第93話 深淵からの使者?!

 今日こそ学校に行こう!

 昨日は家を出て直ぐに纏蝶てんちょうさんと会った事で騒動に巻き込まれちゃったけど、今日は大丈夫だよね?

 家を出る時にキョロキョロ辺りを見回した。

 よし、誰もいない。


燐火りんかちゃん、今日は何も起きないみたいだね」

「テプちゃんは心配性だな。毎日事件は起きないと思うよ」

「そうだよね。今日はゆっくり出来るね」

「うん。それじゃぁ、学校に行こう!」


 僕と燐火りんかちゃんは元気に登校した。

 そして、いつも通り僕はロッカーの上に乗ってーー


「ひやぁっ!」


 僕は思わず飛びのいてしまった。

 燐火りんかちゃんのクラスメイトがこっちを見ている。

 危ない、危ない。

 姿を消していたから良かったけど、バレるところだったよ。

 何でロッカーの上がこんなに冷たいのだろう?

 僕は冷え切った足の裏をこすった。

 11月だけど暖房があるから、いつもは冷たくないんだよね。

 ついてないなぁ……。

 僕はロッカーの上が温まるのを待ってから再び飛び乗った。

 授業が終わった後、僕と燐火りんかちゃんは直ぐに帰宅した。

 今日はゲームで遊ぶ予定だからね。


「テプちゃん、おやつが置いてあるよ」


 燐火りんかちゃんに言われて食卓を確認すると焼きそばパンが置いてあった。

 僕と燐火りんかちゃんの名前が書いてある。

 お皿に名前が書いてある付箋ふせんが貼ってあるのは珍しいな。

 ママさんが用意してくれてくれたのかな?

 焼きそばパンに噛り付いてみるとーー


「からぁああああああい!」


 辛いよ!

 すっごく辛いよ、この焼きそばパン!!


燐火りんかちゃん! 飲み物ちょうだい!」

「どうしたのテプちゃん?!」

「焼きそばパンが辛かった!」

「麦茶があったよ。はい」


 燐火りんかちゃんが冷蔵庫から麦茶を取り出してお皿に入れてくれた。

 麦茶か……本当は牛乳とかの方が良いけど仕方ないかな。

 そういえば、何で11月なのに麦茶があるのだろう?

 ママさんが麦茶を作ってくれていたのは9月までだったような気がするんだけどなぁ。

 ぺろっ……


「きゅう~。酸っぱいいいいっ!」

「どうしたのテプちゃん?!」

燐火りんかちゃん、これお酢だよ!」

「本当だ。黒酢だね」


 燐火りんかちゃんが麦茶だと思っていた液体をなめた。

 一体何が起きているの?

 新たな敵の攻撃かな?


燐火りんかちゃんは大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。テプちゃんも食べる?」


 恐る恐る燐火りんかちゃんが差し出した焼きそばパンをかじったが、いつも通りで美味しかった。


燐火りんかちゃんの焼きそばパンは普通だね」

「テプちゃんのは違ったの」

「うん。とっても辛かった」

「ちょっと食べてみるね。うぇっ。本当に辛いね。これは食べられないからパパにあげよう」

「そうだね。パパさんは辛いの大好きだからね」


 燐火りんかちゃんが激辛焼きそばパンにラップをかけて冷蔵庫に入れた。

 そして燐火りんかちゃんのお部屋に向かった。


「テプちゃんのお部屋に紙が貼ってあるよ」


 僕の部屋がある押し入れのふすまを見ると『私を覚えているか? 深淵しんえんからの使者より』と書いてあった。

 深淵しんえんからの使者って誰の事だろう?

 心当たりがないなぁ。


「テプちゃん誰かに恨まれるような事をした?」

「してないよ。アクイアス・セッテとかレオディック・セブンには恨まれているかもしれないけど、纏蝶てんちょうさんが捕まえたから大丈夫だと思う」

「もっと普通の人じゃないかな? やってる事がドッキリ動画みたいだよね」


 ドッキリ動画か……そういえば最近燐火りんかちゃんも見てるよね。

 もしかして犯人は燐火りんかちゃんの知り合い?

 いや、そんな事はないよね。

 燐火りんかちゃんの知り合い以外で僕に恨みを持っていそうなのは、明比警部と帯刀刑事くらいしか思いつかないなぁ。

 でも違うよね。

 彼らの推理並みに的外れな推測だと思う。

 他に誰か大事な人を忘れているような気がするけど、誰だったかな?

 ずっと悩んでいたけど、犯人は夕食の時に突然判明した。


芽衣子めいこちゃんのお土産美味しかった?」


 ああああああああ!

 ママさんの一言で思い出した。

 冥王軍として一緒に大賢者アクイアス・セッテと戦っていたのに、最終決戦に芽衣子めいこちゃんは参加していなかった!

 突然アクイアス・セッテが小学校を襲撃してきたから、隣町の小学校に通っている芽衣子めいこちゃんが戦いに参加出来なかったのは仕方がない事だと思う。

 でも、決着がついた後に芽衣子めいこちゃんに何の説明もしていない。

 冥王軍の活動は自然解散してしまったのだ。

 恨んでるだろうなぁ……

 酷い事をするなと怒っていたけど、相手が芽衣子めいこちゃんなら怒れないなぁ。


燐火りんかちゃん、明日は芽衣子めいこちゃんに謝りに行こう!」

「分かったよテプちゃん。悪い事をしたら謝らないとダメだからね」

「うん?!」


 そういえば、燐火りんかちゃんも僕と一緒なのに、何で僕だけ恨まれてるの?

 なんだか釈然としないな。

 でも芽衣子めいこちゃんに謝りたいって気持ちに変わりはない。

 翌日の放課後、僕達は芽衣子めいこちゃんに会いに行った。

 芽衣子めいこちゃんは物凄く怒っていて、たくさん泣いていたけど、無事に仲直り出来た。

 これで本当の意味で大賢者アクイアス・セッテとの戦いは解決したのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る