第8話 脱走劇
「わかったよ、大人しくする。降参だ」
エリーシェを衛兵隊に引き渡す。同時に、俺は組み伏せられ、後ろ手に縛られる。
「クレドさん! クレドさん!」
「安心しろ、後で迎えに行く」
そうは言っても、今後の策なんて皆無に等しい。俺は犯罪者として牢にぶちこまれ、冒険者稼業もストップだ。
「連れて行け!」
市中を引き回されるというのは気分のいいものではない。エリーシェの声が遠ざかって行き、俺はやがて陰気臭い建物の中に放り込まれた。
「お前は誰だ? この辺りの者ではないようだが」
尋問室のようなところで取り調べを受ける。小さな窓には鉄格子がしてあり、手は相変わらず縛られている。
「俺はクレドです。前世では、八坂暮人って名前でした。転生者です」
行っても信じてもらえないか、精神異常者として扱われるのがオチだろう。
「お前の罪状はこうだ。先日、花売りの少女をさらい、通行人にケガを負わせた」
あのチンピラ共がただの通行人とは片腹痛い。
「少女の父親から娘が帰ってこないと申し出があった」
そして、聞き込みなどの情報から俺が浮上した。
悲しいかな、無職から犯罪者に格下げだよ。
「お前は、冒険者だな。ギルド協会に言ってライセンスは無効にしてもらう。処遇は追って伝える」
そうして俺は全てを失い、異臭漂う薄汚い牢にぶち込まれた。
あーあ、やっぱ抵抗するべきだったかなあ。
しかし、今更後悔してももう遅い。石壁は壊せないし、鉄格子だって抜けられない。
終わった。短い転生生活だったよ。
「兄ちゃん、おい隣の兄ちゃん」
ストレスのあまり幻聴が聞こえ始めた。最悪だ。
「おい! 聞いてんのか! 黒づくめの死んだ目の兄ちゃん!」
それは俺が背中を預けていた隣の独房から聞こえていた。
「死んだ目は余計だ」
「あんたさあ、いい装備してんじゃんよ。それに、骸のゲーダスをやったんだろ? 知れ渡ってんぜ」
「骸のゲーダス?」
「盗賊団ウロボロスの一員だ。頭を刈り込んでて、腕に入れ墨のある大男」
「ああ、あいつか」
太股に銃弾を一発ぶちこんでやったら悶えていたチンピラを思い出す。あいつ、盗賊団だったのか。
「あんた、強えんだろ? 俺の味方になってくれよ」
「俺は弱いぞ。ただのLv5の魔法使いだ」
「そうかい。俺は冒険者ですらないね。強いて言うなら情報屋さ」
「情報屋?」
「俺と繋がっておくのは、悪くない選択だと思うぜ。ま、お前さん次第だがねえ!」
気のいい奴だから相手をしていたが、だんだん面倒臭くなってきた。
「要件は何だ?」
「俺はリック。あの少女を救いたいだろう? クレドさん、さ」
「お前の言うことを聞けばエリーが助かるのか?」
「まあそれは、ここから出た後で考えようぜ。出たいだろ? さすがに。ろくな飯出ねえぞここ」
まあ、こんな辛気臭いところはさっさと出たいが。
「わかった。俺は何をすればいい」
「俺は縄抜けとピッキングができる。脱獄回数もそれなりにある。ただし、俺は弱い。だから協力者が必要なのさ、黒づくめの旦那」
隣の鉄格子からカチャカチャと音がする。そして、キィ、と扉が開く音がした。
「やあ旦那、さすがにいい男だね」
そこに立っていたのは過去最大級に胡散臭い男だった。ポンチョのようなマントを着込んでいるが、ズボンはよれよれで汚い。麦わら帽子をかぶり、目にはサングラス。その奥から三白眼がこちらを値踏みするように見ている。
怪しさMAX。
「今開けてやるからさ」
リックはピッキングをして錠前を外し、俺の拘束も解いてくれた。
「衛兵は今、交代の時間だ。武器を取り戻すなら今だぜ」
そのためには、地上の衛兵駐屯所に行く必要があるということか。大変なことになってきた。
「さあ、旦那。俺が死なないように守ってくれよ」
「自分の身は自分で守れ」
そう言って階段を駆け上がる。
「待て」
衛兵の待機所に、人がいる。ポーカーをして賭けを楽しんでいるようだ。
人数は三人。素手では相手にできない。
「俺の武器とステータスカードを奪ってこい、リック」
物陰に隠れながら言う。
「承知したぜ」
『ディープフリーズ』
まずは松明の炎を氷で包んで消した。暗闇に包まれた室内で目が慣れない衛兵。サングラスを外したリックがささっと俺の武器を奪ってきてくれる。
「取って来たぜ、旦那」
「やるじゃないか」
俺は拳銃をホルスターにしまうと、駐屯所の出口へと向かう。
「うまく行きやしたね、旦那!」
「喜ぶのはまだ早い!」
出口を抜け、衛兵駐屯所の門へと向かう。
「何事だ!」
「脱走者がいるぞ!」
門番の衛兵が槍を持って突っ込んでくる。
「おおっと、そんな危ないもの振り回すなよ」
衛兵の足元にディープフリーズで氷の塊を張ってやる。
重い鎧を着た兵士たちはすっ転んだ。
立てなくなった兵士たちを尻目に、俺たちは一目散に裏路地へと逃げ込む。
「旦那、すげえぜ」
「お前もな……」
こうしてリックとの奇妙な脱走劇は成功した。
「報酬に、俺は情報をやるぜ」
「情報? 一体どんな?」
「旦那のためになる情報でさあ」
そう言ってリックはにやりと意味深に笑った。
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