ホームレス令嬢は復讐よりも屋根の下で眠りたい

羽倉せい

プロローグ


 ――絶対に許すものですか。

 お父様が罠に嵌められ、我が一族は汚名を着せられて国外追放。

 お父様は断罪され、この世を去った。

 わたくしだけが隣国に逃れて生き延びてしまったけれど、この命を無駄にするわけになんていかない。


 どんな手を使ってでも真相を究明し、犯人を地獄に落とす。

 そして必ず、屋敷、領地、爵位、そして――わたくしの愛する人。

 絶対に、失ったすべてを取り戻す!


 けれど、王都を目指して歩き続けたこの身体に、限界がきていることはもうわかっている。

 どんどん意識が朦朧としてきた。思考は右往左往して、己の寿命がつきてしまう予感がする。

 こんなところで、こんなことで、息絶えるわけにはいきませんのに!


 もう、一歩も歩けない。それでも枝を杖にして、精神力だけで足を動かす。

 ああ、神さま。どうか、どうかわたくしをお助けください。

 もしも、それはできないとおっしゃるのなら。

 わたくしの命はここでつきるのだと、これがわたくしの運命の終わりなのだと、無慈悲なことをおっしゃるのなら、お父様と一族をあざ笑った者たちを未来永劫呪ってやる!

 けれど、待って。それよりも……ええ、そうよ。

 そう。わたくしの命の灯火が消えたとて、抜け殻となったこの身体は残る。

 

 ならば、いっそ。

 わたくしの代わりに、この燃えたぎる復讐を叶えられる者に。

 悪魔のごとき図太さ、力強さをあわせもった、この世ならざる魔物のような屈強な魂に。

 

 ――わたくしのこの身も運命も、まるごと捧げようではありませんの!

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