第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部

松田紙弥

ざあざあの雨を帳に花園の湯を求めくる百足武者かな

旅先の旅館にて、朝風呂でも浴びようかと早起きしたところ、談話室で大きなムカデが床に落ちているのを見つけました。

ムカデは、すでに死んでいました。

梅雨時期の山でムカデに遭うのは、よくあることです。私も一度、夜中に旅館の布団で噛まれたことがあります。

しかしその日、私のあたまに浮かんだのは、高野山の奥の院に並ぶ武将たちの墓石でした。それから、この地を戦場として命を散らしていった武人たち……

今年はじめての台風が迫っていました。

ムカデはいつ、どこから来たのでしょうか。なにを求めて、この絨毯の上を這っていたのでしょうか。

私たちは雨をつれて、花園をあとにしました。

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