第44話 逆襲

 





 ………まぁ、こんなもんでいいか。


「……おーい、そろそろいいよ〜」


 俺はに聞こえるくらい声で合図を出した。



 一瞬の逡巡の後、小屋の扉がゆっくりと開きーーーーーーーーーー。



「………は?」



 呆気にとられる陽菜。

 それもそうだろう。

 そこに立っているのは彼女の予想の外にいる存在。



 ーーーーーースマホを構えた、舘坂雅が立っていた。



「……いやいや、誰だよお前。ここで何してんの? アタシの家なんだけど」



「………陽菜。『○○高校あるあるbot』って覚えてる?」


「なんだよ、急に。……あぁ、覚えてるよ。お前が作った原田達ハメたTwitterのクソ垢だろ。それがどうかしたか!!」


「そのアカウントにURLを投稿した。そのURLからはとあるにとぶことができる」


「とある配信………?」


 訝しげな表情になる陽菜。

 配信という言葉を聞いて嫌な予感がしたのか、目がみるみる内に開かれていく。


「………っ!」


 陽菜は自分のスマホを取り出し、おもむろに操作をしだした。恐らくTwitterを開き、俺の発言の真偽を確かめているんだと思う。

 まぁ、確かめたところで……。


「……アタシが映ってる」


 陽菜のスマホを持つ手が震える。

 自分の置かれている状況を理解したのか、みるみる顔が青ざめていく。



「……てめぇが配信してんのか!!」


 突然の来訪者、雅に向かって吐き捨てる陽菜。

 1拍遅れて、陽菜の持つスマホから『てめぇが配信してんのか!!』と声が聞こえる。



「……ここまでで、もういいよ」


「(コクン)」


 小さく頷きスマホを操作する雅。

 その頃には陽菜も自分が何をされているか、否、理解したようだった。




「……てめぇら、ずっと撮ってやがったな………?」




 ーーーーーーーーご名答。

 雅にはを小屋の扉の隙間から撮影し、その全てを配信していた。


「よし、終わったよ。佐々木」


「何人くらい見てた?」


「最初は10人とか、でも結構拡散されてたみたいで最後は900人とかいたよ」


「……よし、充分だ」


 配信のタイムシフトは残っているから、後は切り抜きでも転載でも何でもいい。

 要は、この配信がどんな手段でもいいから残ってくれれば。


「小屋の外からずっと撮ってたんだよ。気づかなかったようだけど」


「小屋の外から………? アタシさっき仲間呼んだんだぞ? そう言えば全然来ねぇし、一体アイツら何やってんだよ!!!」




 言うが早く、陽菜は小屋の扉に駆け寄り。



 ーーーーーーー扉を開けた。



 すると、そこには。



 薄暗い中でも大人数を相手取っている1つの人影があった。



「阿久津、大丈夫か?」



「おっ、佐々木じゃん。何かさ、小屋の外で待機してたらさ〜急に大人数で来たからとりあえずボコっているぜ」


 聞きなれた馬鹿っぽい声。

 元々阿久津にはがあり、そのために小屋の外で待機させていた。

 それがどうやら功を奏したようだった。


「程々にしてやれよ?」


「人数多いから、手加減出来るか分かんねー。でもまぁ、やってみるわ」


 バットやら何やら沢山の獲物の間をくぐり抜けながら、阿久津は呑気にそんなことを言う。

 やっぱこういうことにおいてはめちゃくちゃ頼りになる奴だ。



「……お前ら、一体何なんだよ」



 陽菜の拳が震えている。

 それもそうだろうな。

 自分の用意した策。

 その悉くが尽きてしまった。


 万策尽きた、とはまさに今の状況だろう。




「なんでアタシのっ、てめぇらばっかり!!! 訳わかんねぇ!!! クソ野郎共のくせに、クソ陰キャのクセによぉ!!!!!!!! 」



「……俺はあくまでも。これまでスマホやら何やらで色々とやってきているから、を警戒しているのは分かっていた。だから、誰か他の奴に配信を頼み、注意を俺1人に向くようにした」


 真顔でピースする雅。


「さっきの配信は正当防衛の証拠もあるけど、何よりも君の本性を撮れたのがデカい。元々『○○高校あるあるbot』はそのために作った。フォロワーも着実に増えている。連日の暴露で盛り上がっている時に、知名度の高い君の情報を投下すれば、更ネットでは燃える」


「……このクズ野郎!! よくそんなことが出来るな!!! 死ねよ死ねぇぇぇぇ!!! パパに言って殺す!!!!」


 クズ野郎.....か。

 恐らく本心で陽菜は言っている。

 自分たちの行いを省みることもせず、親の権力を隠れ蓑にこれまで色んなことをやってきたんだろうな。


「アタシをこんなにしやがって、てめぇの命とアタシの命では重さが違うんだよ!!!! そこに転がってる七海もそうだ!!!! 道端のクソ風情が、イキってんじゃねぇ!!!!」



 ……なんて言うか、もう。

 哀れだ。

 

 人間はここまで堕ちれるものなんだ。

 コイツは、いや。

 コイツらはきっと1回地獄に落ちないと、本当の意味で分からないんだと思う。

 だから俺は。




「……さっき、俺に『できることはもうない』って言ったよな?」



「陽菜。が考えることなんて、全部予想の範疇。俺と張り合おうと思うことすらおこがましい」




 ーーーーーーーーさぁ、トドメだ。

 俺に出来る最大の嘲笑、侮蔑、嘲りを込めて表情を作り。





にできることは何もねぇんだよ。このクソ女」



 そう言い放った。





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