25.全員幸せにしてやるんだからな

 はい集合ー。


「ちょいちょいちょいマジで理解が追いつかん。なんでここに師匠せんせいが?」


 急に事態が収束してみんな混乱してるだろう。

 でも一番混乱してるの私だから。


「うむ。久しぶりに弟子の顔でも拝もうと思ってのう。タルト村から気配を辿って追ってきたというわけじゃ。わらわの方がここには早く着いたようじゃがの」

「あの、リコ………。この方とお知り合いだったんですか? というか師匠せんせいというと例の」

「あーうん。その師匠せんせい

「テルナ=ローグ=ブラッドメアリーじゃ。よしなに頼むぞ」


 その名前を聞いて驚愕したのがドロシーと、その場に居合わせた男だ。


「テルナって、まさかあの真紅の女王ブラッディクイーン?!!」

「血の福音……意思ある災厄と謂われる伝説の吸血鬼ヴァンパイア!! 実在したのか?!!」

師匠せんせいそんな風に呼ばれてんの? 初耳なんだが」

「人が付けたあざななどに興味など無い。積もる話もあろうが、まずはこの街が無事になったことを責任者に伝えねばのう。そこの男、ひとっ走りしてまいれ」

「い、いやちょっと待ってくれ! まだ頭が」

「行け」

「はいっ!!」


 眼光鋭っ。

 のじゃロリババアのくせに。


「さて、これで落ち着いて話せるのう」

『テー。久しぶりー』

『元気にしてたでござるか?』

「おうおうリルム。シロンもルドナもウルも、皆息災のようじゃの。変わらずいな。クハハ、それにしてもリコリスよ。しばらく見ぬ間に、随分と女を侍らせておるではないか。人間の中でも最高峰の魔法使いに、ハーフエルフの魔女。獣人族の子ども。皆良い顔をしておる」


 マリアとジャンヌは撫でられて嬉しそう。

 身長一緒なの見ててウケるな。


「いやぁ、自慢の女たちですからねハッハッハ。じゃないんだが……ていうか、師匠せんせいがここにいるってことは、やっぱりあのスケルトン…」

「クハハ。クハハハハ! いやすまなんだ!!」


 土下座☆

 のじゃロリババアの土下座ってこっちが罪悪感あるんだが。


「待ってどういうこと? 何が起こってるの?」

「あー、そのなんじゃ」

師匠せんせい、ここだけの話にしとくから。あのスケルトン、師匠せんせいの【召喚魔法】でしょ」

「はあ?!!」

「うむ……じつは、のう……久しぶりにリコリスに会うなら、少し腕を見てやろうと思い、昔よく使ったスケルトンでの実戦訓練をと…。しかし長旅の疲れもあって、魔法を使ったまま眠ってしまってな…。妾ってば魔力マナは無限じゃし、魔法の途中なことも忘れてフラフラして、ついさっきそれを思い出したんじゃ」


