醜さ

水川純

夢の先端

朝目を覚まし、何も思う事が出来ない。オレキシン受容体拮抗薬のせいで睡眠が浅く、幾つも夢を見る。夢の中はいつも居心地が悪い。脳の底に一滴ずつ暗闇を垂らしていく。どうしようも無い事なのかも知れない。夢と現実を隔てる扉はいつからか半開きで、どちらから覗いても奥にぼんやりとした影が浮かんでいる。それはまったく光が差さないのとはまた異なる不気味さで、わたしは陰鬱とした気分になる。視線を背けた先には窓ガラスがあり、すぐ後ろは薄汚れたコンクリートの壁。地下鉄の車窓。醜い自分の姿が映る。どこもかしこも光景が在る。それらはわたしを傷付ける為に在る。もしこのまま居なくなっても、瞬く間に次の光景が誰かを襲う。耐え難い過去の亀裂を脳が知る前に、夢と現実の交配を達成せねばならない。常に強制が生を促す。祈る母の手を折ったが故に。存在しない人間の肌が恋しい。どうしてわたしはあの時覗き見た青く深い脳を、そこから生じた感情を、いつまでも記憶していたいと願えなかったのだろう。快楽の墓場。無痛の精神では何もかも手遅れになってしまった。もう新しい言葉で記述するほかに手段は残されていない。滞留する悲しみの粒を一つ一つ数え上げる日々。ゆっくりと。慈しむ様に。

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