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ようこそ、赤い果実の世界へ。


舞台は幻想世界セクト。

セクトは一見現代と変わらない世界だ。文明も発達しており、人々も平和の中に生きている。


しかし、ある日。


すべての街が触れた人を薔薇の蕾へと変えてしまう白い霧によって覆われ、各都市が断絶された。



それがセクトだ。



霧が現れてから幾十年。


身分の貴き人々は、薔薇の茨と白い霧を恐れて高く高く、天を目指すように住処を上へ移していき、


遂には空中都市さえも製造してしまった。見上げれば4000mもある壁の中の空中都市。


身分の卑しい人々は、太陽の光さえない都市の下層部に住み、


薔薇と人間の融合した姿のもの――『コッペリア』達が、影のように移ろって、

霧を恐れる人々の隙間を走り抜ける。


それがセクトだ。


いつの頃からか、セクトには一つの噂が生まれた。尊き人々も卑しい人々も皆、その噂を知っている。


尊き人々の更に上、天の天たるその場所へ、人の届かぬ遙か高みへと向かう螺旋階段。


その先には一つだけ人の願いを叶える城があるという。


信じぬものも、信じるものも、誰一人確かめた者のいないおとぎ話が、まるで運命の歯車のように


人々の間を回り、絶望の中に欲望を植え込む世界。欲望が炎となり、炎が心を力に変え、ただの人を


超越する『騎士』達が生まれていく。



それがセクトだ。



(原文作:胡桃さん)



