単騎強襲
カイルの殲滅目標となるタナム陣地はドーソン達と別れた場所から森をいくつかアカカマ方向へ向かって超えた先にある。カイルは、夜の闇が黒くたっぷりと広がる森の中を目的地のタナム陣地へ向けわざと大きく迂回をしてツァリアスを進めていた。
「できる限りドーソン達が通る道筋より遠くに。」レーダーは発見される危険性があるので使えない。熱感知カメラと夜間戦闘用カメラの視覚情報、さらに集音装置からの音響定位情報を頼りに視界の効かぬ森の中を進んでいく。
「前線からは大分距離がある。斥候はいないとは思うが。用心するに越したことはないな。」カイルは時折ツァリアスの足を止めて機体の姿勢を下げて周囲を確認してジームダル、アラキバマ両陣営の斥候がいないかを注意深く確認しながら歩を進める。
カメラとモニター、そしてゴーグルを経由して眼と耳へ送られてくる種々の情報と傭兵の勘を使って目的の戦場へと徐々に距離をつめていく。
暗い森、暗夜の中をただ一人進んでいく。集中しすぎているのだろう自分の視界、視野が狭まっているのを感じたカイルは目をリセットするため手元の地図へと目を移す。森の中に入ってから進んだ体感の距離と地図の縮尺を一致させて自分が今いる場所を地図上に推測する。
「そろそろ、タナム陣地の熱源か光源の反応あたりが見えてもいいはずだが。」確認した位置情報からしてそろそろ陣地だろうと目算を付けたカイルが目を戻したモニター上では熱感知カメラが冷え切った青色の森を映し続け、夜間戦闘カメラに割り当てたモニターには二つの衛星に青々と照らされた森が灰色に映り続けているだけだった。
眼をリセットし方位を修正して移動を再開し、ほどなくして寒々しい熱感知カメラの闇の中で小さな点がポッと色を緑に変えた。
「あそこか?」カイルはツァリアスを止めて姿勢を下げると夜間カメラと熱感知カメラの倍率を上げる。カメラの映像は、すっぱりと切られた森とその先の開けた空間を映す。その向こうには明らかに人工的である四角い影が映り、タナム陣地の建屋の輪郭がはっきりと見えた。
「測距と現在の位置からするとあの構造物があるあたりで間違いないな。あそこだ。」カイルは突撃機銃の擲弾筒に擲弾を込めて、タナム陣地へとにじり寄っていく。
「ドーソンからもらった陣内の情報と突き合わせると兵舎と思しきはあれか。」
カイルはドーソンからもらった情報と符合した兵舎とおぼしき建屋の窓目掛け先制の擲弾を撃ちこむ。
ドウっと赤い爆発が起きて建屋が火と煙を噴き、タナム陣地を戦火の橙色に染め始める。
カイルはよどみなく擲弾の再装填を行って二発三発と兵舎に数ある窓に目掛けて立て続けに擲弾を撃ちこみ兵舎をまんべんなく火に包んでいく。数度の爆発で火勢を増した爆炎の光が踊る様に陣地内を照らしていく。
だのにいまだ陣地そのものは静かで、ただ響いているのは燃える火とカイルが撃ちこむ擲弾の爆ぜる音だけだった。その状況からカイルはすぐさまタナムの状況を推し量る。
「探照灯がつくのが遅い。周囲への警戒が薄すぎるな。作戦中だというのに。これならまだいけるか。」陣地部隊からの迎撃が始まるまでまだ猶予があると直感したカイルはツァリアスを移動させある設備を目指す。それは通信アンテナ。他の基地への救援要請や状況の伝達は断てるのであれば優先して断ちたかった。ほどなくとらえた特徴的な形状をした通信アンテナの本体目掛け擲弾を撃ちこみ即座無力化させる。さらなる優勢を稼ぐために別の建物、指揮所や格納庫と思しき建屋など目につく建物目掛けてカイルは擲弾を次々と撃ちこみ破壊を続けていく。
そこまでしてようやくとタナム陣地は目を覚まし騒ぎだす。建屋の屋上に供えられた探照灯がその眼をカッと見開いて機能を始め、煌々とした明かりでヘビが這うようにぬらぬらと辺りを照らして襲撃者を探し始める。
