第33話 妹の想い

 田舎の道で陸が携帯で電話をかけていた。


「あ、もしもし、瑠璃ちゃん。今、友助が異能の施設から抜け出してきたんだよ」

『えっ、そうなのお兄ちゃんに変わって陸さん』

「分かった分かった。友助、瑠璃ちゃんがお前の声を聴きたいんだとさ」

「分かった。携帯貸してくれ陸」


 携帯電話を陸が渡してきた。久しぶりの妹との会話だった。


「もしもし、瑠璃、元気だったか」

『心配で心の方が元気なかったよ。家に帰って来てくれる?』

「今ちょうどその話をしていたんだよ。今から家に向かうから、後、女の人も来るからよろしく」

『女の人?まさかお兄ちゃんに恋人がついにできたの』

「そうだよ」

『嘘、嘘だ。信じてたのに』

「何かおかしいことでもあるか。後信じてたってなんだ」

『何でもないです......」

「分かったじゃあ、俺は家に向かうよ。その女の人だけど鈴見千尋っていう女の子でね」

『もういい。お兄ちゃんなんか知らない』


 電話が切れてプープーという音が鳴る。何が妹の怒りに触れたのかこの時の俺は分からなかった。


「おい友助、話は終わったのか」

「一方的に切られた。千尋の話をしようとしたらね」

「お前、ああ、まあいい。とにかく瑠璃ちゃんと後で仲直りしろよ」

「ああ、仲直りして千尋を恋人として紹介する」

「お前なあ。少しは瑠璃ちゃんのことも考えてあげろよ」

「考えてるさ。記憶が他の人たちは戻らないのなら妹だけが俺を認識してくれる家族さ。家族に恋人を紹介して何が悪いんだ」

「......もういいや、瑠璃、頑張るんだぞ」


 陸は呆れた顔をして説得するのをやめた。


「友くん、もしかして妹さんって友助くんのこと好きだったりしない」

「そんなことは多分ないんじゃないか、妹だし、俺は瑠璃が俺を好きだとは思ってないぞ」

「......いわれたから言っていいか。瑠璃は恐らくお前のことが好きだぞ、じゃなければ恋人ができたことにそんなに動揺しないだろう」

「マジかよ。全然気づかなかったわ」

「で、どうする。鈴見千尋。あんたは行くのか」

「行きたいけど、トラブルになるなら行かなくても」

「いや、行かせる。俺が千尋と瑠璃の仲を深める手伝いをする」

「分かったよ。そこまで二人に仲良くしてほしいのならお前が頑張れ友助」

「任せろ」


 俺は、妹の瑠璃が俺を好きだと思っているなどとは思ってもいなかった。だが、何とかして恋人の千尋とも仲良くやっていく方法を探っていきたいと思った。


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