 その結果【召喚魔法】は次々と魔物を呼び続けたと。

 しかもこの吸血鬼ヴァンパイア、真祖とかいう吸血鬼ヴァンパイアの中でもトップオブトップの一族らしく、力が大きすぎて観測が出来ないらしい。

 誰も魔法の痕跡に気付けなかったのはそういうことだ。

 どおりで際限が無いわけだ。


「ということは」

「自分で召喚した魔物を自分で始末しただけ、ってこと?」

「盛大なマッチポンプじゃねーか! なのにあんなカッコいい登場してイキったの師匠せんせい! 嘘って言ってよ恥ずかしくないの?!」

「ほんっとすまん!!」


 いさぎよし。

 こんなの絶対知られてはいけない。

 んで、しばらくして何とかに連れられてシースミスさんがやって来た。


「まさか生きてるうちに伝説を見ることになるとはね。恐れながら光栄と述べさせていただきます、ブラッドメアリー様」

「うむ。楽にせよ人の子」


 偉ぶんな元凶。

 と言いつつも、事件の顛末をそのまま伝えるというわけにもいかず。


「どこぞの魔法使いが実験にでも失敗したのじゃろう。もうスケルトンが湧くこともないから安心せい」


 何をいけしゃあしゃあと、なんて思ったけど、私たちは揃って口を噤むことにした。

 報酬だって貰えるわけもなく。

 むしろ慰謝料払えちくしょー。

 なんやかんやあって解散。

 事件発生から今に至るまで約四十分。

 語るべくもない珍騒動なのでしたとさ。




「いやぁー、焦ったのう」

「ホントだよ。下手したら捕まってたでしょ」

「クハハハ、バカめ。妾を容れる檻などこの世にあるものか」


 宿のベッドに腰掛け、師匠せんせいは上機嫌に笑った。


「ていうか何その仮面と格好。昔そんなんじゃなかったくない?」

「趣味というかキャラ付けじゃな。似合っとろう? ミステリアスで」

「千年以上生きててキャラ付けとか言うなよ。今何歳だっけ?」

「20を過ぎた辺りから数えるのをやめた」


 早えよそれは根気の問題だろ。

 ステータスを見てもらったら、1999歳だってさ。


「んじゃまあ、とりあえず紹介だけでもしとこうか。私の仲間のアルティとドロシー。それにマリアとジャンヌ」

「はじめまして!」

「よろしくお願いします!」

「うむうむ。元気があって良い」

「そんで、テルナ師匠せんせい。私にスキルのことを教えてくれた師匠せんせいで、吸血鬼ヴァンパイアの真祖さん。6歳のときに村で会って、そこから二年くらい色々教えてもらってたから、会うのは十年ぶりか」

「月日が経つのは早いのう。悠久を生きておる妾には、十年など矢の如き刹那じゃが」


 スケールが違うんだよ。

 不老不死の括りに入れんな。


「本当に本物なのね」

「存在そのものが災厄と謳われる、この世界の最強の一柱ひとり……」

「否。アルティよ、それは違う。この妾こそが唯一にして無二の最強じゃ」


 ドヤ顔でキメんな。 

 相変わらず顔が良いなこの人。


「ねえねえ、テルナせんせーはなんでお姉ちゃんの師匠せんせいなの?」

「聞きたいか?ならば教えてやろう。それはそれは運命的な出逢いでの――――」

「ある日フラッと村に現れたと思ったら血を吸われたんだけど、【百合の姫】の影響モロに受けた挙げ句に当時6歳の私にガチ恋べた惚れしてんの」

「言うでないわこのバカ弟子めェ!!!」


 顔真っ赤だぞ真紅の女王ブラッディクイーン(笑)




