第4話 わ~お

翌朝。

重たいまぶたを無理やり持ち上げるように、ぼんやりと意識が浮かび上がった。

体がだるい。眠りが浅かったのか、夢を見ていたのか――よく思い出せない。




.........うるさぁ...


枕に顔を埋めたまま耳を澄ます。

規則的に響く小さな電子音が、頭の奥にじわじわと染み込んでくる。

最初は気のせいかと思ったが、その音は途切れることなく続いていた。

__聴きなれたスマホの通知音

スマホは普段から音量を絞っていた甲斐もあって音量自体はそれほどでもない。

部屋の静けさを埋め尽くすように、しつこくしつこく鳴り続けている。


寝ぼけたまま布団の中から手を伸ばし、枕元のスマホを掴む。

冷たいガラス面に指先を滑らせ、スリープを解除したその瞬間、画面が光を放ち、眠気が一気に吹き飛んだ。


「……っ!」


画面いっぱいに並ぶ、膨大な通知の数。

見慣れたはずのアプリのアイコンが、異常なまでの数で赤く染まっていた。

スクロールしても、しても、終わらない。

画面を埋め尽くす勢いで押し寄せる通知が、ただの数字ではなく現実の波となって目の前に広がっている。

指先がかすかに震える。寝ぼけた眼は完全に冴える。

通知音の原因は、すべて――昨夜、一昨日と投稿した、あの二つの動画だった。



親指が勝手に動き、通知の一覧から自分のアカウントページへ切り替える。

読み込みのアイコンがくるくると回る。その数秒が異様に長く感じられた。



――表示された瞬間、息が詰まった。

初日に投稿した動画の管理画面

再生回数 12万。

いいね 3万4千。

そしてフォロワー数は、昨日までわずか一桁だったはずなのに、いまは何千という数字に跳ね上がっていた。


すべては――初日に投稿した、あの動画に対する反応だった。


呆然としたまま、指が画面を滑る。

次に開いたのは、昨日投稿したばかりのもう一つの動画だった。


――再生回数 26万。

いいね 7万。

自身のアカウントフォロワー数は、昨日までわずか一桁だったはずなのに、いまは9万という数字に跳ね上がっていた。


目が追いつかない。眺めているだけで頭がくらくらし、指先が小刻みに震える。

桁外れの数字が無機質に並んでいるはずなのに、それがただの記号ではなく、確かに「人の反応」であることを肌が理解してしまう。

スクロールするたび、コメント欄が新しい声で埋め尽くされていく。


@skyblue_17  :「鳥肌立っちゃった…こんな気持ちになったの久しぶりです」

@musiclover_aya :「もっともっと広まってほしいです!私もシェアしますね♡」

@midnighttear  :「夜中に偶然出会って号泣しました。本当にありがとう」

@nana_heart  :「泣きながら聴いてます。大切な人を思い出して胸がぎゅっとしま

した」

・・・

・・


賛辞、感謝、驚き、涙を表すスタンプ。

流れ込む言葉が、胸の奥に押し寄せてきて、現実感を削り取っていく。


昨日まで、再生十数回の世界にいた。

それが一晩で、ここまで伸びるなんて思いもしなかった。確かに伸びて欲しいとも思ったし、認めてほしい、見つけて欲しいとは思ったがそれでも、ここまで急激な変化だとはいくら何でも思ってなかった。

スマホを握る手に、いつの間にか力がこもっていた。

押し寄せるコメントの波に気圧されながらも、親指で画面をスクロールしていく。


@aya_smile  :「こんなに優しい気持ちになれたの久しぶり。ありがとう」

@noa_dream :「涙が止まらなかった…。まるで自分の気持ちを歌ってくれてるみ

たい」

@miyu_love :「心に真っ直ぐ届きました。次の曲も楽しみにしてます♡」


どれも温かく、胸の奥にそっと触れてくる言葉ばかり。


さらにスクロールすると、少し照れくさいコメントも混じっていた。


@hikari_girl :「声にドキッとしました…あなたが気になって仕方ないです」

@erina_cute  :「こんな人が彼氏だったら幸せだろうなぁ」


普段なら冗談半分に流してしまうような言葉まで、今日は妙に真っ直ぐに響く。

それほどまでに、自分の存在が“多くの誰かに届いてしまった”という事実が重かった。

ひと通り目を通したとき、深く息を吐く。胸に残るのは、不安よりも確かな安堵。

自身が生んだ楽曲がたとえ与えられた物だとしても、誰かに認められたのは素直に嬉しかった。



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