第三章 この世界の不条理
第59話 麗華SIDE 許せない
「勇者麗華様!貴方の旅は終わりました! つきましては城に戻るようにとマリアンヌ女王からの伝言です!」
王都に戻る途中に立ち寄った教会のシスターがいきなりこんな馬鹿な事を言い出しました。
この世界にも国にも腹がたったので戦うのを放棄して、理人を取り戻しに王城に戻る途中でしたが、これは一体どう言う事なのでしょうか?
「旅が終わった?私達まだ魔王を倒していませんわ!」
「魔国とは停戦協定が結ばれる事になりました。その為今後は一切の魔族との戦闘は許されません。褒賞の話の為に国にお戻りください」
「ハァ~何それ?」
「詳しい事は私どもでは解りかねます、王城への帰還を急ぎお願い致します」
本当にふざけているわ。
無理やり呼び出して置いて、この扱い。
本当に腹が立ちます。
ですが、此処で話していても時間の無駄ですね。
元から帰るつもりでしたし、後は戻るだけです。
ですが、この世界は一体何がしたいのでしょうか?
女神にまで縋って、戦力を呼び出したのに、停戦?
そんな事なら、態々私達を呼び出す必要はなかった筈です。
もっと自分達で努力をして、歩み寄りそれでも、どうしようもない時に神に祈るべきなのです。
そして、この世界の女神イスカルは馬鹿なのですか?
こんな簡単に停戦出来る様な事なのに異世界召喚に介入して異世界人にスキルやジョブを与えて代理戦争をさせる。
そして、その異世界人の『愛』を壊す。
女神だと言うのなら、このスキルやジョブを与えるのではなく、この召喚自体を阻止するべきだと思います。
「麗華、どうする?」
「取り敢えず、戦いはしないで済みそうだけど?なんか腹が立たない」
そう言うのも無理は無いわ。
この世界に来た為に皆が恋人を失った。
そして、それは性格が変わり女性を嫌悪するものだから取返しはつかない。
もし、今大樹を『元の状態にして返してくれる』
そう言われても私はきっと『要らない』と答えると思うわ。
私を豚と罵り、憎悪の籠った目で見た大樹。
もう、昔の優しかった面影は何処にも無かった。
私が愛した大樹じゃ無かった。
元の大樹に戻してくれても、あの悪魔の様な顔で私を罵り、凍り付いた冷たい目で見られた事実は変わらない。
『可愛さ余って憎さ100倍』なんて言葉もあるが、まさにそれだ。
あの顔を思い出すたびに最初は物凄く悲しかった…だけど今の私は…どうでも良くなってしまった。
この世界が悪い。
それは解っていても、もう元には戻れない。
あの時から、彼を愛する心は壊れていき『今はどうでも良くなった』
これは決してこの世界のせいじゃない。
私の心が彼を拒絶したんだと思うわ。
自分がどれだけ愛しても、愛してくれず自分を拒絶する存在。
『愛し続けられる訳が無い』
もうきっと、二度と大樹を愛する事はないわ。
これは私だけじゃない。
宮田さんを含む彼氏がいた女の子全員が同じ意見だった。
愛する人から向けられた侮蔑の目や汚い物を見る目は『好き』という感情を『嫌い』に変えるには十分だったのよ。
もし、此処で奇跡が起こり元に戻っても、もう元には戻れない。
『私達は一体どうしたら良いの?』
この答えは解らない。
理人はこの世界で唯一正常な男で『女性を愛してくれる』それは解る。
今現在の私達にとっての理想の男性。
正にその通りだわ。
『だけど取り戻してどうするの?』
理人を中心に私達がハーレムでも作るの?
それで満足なの?
そんな事無い。
最早どうして良いか解らない。
責任の取らせ方も解らない。
お金? 権力? 保証?
何回も皆で話し合ったけど、何も貰っても『心が癒されない』それしか結論が出なかったわ。
「そうね、私にもどうして良いか解らないわ!だけど、王城には戻らないとね!前に話した通り、唯一真面な男性の理人は返して貰おうと思うのよ、元から理人は私達の同級生なんだから…別に恋愛という意味じゃないわ…男たちの見下すような目に耐えられないでしょう?真面な男の子が傍に欲しい、そう思わない?」
「そうね、私もそう思う。別に私は彼氏がいた訳じゃない…だけどこんな世界酷すぎるよ」
「私なんか元彼に…あはははっお前を抱く位ならゴブリンを抱いた方がマシなんて言われちゃったもん、この世界に来る前はキスしたいって迫ってきたのに…」
「私は、皆知っていると思うけどバカップルって呼ばれていたのに…憎悪の目で、キモイって言われたよ…」
「こんな世界だなんて女神は説明しなかった! そして王女も解っていて引き離し、僅かに真面に愛し合える時間さえ奪った節があるわ…まずは王城に戻って話をしましょう!誠心誠意詫びてくるなら良いわ、でも誠意が感じられなければ…」
「そうね、麗華言わなくても解るわ! 思いっきり暴れましょう」
「うん、こんな世界で生きていても面白くないもんね…」
「まずは相手の出方を見て決めましょう」
きっと皆も気がついている筈だわ。
どんなに誠心誠意謝られても、驚くほどの保証が貰えても『許せない』そういう結論になる事に…
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