知られざるジャンキーの為に
薬を何錠も砕き鼻からスニッフする。白い鼻水がだらだらと垂れている。目は涙で赤く浮腫んでいる。「痛みを想像して欲しかった」と言われる。また涙が零れ落ちる。ふらふらとした足取りでキッチンへ向かう。切れかけの蛍光灯が発する僅かな光の中、再び薬を砕きティッシュでくるみ始める。
「もうやめなよ」
「これはバイト中に吸う用だから」
「じゃあそのナイフをしまって」
刃渡り数センチ程のナイフの上に蝿が止まる。「Rが逮捕されたのは、ナイフを持っていたからだよ」彼は薬をくるんだティッシュをシャツの胸ポケットにしまった。夢際でどうしても彼を連れ戻したかった。彼は一瞬正気に戻ったような顔をした。
「地下鉄の階段を上がると、大きな海亀の絵が見られるんだけどさ……きっとそんな所、きみは行かないだろうね」
ナイフをキッチンの棚の二番目の抽斗にしまう。わたしは自分が彼に呆れられているのが、手に取るようにわかった。そしてそれが苦痛だった。
「今から見に行くよ」
「もう間に合わないよ」
玄関へ移動し、自転車と家の鍵を尻ポケットに突っ込む動作を見つめる。
「じゃあ、またね」
彼は最後の一粒の涙を流した。「理解しようとしてくれてありがとう」と言い残して。
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