第124話 王都商業ギルド
数日たって調査の途中結果が出た。話によると、何とか男爵って評判の悪い貴族が運営資金を着服してるらしい。ただ、その男爵には単独でそんな事が出来る程の力はないからその後ろにまた別の貴族がいるんじゃないかーって言っていた。それが誰なのかは調査中だけど、まぁ十中八九何とか侯爵だそうだ。貴族の名前は覚えられない。
男爵の名前を聞いた時もリリは嫌そうな顔をしていたけど、侯爵の名前が出た時は報告に来た影の人睨んでるのかってくらい不機嫌そうだったね。
「派閥的にはベルレアン辺境伯家とは敵なんでしょ? 暴れてみてもいい?」
「ダメですわよ。結局今の所証拠がある訳じゃありませんもの。もっとも、マルリアーヴ侯爵が裏で糸を引いるんだとしたら証拠なんて出てこないんじゃないかしら」
「よく分からないけど貴族ってのも大変そうだね。じゃあとりあえず暴れるのはしないけど、援助はしてくるよ。それくらいは平気でしょ? 私個人でするしさ」
「……そうですわね。でもあまり大事にはしないでくださいましね」
大事ってのがどの程度の事かわからないけど、なんか上手いことあの子達に仕事させてあげればいいと思うんだよね。海外だと子供がレモネード売るってのは良くあったし、同じように何か販売すれば良いんじゃないかなと思ってる。
そしてそれをするには商業ギルドでの許可が必要だから早速行くとしよう! 思い立ったが吉日だ!
人伝に商業ギルドまでやってきた。御屋敷の人は送っていきます、なんて言ってくれたけどなんか気まずいしね。シャルロットと昔のサイズのゴレムスくん引き連れて歩いてきた。
シャルロットは普通のキラーハニービーと同じくらいに小さくなっちゃったから私にベッタリだけど、ゴレムスくんは大きくなって余計に庭から動かなくなったからね。動かざること山の如し過ぎて死んでるのかと思った事があるくらいだよ。
王都の商業ギルドはやっぱり歴史が古いのか、木造の大きな建物をしている。イメージ的にはこの国の商業の中枢で、商人達憧れの場所だと思う。
取り敢えず、中に入って受付に並ぶ。
「お待たせしましたー。お次の方どうぞー」
「あの、営業許可みたいなの欲しいんですけど。あとこれ」
私は受付の人にとある物を提示した。それが何かと言うと、アダマンタイト製の私のオリジナルのロゴだ!
ゴレムスくんのコアに見立てた陰陽師みたいなマークの上に、シャルロットのシルエットを重ねたデザインで、基本的に私の作った物なんかにはこのロゴを入れるようにした。
辺境伯領でオープンしてるスイーツショップにもこのロゴは使っているし、セラジール商会で売り出してる妖精関連の物にもこのロゴを使っている。
フレデリック様の話によると、このロゴは下手な貴族の家紋より力があるんだってさ。だから当然商業ギルドにも認知されていて、フレデリック様が商業ギルドで用がある時は出すと良いよって言っていた。ただ、私自身はイマイチどれくらいすごい物か理解しておらず、出したらどうなるのかもわかっていない。
受付のお姉さんはこのロゴを見た瞬間顔色を変えて、愛想など無くしたように真剣な顔付きになった。
「お嬢様、これ勝手に持ち出したらお父様に怒られますよ?」
「……え? いやこれ私の……」
「良いですか? 今や多くの貴族や商人がその紋章が付いた物を欲しがるんです。それアダマンタイト製だから本物でしょう? 早くしまって下さい。誰かに見られでもしたら取られてしまいますよ」
「あ、はい……」
「いいですか? お忍びなのかも知れませんが、ちゃんと護衛を呼んでその紋章は出来るだけ早くご両親に返却してくださいね? 本当に大変な代物なんですからね?」
「……いやあの、お忍びって言われても私貴族じゃないし。あ、そうだほら! この子とこの子! これでどうです?」
「……!? た、大変失礼しました!」
私がシャルロットとゴレムスくんを受付のお姉さんに見せると受付のお姉さんは慌てた様子で頭を下げた。それはもう、うつ伏せで寝たんじゃないかと思うくらいに深々と頭を下げた。お姉さんのそんな様子にシャルロットとゴレムスくんはどこか誇らしげに見える。シャルロットはおしりを鳴らして、ゴレムスくんは胸を張った。
