第30話 急転

 




「……はぇ~~。そこまでいくんか」


 話を聞き終わった阿久津は、深く深く頷いていた。

 アホ面がさらに磨きがかかっていて面白い。

 でも阿久津のリアクションも正直分かる。

 突拍子のなさで言えば、これまで行ってきたこと全てを遥かに凌駕する。


「これが俺の考えている計画。どう思う?」


「どう思うって言われてもな……。お前がやるって言うんなら、そりゃやるんだろうけど……」


「…………」


「……まぁ、なんだかんだ大丈夫か」


「…………よし」


 阿久津の賛同は得られたな。


「ふぃ~………」


 ぶっ通しで喋ったせいで喉が軽く痺れている。

 ……まぁ、コーラでも飲んでちょい休憩。


「おっ、あれ舘坂じゃね?」


「まじで? ナイスタイミング」


 最後の同志の登場。

 ファミレスの入り口から小走りで中に入ってくるギャル。

 でもなんか、そわそわしてるっていうか……。

 焦ってる?

 俺らを探しているのか、雅は何度も周りをキョロキョロとみている。


 あっ。

 目が合った。



 すぐに、こちらのテーブルに駆けよってくる。

 なんか……、様子が…………?



「よぉ、キモまつ毛。どうしたんだ? そんな焦って」


「そんな話してる場合じゃないんだけど。――――――ねぇ、みんな聞いて」


「「「???」」」





「七海ちゃんがいなくなったらしいの」





 ***




 七海――――――。

 俺らの中でその名前は特別なものだった。

 背筋が少しだけピリつく感覚。

 あの頃の感情やら何やらが戻ってくるような。


「舘坂、どういうこと?」


「たいちっち………、みんなも急にごめんね。ウチ無視できなくて」


「…………いや、無視できるわけない。雅、聞かせて」


 えっとね……と、言葉を探しながら、必死に言葉を紡ぎ出す雅。

 久々にテンパってんな……。

 しかしそれは俺らも同じ。


「七海ちゃんの両親が警察に捜索願を出したみたい。さっきマル坊からLINE来たの」


「マル坊から……? まつ毛女、お前何でマル坊のLINEなんて持ってんだよ」


「七海ちゃん関係の連絡で、交換したことがあったの。何ならウチ、七海ちゃん本人のLINEも持ってるし」


 何!!!?

 それは聞いていない……。

 というか、雅。

 俺らの誓いを忘れたのか……?


「言わなかったのは本当にごめん。でも、七海ちゃん1ヶ月近く家に帰っていないんだって……。ねぇ佐々木どうしよう…………」



 …………。



「1ヶ月………。なぁ、舘坂。七海にLINEはしてみたのか?」


「さっきした。でも既読もつかない」


 …………。


「ねぇ、佐々木。どうしよう。どうすればいいの?」


「おい、雅。落ち着けって、佐々木も色々今考えてんだよ」


「そうだよ、舘坂。今焦っても何にも始まらない」


 ……………。




 さて。

 どうすっかな……。



 突然のことで頭が働かない、というのが本音。


 1ヶ月の失踪だったら、何か犯罪に巻き込まれている可能性も捨てきれない。

 事故だったら限りなく生存確率は低い………。

 遭難……?

 いやまさか………。


 自分から?も無いとは言えない。




 何であれ。




「何で……七海ばっかり………」




 俺は。



 女の子の名前を呟いた。







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