第4話:終りの決断

 シアンの船が宇宙船エルに取り付いた。


そして、シアン・シルスは、サラ達の前にやって来た。宇宙船エルの格納庫からシアンは、入ってエレベータを使い、迷う事無くサラ達が居る艦橋までやって来たのだ。


「お前は、本当に古代人なのか?僕は、お前を知らない。古代人なら、僕が知らないわけが無い。お前は、何者だ!?」


「…………」


シアン・シルスがエルの前に立って最初にそう言った。


エルは、それを無言で見つめる。


「話すつもりが無いのか? お前をラー様の所に連れて行く! この船と一緒にね。その後で良いから教えてもらうよ」


「古代人が何だって言うんだ! 一人で何が出来るって言うんだ!?」


サラは、あまりにも一方的すぎるシアンの言い方に腹を立ててそう叫んだ。


「よせ! サラ!」


「この船に……この時代の人間が乗っているのか? 古代人を知らない? その言葉、古代人を知らないのだな!?」


シアンがエルの斜め後ろにいるサラを見て鼻にかかる様な笑みを浮かべた。


古代人の事をあまり知らないサラであるから古代人であるシアンを挑発する様な事を平気で言えるのだ。ガスタルディーは、古代人の凄さを知っている。その古代人の噂話には、尾鰭が付いていたりするがそれを差し引いても信じられない話ばかりである。


古代人が一人で100万の兵を倒したとか。一撃で一つの国を滅ぼしたとか。古代人には、この世界のいっさいの魔法が効かないとか。そんな普通では、考えられない噂が古代人について語られているのである。


それを知っているガスタルディーであるから、シアン・シルスのことを少年であるが恐ろしいと思う。


そしてそのシアンに文句を言ったサラが心配でならなかった。


「エル、貴方は、僕の船に来てもらう。僕の船からこの船を動かせるはずだよ。それで、ここに居る現在人は、邪魔になる。現在人には、興味がないからこの船から投げ出してやる!」


「やめなさい! そんな事をすれば……死んでしまうわ! この人たちを地上におろしてあげて」


「なにも殺すなんて言っていない。この船からいなくなれば、それで良いんだ」


シアンが落ち着いた様子で言った。


サラとガスタルディーが顔を険しくするとエルがシアンの前に進み出た。


「覚悟が出来たという事か? なら、僕の船に案内するよ」


シアンがそう言うとエルがコクリとうなずいて見せた。


それを見たシアンがサラ達に背を向けて艦橋から出ようと歩きだした。


その後をエルがゆっくりと付いて行こうとする。


「エル! 行ってしまうのかい?」


「サラ……ごめんなさい。私、彼と行くわ」


エルは、声をかけたサラに振り返り寂しそうに言った。そして、シアン・シルスの後につづきエルは、艦橋を出て行くのだった。サラは、思い出していた。エルが自分に言った事を、エルの目的を、そう彼女は、ラーに会いに行くと言う目的のためだけに生きていると言ってもおかしくないほどそれに執着していた。そのための手段があるのなら、彼女は、何だって利用するだろう。そして、エルは、サラ親子という手段よりもシアン・シルスという手段を選んだのだ。サラにとって、それは、不愉快で裏切られた様な気分だった。


なんだかんだ言っても結局自分を見捨てたエルが恨みがましかった。


「サラ、まだ終わってないぞ! 終わってない!」


「父さん!?」


サラは、父ガスタルディーに向かって静かにそして力強くうなずいて見せた。


すぐにサラは、エルの後を追いかけた。


『行かせは、しない。このまま行かせるものか。僕がエルを目覚めさせたんだ』


サラは、何度も心の中でそう叫んでいた。


そして、その心の叫びがしだいにサラの口を動かし、喉を震わせた。


「エル! 駄目だ! 行っちゃ駄目だ! こんな事じゃ駄目なんだ! 僕は、……僕が君を目覚めさせたんだ!!!」


サラのその言葉が空気を切り裂く槍の様にエルの胸に突き刺さった。


何度も繰り返してその言葉叫ぶ自分がわからないとサラは、思っていた。しかし、叫ばずにはいられなかった。シアンとエルがエレベータに乗り込んで閉じてしまった扉を殴りつける様に叩くサラ。何故、こんな事をするのか。


何故、涙が溢れ出てくるのか。


サラは、わからない、自分がとった行動が信じられなかった。


かすかにエレベータの中で居るエルとシアンのもとへサラの叫び声が聞こえてきた。


「サラ……」


エルは、狭いエレベータの中で静かに目をつぶりそう呟いた。


「フン……うるさい奴だ!」


シアンが鋭い顔つきで呟く。


「シアン? やっぱり私気が変わりました」


エルは、唐突にそして笑みを浮かべてシアンに顔を向けた。


「なんだ? 今更、行かないって言うのか? いや、僕は、君を連れて行くよ。君の意志に関係なくね」


シアンがエルの方へ振り向きキッパリとそう言いきった。


するとエルは、うつむいて下を向くと静かに口を開くのだった。


「やはり……力ずくで戻るしか無いのですね」


エレベータの狭い空間の中でエルとシアンが睨み合い、殺気が渦巻いた。

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