本人が来ても信じて貰えないのに、シャルロットとゴレムスくんで信じてもらえるなんて、ロゴに私を示す何かを入れれば良かったかなとちょっとだけ後悔してしまったよ。
お姉さんはここでは不味いのでと個室へ案内してくれた。
「それで営業許可が欲しいとの事ですが、まさか……?」
「ええ。スイーツショップミズキ王都出張所をやろうかと」
「キャー! 王都中の女性が心待ちにしていましたよ!」
「そうは言っても場所はないし、あくまでもお試しで臨時って感じです。あの大っきい孤児院に協力してもらって開くんですよ」
とは言ってもまだおばあちゃんに許可も貰ってないけどね。別に私腹を肥やすためにやる訳じゃないし、当然売上の一部を孤児院の運営費に当ててもらうから断らないと思う。断られたらもう知らん。
「あそこですか……。あそこは曰く付きなんですよね……」
「何なんですか?」
「ここだけの話ギルマスの指示で、あの孤児院の土地の売買は全てギルマスが直接担当するって事になってるんですよ。噂だとどこかの貴族と結託して何かしてるって話です」
「でも今回は土地の売買じゃなくて、そこで屋台みたいなのやるってだけだから関係ないですよ? まぁでも無理に許可くださいとは言いません。ただ、これは王都でお店を開くかどうか決める為の試験なのでそれが出来ないなら」
「はい、これが営業許可です!」
お姉さんは私が最後まで言い切る前に営業許可をくれた。しかもこれ認定の判子は押してあるけど、どこでなんの営業するかはまだ書いてないじゃん。好きな金額を書けって言って小切手渡すやつと一緒だね。
この営業許可証に王城謁見の間って書いたらどうなるのか、私は謁見の間で屋台を開いてもいいんだろうか、という素朴な疑問を抑え込みつつ、大きい孤児院って書いた。正式名称わからないけど伝わるでしょ。
「開店したら必ず行きますね! というか屋台なんですか? ベルレアン辺境伯領では飲食店って聞きましたよ? それに持ち帰りも出来ないとか」
向こうで開いてるスイーツショップは持ち帰りは一切不可にしてる。衛生管理とか食品の保存方法にご家庭によってかなり差があるからお持ち帰りは怖いんだよね。それにお貴族様が領で待つ家族に〜とか使用人に買いに行かせて〜とか、数日間かけてミルクレープ持ち帰られたらお腹壊して、毒を盛ったと騒がれても嫌だからその場で食べて貰っている。だから遠方の人は来られない人もいるし、一部の人は帰らずにティヴィルの街に入り浸っている。
だけど今回はちゃんとしたお店開くわけじゃないし、基本的に孤児院でやってもらうから簡単な物しか作らない。スイーツとも言えない様な物だ。
「そうだ、お姉さん。もし無事に出張所が開店できたらスイーツショップミズキが王都でちゃんと開く事が出来るかはこの出張所の売上次第って噂を流してもらえる? 王都でも待ち望んでいる人がいるなら開きたいけど、いないなら開くつもりはないって」
「任せてください! ……でも大丈夫ですか?」
「まぁ大したものは売らないんで大丈夫ですよ」
何故か少し不安そうな顔のお姉さんに別れを告げて、私たちは孤児院へ向かう。
ゴレムスくんは小さくて遅いから、人混みだと色んな人が悪意なく蹴っ飛ばしてしまう。その度に蹴った人が痛そうにするからゴレムスくんは誇らしげに胸を張って余計に遅くなる。前から思ってたけど、この子は自分の硬さにプライドがあるよね。恐らくゴーレムの世界では硬さが強さの証だったり誇りなんだろう。だからアダマンタイト取りに行ってた山では私がボスだし、私が近付くとアダマンタイトゴーレムは腕を置いて去っていくんだと思う。献上品? みたいな。敵対しないでそういう風にされると罪悪感湧いちゃうから魔力払ってるけどさ。
何にせよ、一向に孤児院に辿り着かないからゴレムスくんを私が抱いて皆でお空の旅だ。
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