第39話『ジュマの確認』

 エミルからの詳細な報告を受けたジュマは、責任をとって魔王との窓口となっていた。


(ジュマ)

「さて、あなた方の今後について決めなければならないのですが…」


 エミルによって無理矢理相手の大将を取ってしまった形である以上、負い目はあれど弱気に対応するわけにもいかない。


(ジュマ)

「これまでの調査、そして調査を余儀なくされた我々に対する襲撃や不当な扱いがある以上、本来、我々としては大人しく交渉する必要がないのはご理解頂けますね?

何せあなた方は、人間の国を乗っ取り、人間を戦争に利用しようと企んでいたのですから、あなた方は即刻処刑で普通なんです」


 そう言って魔国のトップたる顔ぶれを見渡す。


(ジュマ)

「あぁ、先に言っておきますが、あなた方が尋問しようとした人間は私の大切な仲間でしてね。彼女に勝てる自信…はまぁないでしょうが、出し抜く術すら絶望的なほどの力の差を感じてもらったとおもいます。

彼女のレベルは既に700を越えています」


 魔人たちは一斉に目を丸めて、その表情から血の気を引かせた。


(ジュマ)

「私を含め、私の仲間は皆彼女とほぼ同じレベルです。

さて、前置きはこのぐらいにして、あなた方が恐らく知りたかったことを私からお教えしましょう。

 帝国を消滅させたのは、私と別の仲間で、彼女は行動こそ共にしていましたが一切攻撃に加わっていません。

 もう少し分かりやすく言いましょうか。私は一人であなた方を国ごと灰塵に帰す力を持っています。

つまりは、絶対的な暴力を有しています。

 ですが、我々はラキシア、ペレスの両国と争う気は一切ないのですよ。それは、彼らが自他共に歩む平和を望み、王がその為に覚悟と信念を持って治めているからです。

 帝国は、私たちに喧嘩を売っただけでなく、民を苦しめることをなんとも思っていなかった。統治ではなく、支配をしていたんですよ。

 なので、消しました。

さて、問いましょうか…。

 あなた方は、これまで獣王国と戦争を続けてきた上に、人間にまで手を出してきたわけですが、私は、我々はあなた方をどうするべきだとお考えですかな?」


 魔人たちが生唾を飲む音が聞こえる。


「もう人間からは手を引く!」

一人の魔人が言った。


(ジュマ)

「なるほど。では獣王国とはこのまま?」


「獣王国とは古い争いの理由がある!こっちが止めても向こうが止めない。永年の因縁って奴だ」


(ジュマ)

「魔女と賢者の物語ですね?それでは、私は私と私を襲撃してきた魔人との物語を理由にあなた方と戦争をしますが、問題ないですね?」


 魔人たちは言葉を見失った。

「それとこれとは…」

少しして、同じ魔人が口を開いた。

「こっちは魔王様の子供を殺されている」


(ジュマ)

「なるほど一理ありますね。

では、これを見ていただきたい。

これは獣王国に残されている公式な記録です。あの時、獣王国で魔女と賢者との間に何があったのかが記録されています。

 賢者に討たれた魔女がお腹の子を魔王の元へ送ってほしいと願った際に、産まれるにはあまりに早すぎた子をそのまま送っても生きられないことを分かっていた賢者は、子供を魔女の生命力でくるみ、更に幾重にも自身の魔法で保護し、最後に魔女の着物でくるんだ後、魔国へと飛ばしたと書かれています。

 しかし、それだけでは不十分で、定期的に生命力を与えなければならない。その役を責任を持って引き受けると伝えようとした時、魔女は最後の力を振り絞って賢者を攻撃した。

 すぐに魔国へ向かって、魔王に話を伝えて責任を全うしようとした賢者は、皮肉にも魔女のエゴによって倒れ、賢者が命を取り留めた時には子供は保護を父親である魔王によって剥がされ亡くなった。賢者はそんな悲しい物語が後世に伝わり、魔女の悪評とならないように獣王国での後始末をして魔国へ単身向かいました。そこで逆恨みした魔王に、殺されることになったと…。

 魔国にも記録のひとつぐらいあると思いますが、その記録には賢者は抵抗しなかったとあるのではないですか?

 そうであるなら、その理由はひとつしか考えられません。賢者は魔女との約束を守れなかったこと、成り行きとはいえ、愛された未来ある命を繋げなかったことへの責任をとった…」


 魔王の顔は「はっ」となっていた。


(ジュマ)

「私たちが魔国を訪れたのは、その物語の真実を見定めるためだったんですよ。どちらかの物語だけでは、事実は見えませんからね」


(魔王ガデルガ)

「つまり貴殿は、獣王国との争い自体が、行き違いによるものであって、争いを治めようとしていたと?」


(ジュマ)

「最初は、そこまでは考えてはいませんでしたよ。そんな物語があることも知らなかったし、あなた方の争いの被害を受けたわけではなかったのでね。

 私たちは、お酒が大好きでしてね。まだ見ぬ酒が獣王国にあると聞き、獣王国へ向かうついでに、ラキシア国王からの手紙を預かったのですよ。

 そうした中、獣王国で我々は魔人の襲撃を受けました。そしてその魔人は、人間もいるとは都合が良いと良い放ったんです。はっきりと申しましょう。我々を介入させたのは他ならぬ魔人ですよ」


(魔王ガデルガ)

「そうして巻き込まれる形で介入せざるを得なくなって、調べてみると我々が人間にも手を出していたことが分かったと…。

ハハハハハ!

こちらの思い込みではじめた戦争でこれでは我々にはもう何も出来ないではないか」


 魔王の意気消沈した姿に、他の魔人たちも姿勢を正すことしかできなかった。


(ジュマ)

「最初の質問です。

我々はあなた方をどうするべきですか?」


(魔王ガデルガ)

「あなたは残酷なお人だ。

我々のやってきたことは、人間にも獣人にも罪にしかならない。

その処遇を我々自身に尋ねるか。

 ならばひとつだけ。

魔国の民はただ魔人として産まれ、魔国に生きているだけのもの。

責任は我々魔国を主導してきたものと、その祖先が背負う事で取り計らって頂きたい」


 ジュマは魔人たちを見渡した。魔人たちは静かに頷いていた。


(ジュマ)

「一切承知しました」


そう言うと、ジュマは魔人たちの拘束を解き、着いてくるように促すと、魔人たちに無防備に背を向けて歩きだした。

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