言うと、明星院は席から立ち上がった。
「ありがとう鎌瀬。お陰でやる事が決まった」
部室からの去り際にペコリ、私に礼をしてくる。
「どういたしまして♪」
私も同様に礼を返した。
帰っていく明星院の背中を見送る。
勝った……ッ!
雪村の時は、太らせるつもりが胸と尻だけデカくなるという最悪の結果に終わったけれど、今回は確実に成功するだろう。
だって見た目も味もマズいものを食べて喜ぶ人間なんていない。
いや仮に居たとして、内木に関しては100パーない。
アイツは好き嫌い結構あるし、味の好みにも煩いのだ。
だから明星院が勝つ可能性は万に一つもない。
そして、それだけじゃない。
明星院のクソマズ弁当の後で、私の素晴らしい健康弁当を味わったとしたら?
内木の私に対する評価も爆上がりするはず!
これは明星院の株を下げると同時に私の株をブチ上げる、一石二鳥の作戦!
明星院を踏み台にして、一気に内木をゲットしてやるわ!
「ブザマに教室の床に這いつくばる明星院の姿が今から楽しみね! ヴァホホホホホッ!!」
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