*:*ワールド1:幻想世界セクト 概要、世界の始まりまで



私達の住む世界が薔薇による大規模植物テロによって全て破壊された世界。

元々は私達が住む地球・社会であったのだが、ある事件をきっかけとし

事態は麻薬成分を含んだ薔薇によるテロにより200年の歳月を掛け

世界はその麻薬成分を含む薔薇で埋め尽くされる事となる。


ある事件とは世界に西暦というものがあった頃、

西暦2000年代にて“大道寺エリザ”が引き起こしたシリアルキラー事件である。

しかし通常のシリアルキラーとは違う性質を持つ。

通常のシリアルキラーは犯罪者の周囲に居る者を妄想的な執着で連続殺害を行うというものであるが、

当時17歳の大道寺エリザは同じ学校の学友である“屋江崎美緒”という名家のお嬢様を連れ、

家の資金力で世界中を旅しながら各地で美少女だけを選んで33人もの殺人を行ったというものである。

この事件は最終的には2人の心中という結末を迎えたが、世界を飛び回って各地の美少女だけを殺害するという事例は例が無く、

事の真相が発覚してから、この異常なニュースは世界中で放送される事となり、

その後“世界で最も美しいシリアルキラー事件”と呼ばれる事となる。

何故、連続殺人犯でありながらも世界で最も美しいと評価されているのかというと、

大道寺エリザ、そして共犯である屋江崎美緒が世界的に見て美しい女性だったからである。

他に学校の優等生でありながら黒魔術に引かれ、現代の科学を取り入れた黒魔術を作り上げた事や

共犯である屋江崎美緒を家の地下室に監禁しマインドコントロールした事件も含まれるが、

ともかく、この事件で特に有名なのは大道寺エリザが残した遺言だろうか。


「世界は高貴かつ芳醇な腐臭を放つ腐りかけの洋梨。薔薇の香水は魂の防腐剤。私達はそれを口に含み永遠となる」というものである。


自身の黒魔術の儀式を完璧にやり遂げ愛する者と心中する。まさに完璧な計画の実行であり、

美しいものはどうしようもなく人を惹きつけ狂わせる魔力がある。

この事件と大道寺エリザは大衆の間で偶像化し、

小説などの作品では若き少女が大量殺人を行うタイプのモデル・モチーフとなり、

ウェブ上で動きが見られたのは主にゴシックロリータ界隈のサイトだが、

エリザ狂信者となる者の発生が後を絶たず、

これが日本だけの動きと思いきやウェブ活動としては海外が多く、

エリザ狂信者は世界中に、特に勉学に優れる者がエリザ狂信者となっていった。

エリザ狂信者のその中に植物に関して天才的な能力・技術を持つ研究者も居たのが最悪な事態を引き起こす事になる。


簡単に説明すれば、大道寺エリザの遺言の通り、薔薇に手を加え世界を効率良く薔薇で溢れさせたのだ。


普通の薔薇ならば脅威もたかが知れている。

だが、どんなに過酷な環境でも育ち、繁殖力も凄まじく、枯葉剤耐性を持ち、麻薬成分を含んでいたらどうだろう。

北極に近いロシア、アイスランド、ノルウエー、スウェーデン、フィンランド、グリーンランドから

南極に近いニュージーランド、アルゼンチン、チリまで。

熱帯であっても寒帯であっても、砂漠や熱帯雨林であっても繁殖する植物であるならば。

繁殖では各国の環境に合わせた薔薇を遺伝子組換えで作れば問題は無い。

植物に関して天才的な研究者はどのような季候であっても育ち、麻薬成分を持つ薔薇を開発したのだ。

それも一種類だけではなく何百種類と。

そしてその種を世界中に居るエリザ狂信者へと送った。

信者というのは信仰のためなら何を犠牲にしても良い人種である。

種は一斉に各国へとばら撒かれた。


それが世界の終わりの始まりだった。


一種類の薔薇ならばそれを探して駆除すればいい。

だが、作られた薔薇は数百種類であり、そして計画はそれだけではなかった。

最悪な薔薇の種を何百種類と作った研究者は次にありとあらゆる植物に手を入れ、それをダミーとして薔薇繁殖のための隠れ蓑にしたのだ。