 昔々。

 タルト村という片田舎に、一人の吸血鬼ヴァンパイアがやって来ました。


「小腹が空いたのう。ん? いいところに子どもがおるではないか。なかなか美味そうな匂いをしておる。どれ、一つ味見をしてやろう」


 吸血鬼ヴァンパイアは女の子に近付くと、優しく声をかけました。


「そこな娘」

「んぁ? うおーめっちゃ美少女ー! 枯れ木も山でサンバカーニバルだぜー! ひゅー!」

「ん? おぉ……んん? なんじゃこの娘」


 女の子は少し変わった女の子でした。


「ああ、すまんがちょっと頼まれてくれぬか? なにすぐに済む。手は取らせぬよ」

「いいよ! 何する? お医者さんごっこ?」

「お医者さんごっことやらはわからぬが、そうじゃな。少し目を瞑っておれ」

「チューされるやつだーーーー!! やったぁぁぁ!!」

「黙っておれ小娘が!」


 カプリ

 吸血鬼ヴァンパイアは女の子の首に噛みつくと、チュウチュウと血を吸いました。

 チュウチュウ。

 コクン。

 そして。


「は?? 美味すぎなんじゃが? 何じゃこの血、意味がわからぬ……というかこやつ………………美しすぎはせぬか?!」

「どしたの?」

「はうっ!」


 心臓がドキドキして女の子の顔もまともに見れません。


「ねえねえ?」

「ちょ、ダメ……顔近い……! そんなに見つめられたら……妾、妾ァ……はわわわわ……!」


 頭が真っ白になった吸血鬼ヴァンパイアは、顔を真っ赤にして叫びました。


「しゅ、しゅきになっちゃうのじゃあーーーー!!」


 こうして、不老不死の吸血鬼ヴァンパイアは初めての恋に堕ちたのでしたとさ。




「んで、仮にも世界最強の吸血鬼ヴァンパイアが子どもにガチ恋なんて体裁が悪いとか何とかで、師匠せんせいと弟子の関係に無理やり落ち着かせたのよこの人」

「なー!にー!をー!ペラッペラと全部喋っとるんじゃこのアホが! 妾の威厳が無いじゃろ威厳が! 妾は史上最強の吸血鬼ヴァンパイアじゃぞー! このたわけー!」


 襟首を掴まれてグワングワンされるけど、事実なんだから仕方ないだろって。


「で、そんな感じで無理やり弟子にされて、スキルのこととか色々お世話になったんだよ。けどこんなんでも一応世間に知られれば騒がれるから、お父さんとお母さんにも秘密にしてて」

「ソフィアさんなんか、知れば怒りそうですもんね」

「そうなんだよォ……考えただけでお尻が痛くなる……。だから内緒にしといてお願いぃ……」

「それはさておき」


 さておかんといて。


「疑問があるのですが、紆余曲折あるとはいえど、テルナ様も」

「テルナでよい。同じ庇護下、遠慮は要らぬ。そなたには借りもあることじゃしな」

「では失礼して。テルナも【百合の姫】の影響を受けているのですよね? スキルの使い方も教えたとか。先程の一件も含め、相当な数のスキルを有していると思われますが、その割にリコはテルナのスキルを使っている節がありません。【隠蔽】と【鑑定阻害】くらいで。それはどういうことですか?」


 目聡いねえ。

 君のような勘のいいガキは好みだよ。


「簡単な話よ。妾がスキルの共有を拒否しておるだけじゃ」

「拒否?」

「パッシブスキルである【毒耐性】を故意に弱め、酒に酔いやすくするといったように、鍛えればスキルは己の意思で如何様にも操作、変革を起こすことが出来る。【百合の姫】が如何に魂の深度で関係性を結びつけようとも、妾が是とせねば妾のスキルは使えぬ。言うてもこやつは当時齢一桁の小娘。妾のスキルが使えたとて、それに振り回される人生を過ごしたじゃろうからな」


 言い分は立派だけど、ようはそれも体裁どうこうの話だろ。

 師匠せんせいのスキルはどれも欲しいのばっかりなんだよなぁ。


「テルナ師匠せんせいが使ってたあの赤いのも魔法?」

「うむ。あれは【血液魔法】という、吸血鬼ヴァンパイアの固有スキルを、妾が独自に進化させたオリジナル魔法。名を【紅蓮魔法】という」

「すごい! カッコいいです!」

「フッフッフ。崇められるのは気分がよいのう」


 両隣にマリアとジャンヌ侍らせて、また上機嫌な師匠せんせい

 この人めちゃくちゃ歳上なだけあって、普通に幼女性愛者ロリコンなんだよな。


「さすがリコリスが選んだ者だけのことはある。気に入ったぞ。そうじゃ、アルティへの借りもあることじゃしな。この良き出逢いを祝福し、そなたらに一つずつスキルを授けてやろう」

