第33話 昨日の敵は、今日も明日も明後日も敵

 



 さっきあの金髪は、蒼汰とかいう男が「捕まらない」と言った。

 犯罪行為をしているのに、だ。


 となると、その理由として考えられるのは

 まず一つ目。

 がいる。


 一般的にはヤクザか…………。

 身内か親戚、かなり近いとこにヤクザがいる可能性。

 陽菜の周りにはドラッグの噂もあった。

 ヤッさんが絡んでいるとなるとその噂も急に現実味を帯びていく。


 そして、二つ目。

 警察内部に、陽菜と蒼汰のがいる。

 直接的に奴らの犯罪をもみ消せるのは間違いなくだ。

 国家権力も汚職により意味を失う。

 治安を乱しているのは人間だけど、治安を維持しているのも人間だ。


 両者は両極端。

 力をもっている分、善にも悪にも染まれる。


「太一」


「うん?どうしたよ」


「あのさ、陽菜の周りにヤクザか……警官っていたりするかな、何か知ってる?」


 突拍子もない質問だったけど、太一コイツなら変なところで変な情報を抑えている可能性がある。


「………それって、家族とか、友達とかってことか? え~…………、――――――あぁ、確かお父さんが警察?だったような……」


「…………うお」




 ――――――マジか。

 いや…………か。


「何でお前そんなこと……。いや、佐々木、それって」


「うん………」


 どこまで太一が察しているかは分からない。

 しかし、やることは決まっている。



「おい、お前」


「…………んだよ」


 阿久津にボコされた金髪。

 こいつらは唯一の陽菜、そして「蒼汰」との繋がりだ。

 有効活用しない手はない。



「ちょっと協力してもらう」



 ***



 先ほど出たばかりのファミレス。

 そこに俺たち(俺、太一、阿久津、金髪)は戻って来ていた。

 金髪以外の連中はほぼほぼ気絶していたから道端に置いてきた。

 仕方ないよね。

 会話できるのはこの金髪しかいないんだから。


「てめぇら、こんなことして蒼汰さんが黙ってねぇよ」


「その蒼汰とやらを黙らせるために、今色々やってんだよ。いいから黙って協力しろ。カスが」


「ちっ…………」


 阿久津の言う通り、今のこいつには選択肢が存在しない。

 腕っぷしでは阿久津に敵わない。逃げるにしても阿久津から逃げられきれるとは思えない。

 あれ?

 全部阿久津任せだな…………。

 まぁ、いいか。


「さっきお前、蒼汰って奴が女拉致ってるって言ってたな?」


「…………あぁ。言った」


「それって誰から聞いたんだ?」


「…………俺のダチだよ。学年は一つ上で蒼汰さんと同じ3年」


「なるほどな。そいつに聞いてほしいことがある」


「…………」


 金髪は納得いっていない様子だったが、諦めたようにスマホを操作しだした。


「何を聞きゃいいんだよ」


「……あぁ、拉致しているのが事実か、ということと……あと場所が分かればいい。普段どこにいるのか」


「…………」


 フリックで何やら操作を始める金髪。



 ***


『ごめん、聞きたいことあるわ』



 金髪と共にスマホを覗き込んで返信が来るのを待つ。

 すると、5秒後には返信が返ってきた。

 随分と暇な奴にLINEをしているらしい。


『おう、どした』


『昨日言ってた蒼汰さんのことなんだけど』


『あぁ、女拉致って遊んでるってやつな』


『そうそう。あれって、マジなの?』


『あぁ、ちょっと前らしいけどな。俺も本人から聞いた。でも、アイツが何考えているか分からん』


 なるほどな。

 この金髪の友達は蒼汰と同じ学年ということもあって蒼汰の本人事情に相当詳しい人間らしい。

『本人から』聞いたのは、一番信頼できる情報源だ。


『あともう一つなんだけど』


『まだあんのか?』


『あともう一つだけ』


『蒼汰さんって大体どこにいる?』


『そんなんお前知ってどうすんだよ』


「……どうすんだよ。」


 こちらを見てくる金髪。

 うむ。

 怪しまれないための理由付けか…………。


「本格的に舎弟狙ってんだよね~、とかどう?」


「舐めんな。舎弟なんかで終われるか。いつか工業のテッペンとるんだよ」


「うるせぇよ。俺に負けてるくせに」


「ぐっ…………!」


 おっと。

 これは効いたな~。

 阿久津ナイス。


「お前のプライドとかメンツとかどうでもいいからいいから早く送れよ。怪しまれんだろ」


「……お願いします」


 両手を合わせてお願いのジェスチャー。


「くっそ………」


『蒼汰さんと仲良くなりたくてさ。舎弟?目指してんだよね』


『馬鹿か笑笑』

『蒼汰はなんか女のところによくいるらしい』


『女のところ?』

『どっかの店とか?』


『いいや、家らしいぞ』


『女の家に行ってるのか?』


『そうそう。なんかめちゃくちゃデカい家らしい』

『詳しくは俺も知らん』


『おけ、さんきゅ』


『(なんか可愛い猫が親指を立てているスタンプ)』





「……これで満足か?」



「……ご協力感謝します。あと今日のことは蒼汰さん本人には……」


「言えるか! 喧嘩には負け、挙句の果てに協力させられてたなんて情けない!!」


 ほう~。

 弱い奴ほどよく吠える理論。

 プライドだけはいっちょまえだが、とりあえず阿久津にタイマンで勝てるくらいにはならないと工業のテッペンは厳しいと思う!!





「……まぁ、解放してやるか」



 また来ても返り討ちにしてやるぞ。

 ………阿久津が。





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