当然、ダミーの改造植物が先に脅威として発見され対策されるが、その間に麻薬性の薔薇は繁殖を続けていく。

数年後、麻薬成分を含む薔薇が麻薬植物認定され、ここでようやく植物によるテロだと判明したが、その頃には既に遅かった。

機械による伐採、火炎放射、枯葉剤などを使用しても繁殖の勢いは止らなかったからである。

単なる薔薇を世界中に咲かせたかったのなら麻薬成分など含まなくても良いだろうが、

麻薬成分を含むのは発展途上国による薔薇の大量栽培、麻薬原材料としての需要を見込んでいたからである。

改造された薔薇は品種によって中に含む麻薬成分が違い、掛け合わせるとまた新しい麻薬成分となる。

いわばアッパー系麻薬とダウナー系麻薬、幻覚系麻薬、向精神薬に近い麻薬を自在に作り出せるのだ。

これは単にアッパー系麻薬とダウナー系麻薬では区別がしにくい向精神薬のような作用も含む麻薬であり質が高い。

精神は沈静しながらも脳が活発に動く、またその逆の麻薬も登場している。

違う品種が掛け合えばより様々な種類の麻薬がケシよりも早い周期で作れることから

ケシから薔薇へと麻薬製造の根本的なシステムが変わっていった。

例え伐採されてもまたすぐに生えてくる。この薔薇による麻薬製造は安定し、

麻薬の値段は日本での末端価格にして1グラム1万~2万、量産安定してからはコカインや覚醒剤の半分以下、大麻より安い値段で流通し、

麻薬生産国は勿論、麻薬中毒による貧困者でも手に入りやすい値段で売られ、それが救えない事態を生む。

麻薬中毒者が倍増どころかねずみ算的に増えていったのだ。

初期の流通名はマジックローズ、ポプリ、ローズポプリ、この略称としてRP、RPからレイブパーティーにてロリポップという俗称で広まっている。

麻薬製造国や麻薬の規制が緩い国から薔薇による麻薬汚染は始まり、

安くて質の高い薔薇の麻薬は麻薬原産国で高いニーズを獲得した。

皮肉だが薔薇から抽出された麻薬故に「最も高貴な匂いがする麻薬」とも呼ばれ女性に人気があった。

一応としてアフガニスタンが麻薬生産の7割程度を占めているのだが、この麻薬性の薔薇の場合はどこでも作れるという利点があり、

アフガニスタンだけおいしい思いはさせないとその周辺国やマフィアとの距離が近い国も麻薬製造に足を踏み入れている。

どのような麻薬でも作れるという事はわざと麻薬性を弱めた向精神薬系のものも作れるという事であり、これが最初に世界中で流通する事になる。

よってアフガニスタンの利益は減る事になったが薔薇による総麻薬流通量は5倍以上に膨れ上がった。

そうなると国と国との軋轢が生じ、阿片戦争ならぬ薔薇戦争が同時多発的に発生する事となる。

最初は発展途上国間の紛争だったのが被害が世界全体レベルになった事で最終的には第3次世界大戦にまで発展する事となった。

だが、標的となる国である麻薬原産国が多すぎる事から第3次世界大戦は最初から混乱を来たす。

どこに解決を見出せば良いのかわからない戦争というのはただただ長引き、

救えないのが日本が過去に原爆を落とされ戦争終結したように核兵器にて解決を試みた事だった。

国家というものはそれで破壊・麻痺したものの、それでも薔薇の自然繁殖と麻薬汚染は続く。


植物によるバイオハザードである。

バイオハザードという言葉は古典的には病院や研究所の試料や廃棄物など、病原体を含有する危険物を指してきたが

20世紀末からは雑草や害虫を強化しかねない農薬耐性遺伝子や

農薬内生遺伝子を有する遺伝子組み換え作物等もこの概念に含まれてきている。

その農薬耐性遺伝子植物発生の最悪な形とも言って良い。


この戦争で混乱状態にあった世界経済は完全にストップせざるを得なかった。

バイオハザードの前に経済など何も役に立たず、世界は同時大恐慌へと進む。

世界全体が貧困への道へと進み、そして麻薬に手を出す。

悪夢としか思えない悪循環である。


もうこの頃には最初から仕組まれていた最悪とも言える麻薬性の薔薇の品種が世界中を埋め尽くしていった。

