第24話 神話の神が覚えられない
アマなんちゃらにニニなんちゃら。こっちの世界の神の名前だろうが、ややこしすぎて全然頭に入ってこない。聞き流すに越したことはないな。
「
なんでバレたんだ。
「神の名前は正直ややこしすぎだが……そうやって国の基礎ができたと」
まあ、おとぎ話だが──うちの国の建国神話も似たようなものだしな。あんまりバカにしてやるのもかわいそうか。
「ちなみに瓊瓊杵尊は、
副官、ネットでいらんことを検索するな。目の前の男が私にどんな仕打ちをしたか、もう忘れたのか。
「うぐっ」
「へー、しかもその奥様が一夜でご懐妊と」
農林水産大臣はついに頭を抱え始めた。どれだけ女性がトラウマなんだ、この男。でも、弱っているならグッジョブだぞ副官。
「それにしても、神話とはいえご都合主義だなー」
私が副官に話しかけると、奴はにやっと笑った。
「瓊瓊杵尊もそう思ったようですよ? 『本当に俺の子なのか』とね」
「嫌なとこリアルだな、その神話」
「しかし彼に待ち受けていたのは、過酷な結果でした。疑われた木花開耶姫は、身の潔白を示すと言って、出産場所である小屋に火を放ったのです」
「……死なない、それ?」
怖い。なにそれマジ怖い。
「死にませんよ。木花開耶姫は無事に三人の子供を出産し、無実を証明してみせたとか。ま、これで瓊瓊杵尊もようやく落ち着き、国を豊かにしていったということです」
「なーんだ」
私は結末を聞いてほっとしたが、農林水産大臣はまだ震えていた。
「恐ろしい……美しい女性と会い、子までもうけながらそれを疑うリア充の心が」
「そっち?」
私はどっちかというと、「じゃあ火の中にこもるわ」メンタルの女神のほうが怖いと思うんだけど。
「まあそんな感じで、米は神から賜ったもの、ということになっているので……毎年採れた米を神に捧げる祭というのは、この国では結構ランクの高いものなんですよ。今年はどうなるか知りませんけど」
「もちろん困っておりますよお。ある庁の幹部など、さっそく貴方がたに呪いをかけ始めております。そろそろおやめになった方が、身のためかと存じますが」
「嫌だね」
にやつく総理に、心の底から私は言った。バフムの意趣返しはまだ済んでいないのだ。
「まだゴネるか。やはり貴様は滅ぼさねば……」
あ、まずい。放置してたら、大臣が元気になってきた。
「やかましい。今度はこっちの番だ!」
私は用意してあった、使い魔の一体を呼び出す。巨大な生物で、地上でいう蜘蛛の形をしているのだが──頭だけは、女の顔に変えておいた。
「お、女……? 蜘蛛……?」
蜘蛛は糸を吐いて大臣をぐるぐる巻きにすると、外へ持ち去った。総理があわててそれを追いかけ、室内には私と副官だけが残される。
「あー、また。余裕がなくなると手加減できなくなるの、悪い癖ですよお」
「すまん,、私の落ち度だ……」
心配どおり、農林水産大臣の負傷はニュースで大々的に報道された。軽症だったものの大臣はテレビでこちらの悪態をつきまくり、内閣の支持率をちょっとだけ回復させやがった。これでやりにくくなるではないか。
……全くもって、不遜な人間共め。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます