鉱山都市編
第39話 復讐の炎
全てがうまく行っていると、思っていた。
しかし、そんなものは長く続かない。
転生する前も、転生した後も――。
それからの情勢の変化は早かった。ロックス率いる傭兵団らしき軍団が魔晶石鉱山を襲ったという噂が駆け巡った。リックの言った通り、魔晶石の供給が断たれたため、大商人マルコーは魔晶石の値段をつり上げることに決めた。
ディバンは大混乱に陥った。魔晶石は生活の基盤となる魔力の供給源だ。魔晶石がなければ、灯りからお湯、氷の供給、全てが滞ることになる。
俺はビアンコ古物商店に赴いた。
「よく来たの」
ビアンコ爺さんは相変わらずの飄々とした口調で、港を題材とした背景画に絵筆を走らせていた。
「大変なことになった。ビアンコさん」
「知っておる。あのロックスという男は、魔晶石をエディフィスに流そうとしておるらしい。その目的は、言うまでもない。しかし、国王教皇の目的はディバンの都市国家としての国力の低下、ひいては戦争じゃ」
「戦争?」
「ディバンを手中に収めたいのじゃろう。その国王教皇という奴が、なかなかに評判が悪くてのう。平たく言えば、重税と厳罰を基本としておる。もしディバンが落ちるようなことがあれば、自由なこの都市の空気は一変するじゃろう」
「そんな……」
「ギルド協会会議も、結局何の結論も出せずじまいじゃ。こちらが討伐の冒険者集団を送り込んだところで、それがきっかけで戦争が起きる可能性があると、協会長がの……」
このままでは、エリーシェを、ルーナを、リンを、守れない。クレド商会も終わり、この都市の人々も苦しめられる。
「既に人々は大混乱。元々魔晶石を買い込み、反感を買っていたマルコーがどうなったか知っておるか?」
「どうなったんだ?」
「魔晶石が供給されないと知って、値段をさらにつり上げたマルコーの倉庫は暴徒に襲撃され、屋敷にも火が放たれた」
あのマルコーが襲われたとは初耳だ。
「であるから、わしらがいつその二の舞になるとも限らん」
ビアンコは絵筆を置いて腰を伸ばすと、茶を入れ始めた。
「もはや魔晶石の輸出などというレベルの話ではない。ロックス率いる軍団を何とかしなければ俺たちは終わりだ」
のれんをくぐって現れた長身の男。ウォルゲイトの表情は厳しい。
「ビアンコ商会は適正価格で魔晶石を売り出しているが、それも闇で転売されて価格はつり上がっている。もうじきに、売り出すこともできなくなるだろう。陰の国とは次はガレオン船三隻分の魔晶石の貿易の手筈が整っていた。時間はそう多くない」
ウォルゲイトは俺を見ている。クレド商会の分水嶺を、俺に託している。ならば、やることは一つ。
「二人には、助けてもらった恩義がある。だから……」
俺はダークアイマスクをつけた。
「俺が迅雷のロックスを、潰す」
これはただの復讐ではない。
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