薔薇の匂い、つまり花粉を吸い込んだだけで脳が侵される程の薔薇の誕生である。

この薔薇の瘴気が空を舞い、大気の対流によって世界中にばら撒かれる。

こうして地球はガスマスク無しでは外へ出られないという世界になってしまった。

最終手段としての核兵器さえも薔薇の繁殖力には効果が薄く、

最も最悪な方法であるホロコースト政策、つまり麻薬依存者の大量虐殺へと向かう。

それほどまでに犯罪発生率は異常なまでに高くなっていったのだ。

2011年時点での世界人口は70億人、この30%以上が戦争やホロコースト政策により処理される事となる。

表向きは戦争での戦死として、裏では安楽死や死刑、射殺として。

そうしなければ人類そのものが滅亡してしまう可能性があったからだ。


そんな中、人類はどうにか生き延びる方法を探るが、

あまりにも麻薬成分が空気中に放出されたため絶望的と判断する。

それでも人類は薔薇の瘴気のレベルが低いところへと移動する。

そこは何の因果か、大道時エリザが屋江崎美緒と心中した国、日本であった。

日本は麻薬に対して厳しいようで疎く、麻薬汚染を止められず死者の国同然のような状態だった。

だが日本は放置された植物が多く、特に森林の効果で薔薇の繁殖が抑えられていた。

正確に言えばエリザ狂信者にとって日本は聖地と見なされ、

遺伝子改造した薔薇やダミーの改造植物を植えつけなかった事が大きい。

日本だけが比較的無害であるという事から各国は日本を軍事的に押さえた。

押さえるとしても様々なやり方があるが経済が麻痺している以上、

わかりやすい軍事介入として日本の中心と呼ばれる各場所にミサイルを一発撃ち込み、島国なので全方位から数多く攻めれば良い話だった。

元から戦争を回避しているような国なので日本の軍事力は技術は高いものの、数で抑えられたら手も足も出ない。

ちなみに真っ先にターゲットにされたのは各県に現存する原子力発電所である。

大国と呼ばれる国が日本を獲得するために一斉に日本に攻め込んだので日本という国は名前だけ残して消滅する。

そして、外国の強制軍事的介入により日本の山形県にて人類最後の防衛都市計画が実行される事となる。


大規模地下掘削による地下都市建造(ジオフロント)である。

薔薇の瘴気から逃れるには地下しかないという結論の元にこの計画は実行される事となる。

この頃は既に各国は地下都市を建造しているが、日本を占拠すれば周辺国への牽制となる。


事は急を要していたのでバンカーバスターの乱発による広範囲掘削となった。

場所は山形県米沢市。人口が程よく少ない盆地である。

掘削規模は半径50km、深さ1km以上に及ぶ。

地熱の問題は地熱発電と低熱発電機を導入すればいい。

あまりに巨大な工事であり、簡単に人が次々と死んでいったが巨大な計画の前に人の命は軽い。


そして外国では人類絶滅を防ぐため、薔薇の瘴気に耐性を持つ遺伝子改造を施す研究が行われていた。

世界中に存在する卵子バンク保存施設から卵子を掻き集め、改造し、日本へと持ち込んだのだ。

人の遺伝子改造とクローン技術と倫理的に引っかかりまくるが、人類の存続の前には関係ないものである。

倫理というものがとっぱられた研究者たちは嬉々としてこの研究に取り組み、

そして倫理的に捻じ曲がった研究を日々行う事で宗教色が強くなっていった。

人というものは同じ人を改造できる立場にいると自分が神であるような錯覚を覚える。

この研究者達は後に“守護者”という存在となる。

ともかく、狂った研究者集団が薔薇の瘴気に耐性がある人間種をDNA改造・クローン技術で生み出し、

その改造人間によって大気中の瘴気から隔絶された都市計画を実行しようとする。


地下都市計画とそこに住む新しい人類、その次は新しい神の創造であった。

小さな国の場合、指導者や宗教の神を持ち出してコミュニティを守る。

その為には神のような指導者か神が必要だった。

