第41話 煙たい男

 今日は陽翔はるとお兄さんに誘われて、隣町に潜伏している召喚士を捕らえに行くことになった。

 どうやら正体を隠す気はなくなったようだ。

 召喚士を捕らえるなんて、近所のお兄さんがする事ではないからね。

 だから、今日はいつもの魔法少女の活動が出来ない。

 みんなに連絡したら、しず子さんがついてくる事になった。

 陽翔はるとお兄さんに任せるのは危険だからだそうだ。

 増子さんは残って町を守ってくれるそうだ。

 僕達はしず子さんの運転する車で隣町へ向かった。

 移動中暇だったので、気になる事について考えた。

 何で隣町に潜伏しているのだろう?

 ネクロマンサー死霊使いも隣町に潜伏していたよね?

 召喚士ってなんだろう?

 魔獣とか召喚するのかな?

 しず子さん働いていないのに何で車を持っているんだろう?

 流石に免許は持っているよね……


「ついたよ陽翔はると。何処に潜伏しているか、具体的な場所まで突き止めてるよね?」


 しず子さんが苛立ちながら言った。


「もちろんさ! この先の山の途中に小屋を建てているらしい」

「それで相手の能力は?」

「魔獣を召喚出来るらしい」

「なんでそれしか知らないのよ。危険な魔獣だったらどうするの?」

「その時は燐火りんか先生にお願いしますよ」

「期待してくれて良いのだ! わたしは大魔導士だから!」

「危険だから認めません!」

「まぁ、燐火りんかちゃんがやる気出してるからいいじゃないか。何かあったら僕達で守れば良いって!」

「その慢心まんしんが人の命を奪うのよ」


 しず子さんが怖い。

 慢心まんしんして纏蝶てんちょうさんの両親を死なせてしまった事を思い出しているのだろう。


「そんなにカリカリすんなって。燐火りんかちゃんがビビるだろ? 今は俺様やテプがいる。大丈夫だ。絶対!」

「分かったわよオハコ。それでは行きましょ~」


 まさかのオハコがしず子さんを説得してくれたので、僕達は召喚士が潜伏している小屋を目指した。

 陽翔はるとお兄さんについて行くと、小さな木製の小屋が見えて来た。

 あそこが召喚士が潜んでいる小屋か。

 手作りで小屋を建てるなんて凄いな。

 もうかりそうもない召喚士なんて止めちゃえばいいのに。

 僕達の来訪に気付いたのだろう。

 中肉中背の男が小屋から出て来た。


「ふん! 私を探してきたと言う事は、蝶の手の物か。私がただの召喚士だと思うな」


 召喚士が杖を振り上げると空間にひずみが生まれ、中から一体の魔獣が現れた。

 ライオンの頭に山羊の体、そして蛇の尻尾を持っている。

 僕はこの魔獣を知っている。

 燐火りんかちゃんが持っているモンスター辞典で見たからだ。


「オマイラ!!」

「テプはアレを知っているのか?!」

「急に呼びつけてどうした?」

「それは違うと思いますよ~」

「テプちゃん! あれはキマイラだよ!!」


 魔法王国出身のオハコは僕が間違えた事に気付いていないが、他の3人は僕の間違いに気づいた様だ。

 そうだね、キマイラだよね。

 うろ覚えで言って恥をかいたよ。


「どうやら驚いてくれたようだな。多くの神秘が失われた世界で、これ程の魔獣を呼び出せる存在は私以外に存在しないだろうからな」

「少しだけ時間を稼いでくれ!」


 陽翔はるとお兄さんが走り去った。


「何逃げてんのよ! この卑怯者!!」


 しず子さんが逃げた陽翔はるとお兄さんを罵倒ばとうした。

 しず子さん、彼は逃げていないよ。

 たぶん近くの木陰でガウチョパンツに履き替えていると思うから。


「どうやら恐れをなして逃げたようだな。無様な奴だ。可哀そうだが消えてもらう。あの男も逃がす事は出来ないのでね」

「何か言ってるけど、やっつけていいんだよね?」

燐火りんかちゃん、サクッとやっつけちゃおう!」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を具現化した。


「杖を生み出した?! 危険だな。やれ! キマイラ!!」


 キマイラが燐火りんかちゃんを襲おうと走って来た。

 でも不安はない。

 魔法結界があるから大丈夫なんだよね。


「アロマァ……ディフューザァアアアアア!!」


 怪盗ガウチョパンツが現れ、心地よい香りがする煙をまき散らした。


「なんだこの煙は!! 前が見えない!!」

「敵の攻撃は防いだ! 攻撃するなら今だ!!」


 怪盗ガウチョパンツがドヤ顔で言ってるけど……迷惑だよ!!

 こちらも視界を塞がれ、攻撃対象が見えない。

 元々、敵の攻撃は防げてたんだよ!


燐火りんかちゃん、視界が塞がれたけど、どうするの?」


 しず子さんが心配してくれた。


「しず子さんがいるから大丈夫だよ!」

「私がいるから大丈夫?」


 しず子さんは燐火りんかちゃんが言った事の意味が分からず首を傾げる。

 僕も同じだ。

 燐火りんかちゃんが何を考えているのか分からない。


「後始末をよろしく!」


 燐火りんかちゃんが詠唱を始めた。

 これは広域攻撃魔法の珊 瑚 刺 火コーラルツリー!!


 猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ

 我に仇なす全ての敵を絡め取れ

 出でよ! 樹木の如き生命の花!


蹴散けちらせ! 珊 瑚 刺 火コーラルツリー!!」


 牙の様な鋭い湾曲した無数の劫火の花弁が生まれ、周囲をなぎぎ払った。

 怪盗ガウチョパンツがまき散らしたアロマの煙が消えた後、キマイラが炭になっているのが見えた。

 そして、僕達の周囲は焼けただれ山火事になっている。

 これは一大事だ!


「そういう事だったのね~。お姉さんも理解したわよ。いやしの水~」


 しず子さんがいやしの水をまき、焼けた山を元に戻し始めた。


「わ、私のキマイラが一撃で! 何者だお前らは!」

「それを知る必要は無い! スチィィィィィィム! クリィーナァー!!」


 怪盗ガウチョパンツがスチームクリーナーで召喚士の男を攻撃した。

 あっさり捕まる召喚士。

 そんな攻撃で倒せるんだね……

 ダサくて役に立たなくても、一応今まで平和の為に活動してきた実力者なんだよね。


「困った事があったら、いつでも頼ってくれ! それでは、さらばだ魔法少女!」

「今困ってるのよ。手伝うなら今だから!」


 しず子さんが去ろうとした怪盗ガウチョパンツの腕を掴んで、いやしの水が入ったじょうろを渡した。


「どういう事だ?!」

「お前は俺様のしず子お手製のいやしの水で山を元に戻すんだよ。全部直せよ」


 オハコが偉そうに言った。


燐火りんかちゃん、僕達は先に戻ろうか?」

「うん、折角隣町に来たからお店を見て回ろう!」


 僕達はしず子さんとオハコに働かされている怪盗ガウチョパンツを見捨てて商店街へ向かったのであった。

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