「スキルを?」

「授ける?」

「マジで! 師匠せんせい大好き愛してる!」

「そんなこと言ってもスキルの共有はしてやらぬぞ」


 チッ。


「妾のスキルの一つに、スキルそのものを司るスキルがある。スキルを創造し他者へ授けることの出来るスキルじゃ。そなたらが望む力を与えよう」

「望む力と言われても、そんないきなり…」

「本当にそんなこと出来るの?」

「妾が不可能を知らぬように、不可能は妾を嫌うておる。望めば叶い、願えば成す。妾とは世界の理の外なる者よ」

「カッコつけんなよ師匠せんせい。私の前じゃただの可愛いロリババアのくせによぉ」


 ほれ顎クイ。


「その可愛い唇塞いでやろーか?」

「はにゃぁぁぁなのじゃあ……」


 チョロ吸血鬼め。


「見た目が限りなく犯罪」

「何歳差だと思ってんだ」

「コッホン! まあいきなり言われても思いつかんじゃろうし、一晩ゆっくり考えるとよい。リコリスよ、妾もここに泊まるぞ。良いな?」

「いいけど、ベッドは人数分しかないよ」

「バカ者め。そなたと寝るに決まっておろう。久しぶりに」


 ペロッ、と師匠せんせいは舌舐めずりを一つ。


「甘露も味わいたいものじゃしな」

「いけません!」

「うおお? どうしたアルティ」

「なんかハレンチなので認められません! 私のベッドを貸しますのでそちらで寝てください! リコとは私が寝ます!」

「いやどういう状況だよ」

「それならアタシがリコと寝るわ。それで平等でしょ」

「やー! 私がお姉ちゃんと寝る!」

「私もお姉ちゃんと寝たいです!」


 ワイワイガヤガヤ。

 おっほ、モテるのツラぁ♡

 可愛子さんたちがよぉ♡

 全員まとめて抱いてやるってー♡


「リコ!」

「うぃっす!」

「リコは誰と寝たいんですか?」

「ハッキリしなさいよ」

「妾じゃよなぁ?」

「「お姉ちゃんっ!」」


 圧ッ。

 全員まとめて抱いてやるってー♡とか思ってた数秒前の強気な自分はどこへやら。


「わ、私……床でいいよ……?」


 変なところに着地点を作った私は、不満そうな目でみんなから睨まれることになった。

 今度からはめちゃくちゃ広いベッドがある部屋借りなきゃ……


「ヘタレ」

「ボソッと言うな傷ついちゃうぞ」

「まったく。あ、そういえば気になったことがあるんだけど。リコリスに惚れてるのはわかったけど、なんで二年でこいつの元を去って、今また会いに来たの?」

「あー、そういえばある日突然消えたよね? なんで?」


 元からフラフラしてる人だから、また気まぐれでどっかに行っちゃったんだと思ってたけど。

 師匠せんせいは高笑いを止め、顔を赤くして言い澱んだ。


「それはー、じゃなぁ……そのぉあれじゃ……」

「もしかしてこのまま一緒にいたら身も心も捧げたくなるくらい好きになっちゃうヤバいヤバい〜っていなくなったけど、時すでに遅しで私のことだいだいだーい好きになっちゃって、成長した私にたまらなく会いたくなってついに我慢出来なくなったとか?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!! だからなんで全部言っちゃうんじゃこのバカ弟子がーーーー!!!」


 私が思ってた以上に、私は師匠せんせいに愛されていたらしい。 

 当時とはいえ6歳にガチ恋とか、一周回って純愛じゃないか。

 まったく、のじゃロリババア吸血鬼は最高だなっ。




 そして次の日、街は何事も無かったかのように朝を迎えた。

 とは言っても、被害という被害は無かったらしいけど。

 冒険者たちは活動に勤しみ、商人たちは活気づく。


「たくましいものよの」


 他人事みたいに言ったので、師匠せんせいの昼ご飯は抜きにしようと思う。

 昼頃、ギルドから遣いがやって来た。

 シースミスさんが話があるというので、揃って冒険者ギルドを訪れたら。


「ほら、報酬だ」


 金貨が入った革袋を渡された。


「いや別に私たちは」

「スケルトン発生の解決はさておき、調査に時間を割いたのは確かだろう。正当な報酬だ。必要無いなら教会にでも寄付しておいで。それからこれだ」

「書類?」

百合の楽園リリーレガリアのメンバーを特例で昇級させる」


 何故に?