それもわかりやすい形で。

研究者集団が考えたのは現存している宗教の神では宗教間の軋轢が大きく、

全く新しい神が必要という事だった。

場所は日本。全ての発端となったある少女。そう“大道寺エリザ”である。

大道寺エリザは研究者たちのアイドル、偶像であった。

大道寺エリザの遺伝子を使い、大道寺エリザを復活させ、子飼いの神とする。

普通に考えれば非効率すぎる少女復元計画であったが、

狂った研究者集団はそうは考えなかったらしい。


同じ頃、奇妙な報告が各方面へと知れ渡るようになった。

人が生存できるはずがない場所で少女を見たと、複数の証言が持ち上がった。

最初は麻薬中毒者の妄想として取り扱わなかったが、あまりにもそのような報告が多いので調査チームを組み、調査する事となった。

調査結果として上がってきたのは、改造遺伝子による人間に植物である薔薇の遺伝子を組み込んだ“生物”だった。

植物と動物の遺伝子組み込みは過去にも事例がある。

2002年、ホウレンソウの遺伝子を導入して私たちの体に必要な必須脂肪酸であるリノール酸を自ら作り出せる豚を作ることに世界で初めて成功している。

つまりはその応用だった。

一部の研究者集団が“薔薇の麻薬体性を持つ生物を作るには薔薇の植物遺伝子を人間に組み込むしかない”と製作した生物。

言い換えれば「薔薇との共生体」の製造である。

その研究者集団によればこの生物は失敗作だったので廃棄したというが、嘘である事が判明する。

外に離して野生化、自然交配させ、更なる薔薇の麻薬体性を持つ生物を作る目的で外に放したのだ。

そして目論見通りにその生物は自然増加していった。…爆発的に。

薔薇共生体生物を作り出した研究者集団は危険視され全員殺害処理されたが、

薔薇共生体生物はそれまでの薔薇のように人類絶滅に関わる問題となった。

通称“コッペリア”の誕生である。


何体か採取して解剖して調べたところ、人間とは違う奇妙な点が幾つも発見された。


・コッペリアの全てが女性性である事。

・生殖に関して性器はあるがセックスによる受精は必要無い事。

・体と体、正確に言えば性器と体の一部(特に指)を挿入し植物のように受粉、生殖する事。

・麻薬性の薔薇を組み込んでいるせいか知能が発達していない、または常時麻薬物質によるハイ状態にある事。

・血液も同じく人間のものと全く違う事。

・薔薇を食する事。

・受粉したコッペリアの場合、死亡時に爆発し実をばら撒き、そこから新たなコッペリアが発生する事。

・心臓が無く核というべきエネルギー物質が存在する事。


これらの事が最初に判明し、そこから細かい事が解っていった。


・ATP合成酵素が通常の植物や動物と違っている事。

・「固体内核反応」という今までの科学ではオカルト視され無視されていたものがコッペリアの動力となっているらしいという事。


らしい、という事は研究者達の間で絶対に認めたくないが、そう認めざるを得ないという事でもある。

本当に未知なる生物としてコッペリアは誕生したのだ。

同時に新エネルギー体としてコッペリアは注目され始め、コッペリアの乱獲が行われた。


コッペリアの乱獲には2つの目的があり、生態調査とエネルギー体としての調査である。

何にせよ人間に良く似た生物を切り刻む事には変わりない。

成果として、コッペリアを体の内外から洗浄液につける事で、人間とそう変わりがない脳状態になる事や

コッペリアの動力であるエネルギー体の解明に成功する。

エネルギー体の解明が終わり、エネルギー体の運用のために圧縮実験を行ったところ、

核爆弾が落とされたように研究所やその周辺が一瞬にして消滅、

その研究所の周囲が超常現象とも言える地球の重力を無視した状態となった。

消滅したと思われた圧縮したエネルギー体はそのままの結晶体のままで残っている。

驚愕すべき事なのだがそのニュースは研究者達を狂喜乱舞させた。

何故ならば、神の力にも等しい全く新しいエネルギーを手にしたからだった。

