宰相と客人
王都の入り口から整然と列をなして王宮にまで入ってきた使節団が無事に控えの間へと入ったとの連絡を受けて、他国ならば単に宰相とだけ呼ばれていただろう、アイユーヴ王国
遠方から、しかも他国の客人である。
実際には国務の多くを
「レイ殿はアイク島なる土地についてどう思われますかな?」
「そうですね。まず今まで全く存在すら知られていなかった国、というのに興味を
「この外交使節そのものがサーマイヤーフ殿下の狂言だと?」
「そこまでは流石に。殿下は理知的な人柄のご様子。全くの未知の国と称して他国の勢力を引き入れるような危険な賭けには出ないでしょう」
穏やかな口調で事態をそう分析する男は単に細面というだけではない、遠く離れた土地出身ならではの独特の
秀麗な容姿に加えて多彩な話題で多くの貴婦人を夢中にさせているとも聞いている。もっとも本人はさほど女性に関心が無いようで、特定の相手との浮いた噂が宮廷人たちの口の
「しかし殿下からのアイク島に関する報告が意図的に情報を
「そのようですな。港に入ることもできないので移乗用の船を手配いたしました。実際港へ送った私の手の者が明らかに桁違いの大きさの影を目視しております。何か不審ですかな?」
「ええ。荒海を越えてきたというのです、常識外れの巨艦を
「む…いかにも」
言われてみればその通り。アイク島人は何か大海を越えるための特別な技術を備えているに違いない。それは船の工夫か、あるいは島の民ならではの特殊な操船技術か。
「サーマイヤーフ殿下はその秘密を
「現在はそのおつもりでしょうが、元からそうだったというのはおかしい。アイク島に関しての報告があったのは今回の都市連合との戦の前でしたから」
「ふむ…元々殿下は王宮に隔意をお持ちですからな。なにかアイク島との国交を開くことに関して、秘密を持っていらっしゃっても不思議はありませんが」
「殿下の思惑に限らず、アイク島という場所に関して多大な興味がありますね。彼らと実際に語り合う機会を得るために、ライガハッハ殿のお力添えをいただきたいところです」
「それはこちらとしても望むところ。異国人同士ということで心を開かせて、殿下の秘密を解き明かして欲しいところですな」
リンデンは
だが今は彼の好奇心を満たす事に多少の便宜を図っておいて良いだろう。アイク島からの使節も今苦境にある第三王子とは別に王宮との
「それにしてもこの度の
「ライガハッハ殿は何かご
「しかしサーマイヤーフ殿下からは陛下の悪癖について説明を受けていることでしょうからな」
「悪癖?」
「左様。とても臣下の身では口に出せないような欠点をお持ちでいらっしゃる。誰かから既に聞いておいでかと思っておりましたぞ」
「はて、心当たりが有りませんね」
やはり他国人であるレイ・ウンリョクヨクに王の恥を
「敢えてお伝えするような事でもありませんからな。先ほどの
「ライガハッハ殿がそう
多少
「それにしても使節の方とお話しするのが楽しみですね。一国の代表でもあり、未知の旅路を切り開いてきた冒険家でもあるのですから、アイク島という土地のことに限らず個人的な人柄にも関心が湧きます」
「それは確かに。私も一国の行く末を預かる身でなければ
「私自身は実は好奇心だけで四方八方を旅しているのではなく、故郷に対しての使命を帯びているのですがね」
「ほう、それは初耳ですな」
「興味本位で、という部分が大きいのは事実ですが。正直この国には長
「ではこの後はシンドゥムへ?」
「どうしましょうね。このタイミングで全くの未知の国の存在を知ったのも運命かもしれません」
リンデンの若干の
アイク島へと渡るというのならば、実際にそこがいかなる地であったかを土産話にしてくれるかもしれない。それは歓迎すべきことだろう。
「船旅の経験はレイ殿はお持ちでしたかな?」
「いえ全く。もしも船を動かすのに役に立たない者は乗せられない、などと言われてしまったら諦める他ありませんね」
「レイ殿の知恵にはその価値があるような気は致しますがな」
「ライガハッハ殿は嬉しいことを言ってくださる。故郷の話が船賃になるのであれば是非ともそうしたいところですね。いずれにしても先ずは使節団の代表の方にお目にかかってからのことです」
「確かに先走りすぎたかもしれませんな。
サーマイヤーフ王子との関係が気になるところだが、例えひと月以上待機させた中で友情を芽生えさせていたにしても、外交の場にそれを持ち込むほど愚かな者が一国の代表となるとも思えない。使節団をどう
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