「昨日の活躍が市民たちから届いていてね。その上今回のことを陛下にも知らせないといけない。ブラッドメアリー様のことも含めてね。そうなると、メンバーのほとんどが初級ってのは体面が整わないのさ」

「大人の事情はよくわかんない」

「都合のいいときだけ大人ぶって。悪い女だねあんたは」

「ニシシ、そんな私を好きって言ってくれる人たちがいるもんでね」


 なになに?

 二階級特進で粘体スライム級から妖精フェアリー級か。

 ドロシーも同じ妖精フェアリー級で、マリアとジャンヌは子鬼ゴブリン級。

 アルティも精霊エレメンタル級から悪魔デーモン級へと昇級した。


「またリコとお揃いじゃない……」


 なんてボヤくアルティも可愛くてね。


「ふむ、冒険者か。よしリコリス、妾もそなたらのパーティーに入るぞ」


 言って驚いた顔をしたのは、私と事態をあまりよくわかっていないマリアとジャンヌ以外。


「何も驚くことはないのじゃ。何百年か前に暇潰しに登録したものが……どこにしまったかの」


 当たり前みたいに【空間魔法】使うじゃん。


「おおあったあった。ほれ、ちゃんと冒険者登録しとるじゃろ?」


 取り出したカードには神竜ドラグニール級とある。

 世界に何人かしかいない最高ランクの冒険者だ。


師匠せんせいやっぱすごい人なんだね」

「クハハ、もっと褒めよ」

「後でね。ってことらしいんで、パーティー登録だけしておいてくださいシースミスさん」

「……あんたらみたいのが仕事と頭痛の種を増やすのさ。昔からね」


 まるで問題児みたいに言われた。


「ていうか師匠せんせい、私たちと一緒に来るつもりなの?」

「いいじゃろ?」

「いいけど。ちゃんと働くんだよ? 働かざる者クソニートって昔から言うんだから」

「わかっておるとも。我が不肖の愛弟子よ」


 ロリボディでギュッてされるのたまらーーーーん。

 ロリババアからしか堪能出来ない栄養があるーーーー。

 はい、そんなわけで師匠せんせいが仲間になりました。

 今日は歓迎会だな。




 それからアンドレアさんのとこにも顔を出した。

 スケルトン襲撃で何か不便をしていないか、って意味で。

 そしたら。


「聖王国から買い付けた魔除けの護符が飛ぶように売れていますよ。いやぁ、大量に在庫を抱えていたので助かります」


 と、商魂たくましいこと。

 非常事態もこの人にとっては商売のチャンスだったらしい。


「じつは、そろそろ街を出るつもりでいるんですよ。王都の本店が忙しくなってきたもので」

「奇遇ですね。じつは私たちもそろそろかなって。やりたいことも済んで、欲しいものも揃ったので」

「旅はいいですね。次の行く先はどちらへ?」

「さあ。気の向くままに」

「ハッハッハ。それはそれは」

「何か言いたげな含み笑いですね」

「わかりますか? 王都へ戻る道すがら、冒険者として皆様に護衛の依頼を出そうかと考えました」


 護衛依頼か。

 アンドレアさんのことだから金払いは良さそう。


「迷いどころですけど、そうなるとまた同じ道を戻らなきゃいけないですしね」

「いえいえ、陸路ではございません。なんせ荷物が多いもので。当方の船を使おうと」

「船……ってことは、海!」

「ええ。ドラゴンポートの南から西側に弧を描く形で。約二週間ほどの船旅になるかと」

「二週間? 海路って陸路より速いイメージですけど、そんなにかかるものなんですか?」

「王国の南に、アイナモアナ公国という複数の島々が集まった常夏の島嶼国とうしょこくがあるのですが、そこで採れる果物がそろそろ時期でしてね。王国の貴族に大変人気なもので、ついでに仕入れに立ち寄ろうかと」


 ほぉ、それはそれは。

 果物より魅力的な南国の日に焼けたお姉さんがいっぱいいそうですねぇ。


「船を出して二週間、陸路で王都を目指し一週間の、約一月の期間にはなるのですが」

「なるほどなるほど。ちなみに船は」

「大したものではありませんが、そうですね……乗員400名が快適に寝食を過ごせるくらいのガレオン船といったところでしょうか」


 めっちゃいい!