ただ一つ問題があり、エネルギー結晶体が剥き出しのままでは人の手で制御できない。

人の手で制御する手段を研究者達は昼夜を問わず躍起になって追い求めた。

結局行き着いたのは元々はコッペリアの心臓なのだから、このエネルギー結晶体を心臓として動く生物を製作するというもので、

ここでようやく「大道寺エリザの遺伝子を使い、大道寺エリザを復活させ、子飼いの神とする」という

“永久機関の女王計画”と結びつく事になる。


当然、各研究者集団は大道寺エリザを体細胞クローンにて形だけでも復元するべく

復元に必要な細胞核を手に入れようとするが日本には存在しない事が判明する。

当時の日本では体細胞保存の概念が薄く、

残っているのは大道寺エリザ宅の家宅捜査によって採取された床板などに付着したDNAのみであり、

心中の時に使用したであろう各国の少女たちの血液がミックスされている状態で鑑定は出来るが復元不可能な状態だった。

だが、意外な場所で大道寺エリザの体細胞が発見される事になる。

某国の体細胞バンク団体が保有している卵細胞と血液だった。

紐解くと大道寺エリザの家系は仕事柄だが医療関係も含み、某国の体細胞バンク団体との関係があった。

ここで大道寺エリザが生存していた時期に戻るが、

この体細胞バンク団体、その代表者は一人でも多くの人種多彩な体細胞を保有したいと考えており、ここで大道寺エリザと利害関係が一致する。

大道寺エリザの黒魔術では真に美しいのは美しい者の遺伝子と考え、

体細胞バンク団体の代表者は表向き医療のためと言っているが、単にコレクターだった。

大道寺エリザと屋江崎美緒の細胞はもちろん、世界旅行しながらのシリアルキラー事件前であっても、

大道寺エリザ経由であらゆる人の体細胞を何らかの手段で入手、送っていた。

警察の捜査で大道寺エリザ宅の地下室から体細胞を保存するための小さな施設部屋とキットが発見されたが、その裏にはこのような事情がある。

ともかく大道寺エリザの体細胞が見つかり体細胞クローンによる復元を行うが、大きなミスがここで発生する。

世界的に有名となった大道寺エリザによるシリアルキラー事件で体細胞バンク団体にも捜査のメスが入り、

この体細胞バンク団体は最も大事な大道寺エリザの体細胞を奪われないよう隠すべく、大道寺エリザと誰かとの細胞が入っている容器やデータのラベルを入れ替えたのだった。

一応、体細胞クローンによる復元前にチェックを行い、中身が違うと判明するが

何故かそのまま復元にGOサインを出す。

それは大道寺エリザの細胞と入れ替えられたのが大道寺エリザと心中した屋江崎美緒の細胞と判明したからである。

捜査のメスが入った段階では大道寺エリザに関係する全ての人物の細胞を別の人間の細胞に入れ替えて難を逃れたが、大道寺エリザの細胞は貴重なのでそれを奪われないようにするため屋江崎美緒のものと入れ替えたという経緯がある。

大道寺エリザの細胞はどこかにあるのだが、当時の施設関係者は死亡しているのでわからず、それで大道寺エリザと縁の深い屋江崎美緒の細胞で女王を作る事にしたのだ。

ここで大きな誤算が起きていたとはまだ誰も知らない。

大道寺エリザが引き起こした世界を旅してのシリアルキラー事件にて、真に怪物だったのは屋江崎美緒の方であった。

最初は大道寺エリザが少女をナンパして殺していたが、屋江崎美緒がその役をやりたいと言い出し、やらせてみたところ、屋江崎美緒はサイコパスなシリアルキラーの才能を発揮、猟奇的に次々と美少女を殺害していくことになる。隠せないほどに。

心中とされていた事件では大道寺エリザが屋江崎美緒という怪物を永遠に眠らせるために毒を盛ったのだった。

つまり、狂人度として大道寺エリザよりも屋江崎美緒のほうが強い。

それを復活させるとしたならば。


女王誕生前、誰もその事には気づいていない。


そして屋江崎美緒を元にした“第一女王”が作り出された。(注:仮設定とする)