迎撃が始まったことを認めたカイルは擲弾筒に発煙弾を装填し陣地奥目掛けて目立つように高く放つ。陣地奥へ向かう煙幕弾の軌跡と、それが濛々と立ち上らせる煙に気を取られた探照灯群が一斉にそちらへと向く。
カイルはその中から位置が把握できた探照灯を闇の中から突撃機銃でもって一つ一つ撃破していく。
「目を奪わなければな。」次々と探照灯を潰し、カイルは陣地そのものをまた闇の中へと沈めていき音響索敵へ注意を向ける。音響索敵はまだ、
「乗り手の宿舎や格納庫をつぶしたとているはずだ。動ける
カイルは陣地の外から中の建物目掛けてなおも丹念に擲弾を撃ちこみ陣地を火で包んでいく。機体の集音装置と音響索敵が
「起きたか。」音声分析が告げる機体名はツァリアス。状況確認のため開放しているジームダル
「ここからだ。」カイルは機体の脚元を隠すために発煙弾を陣地内へ次々と撃ちこむと自機のホイールを唸らせて一気に敵陣へと突っ込んでいく。
「上は同じツァリアス同士だ。脚さえ隠せてしまえば。」飛び込んだタナム陣地。カイルの目の前に一機起き上がっている陣地の
「煙幕の揺らぎ。右か。」吹きだまる煙幕の動き方から右手に何かいると判断したカイルは今しがた撃破した
「次は?」カイルは機体を止めないで次の敵を求め動き続け、そのまま陣地内を真向かいへと突っ切る様に走り続ける。
不意に左手建屋から敵機のツァリアスが飛び出てくる。それは、走行しているカイルの機体の前へ立ちふさがる様に現れた。
「!」カイルの反応が遅れる。わずかに。やられるかとカイルの血が冷える。
だが、その敵機は攻撃行動にはうつれなかった。
攻撃行動が取れなかった。
現れたタナムのツァリアスは煙幕の中走ってくるカイルのツァリアスの顔を視認はした。
確かにした。
そのカイルの機体、ツァリアスの顔をツァリアスだと。
しかし、そのタナムの兵はその目の前を走るカイルのツァリアスが迎撃を行っている友軍機か、襲撃者かどうかを即座には判別できなかった。そもそも彼は、友軍機であるツァリアスに自分たちが攻撃を受けているとはつゆほどにも思わなかった。
目の前のタナムの兵が躊躇したその一瞬。カイルはそれを逃さずに走る自機を左に寄せると左前脚を持ち上げつま先をとがらせ、そのタナムのツァリアスの操縦席を鋭く蹴りつけ撃破する。カイルはその場で機体を反転させ、右手に持っている先ほど分捕った突撃機銃をツァリアスの出て来た建屋の中へと撃ちこむ。右手をふさいでいるその機銃を即座に投棄して機体の駆動輪を唸らせ陣地を突っ切っていく。カイルは鹵獲した突撃機銃を捨ててまで空けた右手で前脚のマウンタに据えられた煙幕弾をつまみ出して流れるように装填すると薄くなり始めた煙幕を濃く張り直す。陣地内に広く煙幕を張り、その中を絶えず移動をし、自らの駆る
集音装置が左に音源探知した旨をゴーグルに送ってくる。
「左。角。」カイルは走行方向を維持したまま上半身をねじり、角の向こうにいるであろう敵を正面に捉えにいく。
煙幕が盛り上がりジームダルの
「4。聞いていた陣地の規模からするとまだいるはずだが。」カイルは通信内容に耳を向ける。
向こうからダダ漏れで来る通信ではいまだに襲撃者を特定できない旨が流れている。何故陣地のツァリアスが破壊されていっているのかすらいまだタナムの兵は把握できていないようだ。
「そこを走るツァリアス!状況を報告しろ!!」カイルの機体にまで通信を飛ばしてくる始末である。
「敵は
胴と脚部を隠す煙幕を切らさないように振り撒きながらカイルは陣地内を縦横無尽に駆け回り破壊をつづける。建屋の間から少し開けた場所に抜ける。ツァリアスが二機周囲を警戒する様に頭を振っていた。
「見つけた。」カイルはそのツァリアスめがけて銃の仰角を取らず擲弾を地面に転がすように撃つ。
立て続けの二つの爆発。通信に悲鳴が乗り、片方のツァリアスが擱座する。
