第13話 料理

 シアがギューイ公爵家に来てから数ヵ月。


 部屋の片付けや掃除はあらかた終わり、新築とまではいかないものの、人を呼んでも問題ないくらいまで綺麗になった。

 そのおかげでシアが来たばかりのときに比べてかなり過ごしやすい家になり、蜘蛛の巣や煤などもなくなって、澱んでいた空気から一変して風通しがよくなった。


 アトリエも準備するのに思いのほか時間はかかったものの、空き部屋の荷物を片付け、掃除し、新たにイーゼルやキャンバスなど運び込んで無事にフィオナに用意できた。

 画材に関しては、古かったのか酷使したせいか、どれもこれもあまりにぼろぼろだったため、シアが見かねてフィオナに新しいものをプレゼントした。

 最初こそいらないと突っぱねていたフィオナだったが、シアが「これで描けばさらに上達するわよ」「これで私の絵も描いてよ」と何度も何度もアタックした結果、根負けしたフィオナはなんとも言えないような顔をして俯きながら、小さく「ありがと」と言ってくれた。


 そして、シアが来てから何よりも問題だったのは食事作りだ。


 最初に宣言した週一料理の手伝いはなんだかんだと実行されたのだが、それはそれは大変だった。


 特にセレナだ。

 今まで料理らしい料理はしたことがないが、やればできるから大丈夫だと言い張っていた彼女に一抹の不安を覚えながら料理作り初日。


 人参の皮剥きを頼んだというのに、いきなり包丁を振り上げたセレナを見てシアが絶望したのは記憶に新しい。

 すかさず彼女の腕を押さえてことなきを得たが、これはどうにかしないとと丁寧に基礎である持ち方から切り方を教え、火加減や調理時間などつきっきりで教えた。


 さすがに初日の料理はつきっきりで教えたとはいえ、出来栄えで言えば誰もが無言になるレベル。作った本人でさえ、「これを私が作ったの……?」と絶望する何か黒い物体ができた。

 セレナやフィオナはもちろん、アンナでさえも苦笑しながら食べなかったが、レオナルドは衝撃的な見た目に言葉を失いつつも、セレナが作ったということで一口だけは食べてくれた。

 その後は無言で手付かずであったが。


 けれど、何度も根気強くやっていくうちにだんだんとコツが掴めるようになったらしく、最近では目玉焼きと玉子サラダはセレナ一人に任せても焦がさず、味もおかしくないものが出せるようになってきた。初心者レベルの料理と言えど、かなりの成長だろう。

 まだまだ目は離せないが。


 フィオナに関しては想定外だったが、刃物の使い方はとても上手だった。

 どうやらフィオナは絵画だけでなく彫刻などにも手を出していたらしい。彫刻刀などを使うときと感覚が似ているのか力加減が絶妙で、野菜の皮剥きから飾り切りまでできて、シアが感心するほどだった。


 しかし、火加減や味付けが絶望的に悪く、見た目はとてもいいのに生焼けだったり極度の薄味だったり。これは感覚の問題だったので、毎回計量器で量を計ってやるように指導したことでだいぶ改善された。

 とはいえ、目を離すとアレンジしたがる癖があるようなので、こちらも目が離せないのだが。


 とまぁ、やはり料理は月一ではなく週一でよかったと改めて思いながら、シアは日々奮闘していた。

 この調子で続ければ、貴族学校を卒業する頃にはどこに出しても恥ずかしくないレディになるはずだと信じて。

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