“第一女王”製造成功で最も恩恵を受けたのは建設関係であった。

建物を作るには重機が必要となるが、重力を自在に操れるとなると重機の必要性は薄くなる。

また、“第一女王”の影響範囲は女王を点の中心とした円錐状であり、

“第一女王”を上に位置させた方がメリットがあると判断、

そうして最初は地下都市計画のみだった都市計画が空中都市計画へと変更される事となる。

薔薇の瘴気が濃い地上より空中の方が難を逃れられるからである。

地下のみではどうしても限界がやってくるので自然な流れでもあった。

この新しい空中都市計画は山形県の特産物である洋梨の品種から「ラ・フランス」と名付けられた。

もちろん大道時エリザが残した遺言をなぞっているのは間違いが無い。

地下の部分を研究所スペースとし、その上に人が住む周囲外壁で覆った都市を作るというものだ。

“第一女王”の力の影響範囲から巨大都市型エレベーター構想も持ち上がる事になる。

それでも地下・地上・空中・空中第二層の4層+地下しかこの時点では計画に無い。


同時に「ラ・フランス」は独立国家として世界に宣言する。

新エネルギー体は研究所がある「ラ・フランス」内でしか扱えない事から

ある意味で核保有国よりも強く、各国は独立国家宣言を認めざるを得なかった。

新エネルギーを手にいれ、それが兵器として使われれば壊滅的ダメージを負うからだ。

核兵器などの爆発は全方位だが主に地表に広がる。

だが新エネルギーでの兵器では本当に全方位攻撃が可能で、地下をも抉り取ってしまう。

各国の地下施設にこの新エネルギーでの兵器を打ち込まれた場合、致命的となるのは免れない。

また新エネルギーでの防壁を張ったラ・フランスでは、いかなる対ミサイル・核兵器であっても破壊されないのも大きかった。

実際、国として認めないと言った国の一つに新エネルギーでの兵器を打ち込み、壊滅させた。

戦争をすれば必ず負ける。だから国として認めざるを得なかった。


そして「ラ・フランス」は国となり、そして富裕層の「ラ・フランス」への亡命が相次いだ。


どのような世界であっても、極端までに追い詰められるとその世界は神話をなぞるようになる。

結局、神話をなぞる事で安心したいのだ。そして「ラ・フランス」は少女を中心にした世界。神話のようなものである。

第一層となる地表部分の都市は都市というより文化遺産のコピーのような建物が多い。

人類の遺産を残すという意味合いが大きかったのだろう。

何もなければ理想郷として機能するはずの第一層だったが、ここへきて薔薇の脅威が押し寄せる。

童話のいばら姫のような巨大な茨を持つ薔薇が「ラ・フランス」を取り囲み、外壁を圧迫、破壊し内部侵入してしまったのだ。

しかもその果実はこれまでの薔薇には無い蒴果であり、威力は銃のショットガンを超える。

本当に対処できない薔薇の品種が登場してしまったのだ。

そこで「ラ・フランス」はこの薔薇から逃れるように、第三層、第四層と上へ上へと積み重ねて第一層を薔薇から防衛しながら逃れる事になる。

資産があるものは上の階層へ、資産が無いものはその階層のまま。


あまりにも急な出来事だったため外壁は外から見ると洋梨のようになってしまった。


ここで研究者達が疑ったのは“第一女王”の限界である。

永久機関装置とも言える“第一女王”であっても一つだけではリスクは大きい。

機能停止になった場合「ラ・フランス」はそのバランスを失い、壊れる。

よって“第一女王”のコピーとして“姫”計画が持ち上がった。

“第一女王”のように巨大な力を持たなくとも、多大な力を持つコッペリア改造種量産の開発である。

そして作られたのが“第一女王”と力を共有し“第一女王”への負荷を下げる“5人の姫”である。

並列回路のような考え方であるが、多少は有効であった。

これで全て上手くいくだろうと思っていたのだが、“第一女王”のエネルギー不安定状態は更に酷くなり、

狂った研究者達、もうこの頃には“守護者”と呼ばれるようになった存在は

“女王の交換”つまり“第一女王”から“第二女王”への交換実行を余儀なくされる。

しかし、新たな“女王”を製造しようとするが何故か必ず失敗してしまう。

何故なのかわからなかったが物語としての考え方をすると

“女王”とは唯一の存在であり“女王”が存在している内に新たな“女王”を作ろうとしても不具合が生じてしまうという事だった。