 美女たちと船旅かぁ……ウッヘッヘ、そんなん絶対楽しいじゃん!


「わかりました! その依頼受けましょう! 百合の楽園リリーレガリアにお任せを!」

「ありがとうございます」


 よっしゃー!

 ワクワクしてきたぜー!

 うーみっ!うーみっ!

 ひゃっほーい!




「諸君! 次の目的地が決まった! 常夏の島国にお姉さんを食べにじゃなかった果物を食べに行くぞー! グヘヘ!」

「隠しきれない煩悩」

「欲望の権化じゃないですか」

「島ー?」

「果物ですか?」

「そうだぞーしかもおっきな船に乗って。海の上を行くんだ!」

「船! 乗りたい!」

「乗りたいです!」


 妹たちも興味津々。

 じつは前世含めて私も船なんて乗ったことないし、ちょっとドキドキしてたりして。

 

「日に焼けるのはのう」

「キャラ付けで日傘差してる吸血鬼ヴァンパイアが日焼け気にすんな。それより今度こそ水着水着ー♡ 海でいっぱい遊ぶぞいっ♡ ひゅー♡」


 あー楽しみ。

 出発は明後日。

 二週間だからなー。アンドレアさんが支援してくれるとはいえ、ちゃんと準備しとかなきゃ。


「それよりそなたら、どんなスキルが欲しいか決まったのか?」

「テルナお姉ちゃんっ、私空を走れるようになりたいなー。前にリコリスお姉ちゃんの風魔法でフワフワ浮いてるの楽しかったから、もっとビューンって速く」

「私は本を書きたいけど、絵も描きたいなって。色んなことを同時に出来たらいいなって思うんですけど、そんなスキルはありますか? テルナお姉ちゃん」


 サラッと妹たちにお姉ちゃん呼びさせてるじゃん。

 お姉ちゃんじゃなくておばあちゃんだろ。


「クハハ、わらわってば弟妹に憧れてたのじゃ。うむうむ、容易いぞ妹たちよ。どれ」


 師匠せんせいはマルチウィンドウみたく、スキルが羅列された半透明の画面を出現させた。

 キーボードを叩いてタブレットを操作しているみたいな作業は、私の目に懐かしい。

 どんなスキルでも使える人外、怪物の師匠せんせいだけど、じつは持ってるスキルは大まかにたった3つだけ。


「空を走れるように…マリアは元からスピードはあるようじゃし、シンプルに風の魔法を組み込むよりも、魔力マナを基盤に空気を凝固し足場に変質させる方が良かろうな」


 ユニークスキル【紅蓮魔法】。

 血を操ることに長けた師匠せんせいのオリジナルで、対人から対軍まで制圧可能な、威力と範囲、汎用性を全て兼ね備えた超魔法。

 次に。師匠せんせいを無敵足らしめるのが、ユニークスキル【無限】。

 文字通り、魔力マナを無限にして高威力の魔法を連発出来るようになるスキル。

 無限の指定が魔力マナに限らないんだから、これはただのバグ。

 そして複数のスキルを統合してそれらを完成させたのが、ユニークスキル【全知全能】。

 師匠せんせい曰く、全てのスキルを統べるスキル。

 神様の加護が関係してるらしいんだけど、それはいい。

 まあ結局何が言いたいかというと、この人はただのチートなのだ。


「よし、これで完成じゃな。ほれ、マリア、ジャンヌ。そなたらのスキルじゃぞ」

「エクストラスキル……【天駆】【神速】」

「エクストラスキル……【並列思考】【見えざる手】」


 二人が与えられたスキルは、それぞれこんな感じ。

 【天駆】…空中に見えない足場を作り空中を駆けるスキル。

 【神速】…自分の速度を十秒間の間、十倍にするスキル。

 【並列思考】…同時に複数の思考が可能になるスキル。

 【見えざる手】…視界内で魔力マナで作られた不可視の手を操るスキル。


「いやすごいけど可愛い妹たちになんてスキルあげてくれてんだ」

「ユニークじゃないだけいいじゃろ?」

「一人一つって言ってたじゃん。感覚が孫にお小遣いあげるおばあちゃんじゃねーか」