「一機仕留めそこなったか。」通信のいとまを与えないために、残った方の上半身、操縦席目掛けどてっぱらから突撃機銃を素早く撃ちこみ口をふさぐ。燃え上がる二機を後にカイルは次の獲物を探すために機体をその場で転回する。ぐるりと見まわした陣地内、一つの建物を認める。遠目からでも大きな扉が開いていくのがわかる。その扉の形と開き方からカイルは建物の種類を類推する。
「まだ無事な格納庫があったか。」カイルはその建物へと接敵し、擲弾を扉目掛けて数発転がすように撃ちこみ格納庫の内容物の出撃を抑止する。燃えあがる出入り口を無視して建屋を横へと回り込み明り取りの窓を突撃機銃で派手にぶち破り銃撃を建物の中へ弾をぶちまける。格納庫内を所狭しと跳ねまわる機銃の弾丸に混乱を来す建物の中にさらに擲弾をも撃ちこみその格納庫の機能を完全に殺してしまう。そのままカイルが建物を裏へと回り込むと格納庫の裏口から半壊のツァリアスが一機、扉を蹴散らしながら飛び出してくる。
「やはり格納庫だったか。」カイルは、機銃でもってその死に掛けにとどめを刺すとその燃え上がるタナムのツァリアスを飛び出してきた格納庫へと押し戻す。
「いる機体はやはりツァリアスばかりか。まぁ、それの方がありがたい。」カイルの攻撃によりタナム陣地はまるで朝焼けが早訪れたかに真っ赤に染まり切るほどに火災が広がっていた。
「少々やりすぎたか。これでは煙幕が散るな。」カイルはまだ暗い場所へと機体を向ける。その進路にまたツァリアスが飛び出してくる。飛び出してきたツァリアスは銃を構えていた。明らかにカイルへの殺意をもって。
「!く。だが、流石に多い。」慣性のままに移動する相手と反対に機体の舵を切って射線を避ける。カイルの横を銃弾が列をなして飛び去って行く。
「逃がしてはまずい。」
カイルはペダルを強く踏み込みすぐさま敵機へと躯体を寄せ、押し倒すように自らの機体をぶつける。
激しい衝撃に敵機の足が止まる。そのわずかな隙、カイルは密着した敵の脇の下に突撃機銃を押し当て、わき腹向こうにある操縦席のパイロット目掛け接射する。撃たれた敵機はボゥッと炎を上げるとその上半身を爆裂させ操縦席の中身ごと夜空を吹き飛んでいった。
「大分殺ったが通信している人数からまだ残りがいる。このまま、何もさせずに全滅させたいところだな。」カイルは錯綜している敵兵の通信を聞きながら獣兵が現れれば獣兵を相手し、でなければ擲弾を建屋に撃ちこみ続け、陣地の何もかもを灰へと変えていく。
その最中、通信の中で流れて来た言葉。“ゴライエを出せ”と言う言葉にカイルの操縦がわずかによどんだ。
「拠点制圧用の
今、彼が乗っているツァリアスよりも大きい
そのサーデュラスよりもさらに大きい
その大きな躯体は威圧感と圧倒感の具現化だった。
敵拠点を面で制圧するために上半身を覆うように据え付けられた誘導弾や墳進砲、大型の突撃機関砲などの大量の重装兵装に裏打ちされた兵器として圧倒的な火力。
戦場滞在性を上げるために全身に施された分厚く硬い殻の様な装甲。
それらの巨大質量の移動を支えるための大出力、高トルクの動力源、大木の根の様に太く節くれだった脚。
もはや、
「だが、今はそいつをどうにかして撃破しなくてはならない……が、どう攻めるか。」カイルはゴライエを自分単騎で撃破することができるか。あるなら、するならその方法は?と頭の中の知識と経験を探る。
ゴライエという規格外の
巨大かつ重厚な見た目と圧倒的な火力の力感で戦場に絶望を振りまく機体。
無敵のように見えるゴライエ。
しかし
ゴライエが抱えている弱点。それは、そのサイズと重量からくる
「だとして。それを、そこを突いたとしてもあの分厚い装甲殻だ。アレを突撃機銃だけでどうにかできるか?」操縦席で考えを巡らすカイルのツァリアス。周囲を索敵している集音装置がその位置を告げるまでもなく、けたたましい
件のゴライエが起動したようだ。
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