もう何もかもがメタな方向に行っているが原因とその答えがそれしかなかったので、

守護者達はそれまで第四層しかなかった「ラ・フランス」を拡張、第五層を作り“革命の決戦場”なるシステムを作る。

もうこの頃には“第一女王”のエネルギー性質はほとんど解明しており、バリアやワープ、虚像の実体化などのハイテクノロジーを獲得していた。

“第一女王”と同等の力を持つ存在が“第一女王”を殺す事で、新たな“女王”と入れ替えエネルギーを安定・維持させる。

“第一女王”と同等の力を持つ存在とはつまり可能性を持つ存在である。

替えの“女王”が作れないならばダウングレードの姫を作り、姫に女王と同等の可能性を持たせ、“第一女王”を殺害し交換する。

ダウングレードの姫は“5人の姫”で存在が許されてる事から可能であると見た守護者は、

遺伝子改造した強化人間なる“騎士”と“女王”の劣化コピーで“騎士”に忠誠を誓う“量産型の姫”を製作することになった。

“量産型の姫”が必要になったのは“女王”に近づくには“女王”と近い存在を必要とするためであるが、

それでは可能性の奪い合いにならない。そこで“騎士”が必要となる。

これらを戦わせ、可能性を持った“騎士”と“姫”により“第一女王”を殺す。

そのために“革命の決闘場”システムを作ったのだ。…“革命の決闘場”を作りだす“決闘場専用の姫”まで開発して。

それでもまだ足りない。“騎士”がどうしても革命に向かわなければならないよう“姫”に細工をしている。

“革命の決闘”にて“騎士”と“姫”は特殊な鎖で繋がれ“騎士”が受けたダメージは全て姫に転送される。

これで騎士は心折れるまで限界まで戦えるようにしているのだが、

それでは騎士は自分勝手に動くだろうと、戦闘でのダメージの伝達に苦痛と共に快楽をインプットした。

切られれば痛い、だが、それをも上回る快楽が姫に与えられた場合どうなるか。

結果、“姫”は決闘依存症となる。そのように作られたのだ。

そのため騎士の都合よりも姫の都合で決闘に向かう事になる。


これがワールド1:幻想世界セクト、並びに「ラ・フランス」の成り立ちである。


今まで何人もの騎士と姫が決闘し、革命を目指しただろうか。

しかし、誰も革命には至っていない。

“第一女王”の歪みや狂いに対向できる存在がいなかったとも言える。


それでも守護者は“騎士”と“姫”を量産する。

その量産型の“姫”の中に偶然にも大道時エリザの遺伝子が使われた。

そしてこれも偶然なのだろうか、大道時エリザが最初に殺害した少女“笹木恵”の遺伝子により“騎士”を作った。

“笹木恵”は屋江崎美緒と双子かと思えるくらいにそっくりな少女である。

そっくり過ぎる事が大道時エリザによる殺人の動機となった。

大道時エリザが憎悪によって殺害したただ一人の少女。

大道時エリザにとって重要な殺人であったが残されているのはデータのみなので

守護者達はこの繋がりに気付かずこの世界に復活させた。

これに世界、もとい“第一女王”は一時的な安定という形で特別な騎士と姫が生まれた事を示唆する。

“第一女王”が不安定だった原因、それは“大道時エリザ”がいないことでの孤独。


これが一応の主人公である騎士“カーディナル・クレーム・オ・カシス”と姫“リシュリュー”の誕生である。

当然、運命的にこの2人は惹かれ合い繋がる事になる。


この2人により最初の革命である“第一女王”の殺害は果たされたのだが、

誰にも革命されたという事は伝わっていない。

世界は何事も無く、2人が生きていた日々を繰り返す。


“第二女王”の願いは何もかもが起こる前の日常に戻りたいというものだからだった。

“第一女王”と“リシュリュー”が出会い、そこで2人は前世の記憶を取り戻す。

今まで“リシュリュー”を守ってきた“カーディナル”を置き去りにして。

この世界は愛憎で出来ている。

“カーディナル”はリシュリュー”から強引に取り出した「ドンキホーテ」で“第一女王”を殺害、

“カーディナル”は「何もかも起こる前に戻りたい」と願ったのだった。


そうしてループが繰り返される。

これまでも、これからもループは続くだろう。

誰かがこのループを、第二女王を止めるまでは。

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