異世界懸賞生活~懸賞マニアは転生し、異世界に懸賞という概念を作る~

富本アキユ(元Akiyu)

第1話 転生ペンダントが当たり、異世界に転生する

「ほう。四天堂ウィッチか。このゲーム機は、すでに十二個当選しているが、持ってないカラーだ。悪くない。応募だな」


俺はパソコンの画面を見つめながら独り言を呟いた。慣れた手つきで応募フォームに住所や氏名を入力していく。


時間は朝の五時。俺、万亀幸道は、ケーマー。懸賞マニアだ。


今まで総額一千万円以上の賞品に当選し続けている。


職業はプロケーマー。これは自称だ。本当は、ぼっちでひきこもりの大学生だ。


だが俺には、懸賞がある。懸賞さえあれば生きていける。


懸賞マニアの朝は早い。なぜならばネット懸賞には、締め切りが本日正午というネット懸賞が存在するからだ。


懸賞において多くは、ハガキ懸賞ならば本日消印有効。ネット懸賞ならば二十三時五十九分締め切りという懸賞が多い。


しかしネット懸賞には例外が存在する。それが本日正午締め切りだ。うっかりしていると正午を過ぎているものがある。


ケーマーにおいて最大の敵は、応募ができないこと。懸賞は賞品をかけた戦争だ。


言うなれば遅刻しすぎて、いつの間にか戦争が終わっていた歴戦の勇者と同じことなのだ。


そんなオマヌケさんになんかなってたまるか。俺は戦争に参加できずマヌケに生き延びるより、国の為に戦って戦死する兵士でありたい。


「さて……四天堂ウィッチに応募は完了した。どうか当たりますように」


俺は、神社で手を叩く時のように拍手の動作をする。


これは俺の願掛け。ルーティーンである。


「やれることはやった。さあ次だ。どんどんいこう。次の懸賞はっと……ほう。図書カードか。金券はありがたい。しかもデザインが、大人気アイドルSHD365のマリンちゃんか。これは将来、プレミアがつくかもしれない。素晴らしいな。俺の図書カードコレクションに加えたい」


住所、氏名などを応募フォームに入力していく。


「さて……きたか」


最後の項目である。マリンちゃんへの一言。


「ここを上手く書けば、当選確率を上げる事ができる。どう書くか」


懸賞の中には、最後に一言という自由に書くことができる項目が存在する。


ここでアピールすれば当選確率に影響する事もある。


やはりここは、マリンちゃん愛を多く語るのが王道。


良いだろう。マリンちゃんファンにしか分からないネタを盛り込むとしよう。


「マリンちゃんは写真集の六ページ目のポーズでは、必ずダブルピースになりますよね。俺はマリンちゃんのあのダブルピースが特に大好きで、癒されています。マリンちゃん図書カード当たりますように。お願いします。……うん。こんな感じか。どうか当たりますように」


拍手の動作をする。


情報は武器だ。ケーマーにとって情報は、武器なのだ。


懸賞マニアとは、ただ単に運が良いだけの人だと思われがちだ。


運の要素は確かに一番必要だ。だがそれだけでは勝てない。時として幅広く専門的な知識が必要になる場合がある。


アイドルの図書カードひとつとっても、アイドル知識がある方が有利に働くことがあるのだ。


情報を甘く見るな。知識は、唯一にして最大の武器だ。


人生において、金や物。大切な人は、奪われる事がある。


だが自身がもがき、苦しみ、苦労して身に着けた知識と経験だけは、人生において誰にも奪われることのない、唯一にして絶対的なものなのだ。


だから常に学ぶ必要がある。人生は経験と学びの繰り返しなのだ。


そして継続して焦らずコツコツ日々積み重ねる事。それが俺が懸賞生活から学んだ格言だ。


さあ次だ。次の懸賞にいこう。


「転生のペンダント。当選人数一人。……ペンダントか。まあこういう身に着けるアイテムが当たると嬉しい。懸賞生活においてのお守りになるというか自信につながる。当選人数一人か。燃えるじゃないか。応募するしよう」


それにしても転生のペンダントってなんだ?


ゲームか何かのグッズか?


まあいい。それは当たった人だけが楽しめるお楽しみだ。


それからも俺は、その日も、ひたすら懸賞に応募し続けて一日が終わった。


あれから一ヶ月程が経った。


懸賞とは、忘れた頃に賞品がやってくるものである。


ピンポーン。家のチャイムが鳴る。ああ、祝福の音。福音だ。


ぼっちな俺の家に尋ねてくるのは、宅配業者だけだ。


「まいどあり。白猫急便です」


「はーい。ご苦労様です」


印鑑を押して荷物を受け取る。箱は小さめだ。


「さてさて何が当たったのかな?」


開封をする時は、いつもワクワクが止まらない。


これが懸賞の一番楽しい瞬間である。


「いざ!!オープン!!」


「ん?ペンダント?こんなもの応募したっけ?」


頭の中で記憶をさかのぼる。


「ああー!!そういえばあったあった!!転生のペンダント。確か一人しか当たらないやつだよな。ラッキー。当たった。さすが俺」


付属された紙を見てみる。




――万亀幸道様。ご当選おめでとうございます。


転生のペンダントは、あなたを異世界へ導く唯一無二のペンダントです。


一度使うと、元の世界へは帰って来られませんので、注意してください。


万亀幸道様が現実世界に嫌気がさしたら、このペンダントを使い、どうか異世界ライフを楽しんでください。




「……なんじゃこりゃ。ゲームの設定か?まあそういう雰囲気を楽しめってことなんだろう。とりあえずつけてみるか」


俺は転生のペンダントをつけてみた。


すると転生のペンダントが光り輝き始めた。


まるで太陽の光のような眩しい輝きを放ち、目を開けていられなくなった。


「うわあ。眩しい。目が!!目がー!!」


目を閉じる。


そして次に目を開けると、そこは森の中だった。

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