「リコリスお姉ちゃん! 見て見て! 私空走ってるー!」

「離れたところの物を持ち上げられますー!」


 いきなり使いこなすな天才か妹たちすごいね。


「全部が異常事態」

「ついていけません」

「安心して。私もだから」

「くだらぬことを言うておらんと、そなたらもどんなスキルがいいか決めよ。早々無いぞこんなお得な機会」

「それもそうね。なら、アタシは金運が上がるスキルがあればいいわ」

「うえぇ、いいのドロシー? かっこつけなくていいんだよ? この人甘いから言えば結構ガッて行けるよ?」

「誰がチョロリババアじゃ」

「いいのよ。これくらいでね。それとも、であんたをメロメロにするスキルの方が、あんたは嬉しかったかしら」


 指クイクイすんな。

 ドロシーがもらったのは【金の恵み】というスキル。

 収入が増えるとか、落ちてるお金を拾いやすくなるとか、まあそんな感じのものだった。


「アルティよ。そなたはどうじゃ?」

「じゃあ、魔力マナの消費が半減するようなスキルがあればそれで」

「おお、急に実用的じゃな。まあよいが。ならこの辺りじゃな」

「エクストラスキル、【魔導書グリモワール】?」

「消費魔力マナの半減と回復速度の上昇、魔法の威力上昇。より精密なコントロール。魔力マナの感知。それらを補正する魔法使い垂涎のスキルじゃ」


 【魔導書グリモワール】か……アルティにピッタリなスキルだな。

 人の本質を見抜くんだから、やっぱなんやかんやすごい人だ師匠せんせいは。

 と、褒めたところで。

 

「んじゃ師匠せんせいっ♡私もスキルをー♡」

「そなた何もせんでもスキル増えるじゃろ」

師匠せんせいからのプレゼントが欲しいのー♡」

「しょうがない奴じゃのっ!もうっ!」


 はいチョロリババア。


「とはいえそなたにはもう作っておいたんじゃがな。ほれ受け取れ」

「なになに? 【管理者権限アドミニストレートスキル】?」

「どうせこの十年でやたらとスキルを増やしたんじゃろう。これはそれらを整理するためのスキルじゃ。使い方は自ずとわかる。上手く使うが良い」

「よくわからんけど、うん。サンキュー師匠せんせい。愛してる」


 チュッて軽くほっぺにキスしたら、師匠せんせいは真っ赤になって顔を茹で上がらせた。

 ウシシ、歳上を手玉に取るこの優越感よ。


「リコ」

「うい? むぐっ!」


 振り向いたのと同時にキスされたぁ〜。


「アルティ、さん?」

「調子に乗ってたので」

「さーせん……」

「大人しさが借りてきた猫じゃない」


 だっていきなり唇はこうなるだろ!

 もうアルティったら!えっちなんだから!


「いいなー。私もお姉ちゃんとチューするー」

「わ、私もしたいです」

「求められたら吝かではないけども妹たちよ。人がしてるから自分もしたいっていうのはちょっと受動的だぞ。人とは能動的な生き物だ。如何に今そういう流れだったとはいえだよ?君たちはまだ子どもで一番自分というものを大事にしなければいけない多感かつ複雑な時期であるからしてだね」

「チュッ♡」

「チュッ♡」

「二人同時にチューされるのヤッバちょっお医者さん呼んどいて今から急患出るからはいバタン!!」


 もうね、みんな可愛くてヤバいがすぎる。

 心臓いくつあっても保たねえ〜。

 好きって気持ちをどストレートにぶつけてくるんだもんなぁ。

 はぁ幸せ。

 私が幸せなだけ、お前たちも全員幸せにしてやるんだからなと意気込んで。

 私たちの旅は、海の上へと舞台を変える。

 果てない青の向こうに何が待つのか。

 今はまだ、誰も知らない物語。

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