1.私、転生

「あぅ……あー」

「あら、起きた? おはようリコリス」

「おお今日も可愛いぞ。さすがおれたちの娘だ」

「あー」


 ベッドから私を抱きかかえたこの優しそうな女性は、何を隠そうお母さんのソフィア。

 その横のイケメンがお父さんのユージーン。

 私は二人の娘、リコリス=ラプラスハートとしてこの世界に転生した……らしいことを先日教えられた。

 誰にって?

 神様。




「どうも神です♡ 転生させちゃった♡」


 軽ッ!

 てかなんで?


「顔がねすっごい好みだったのぉ♡」


 顔て。


「なんていうかね、もう本当どうしようもなくすっごく好み♡ 私が人間だったら一生養ってあげちゃうくらい好き♡」


 おぉ、ヒモ生活……

 じゃなくて、転生って?流行りすぎて溢れ返ってるやつ?


「流行りすぎて溢れ返ってるやつ♡ でもね、転生させたからって使命とか無いんだよ♡ リコリスちゃんは好きに生きていいからね♡ たまーに教会とか神殿でお祈りしてくれたら嬉しいかなーくらいだから♡」


 はぁ、そうですか……

 あの、なんで私を転生させたんですか?


「だってリコリスちゃんが願ったから♡」


 願った……気がする。

 いや、うん、願ったわ。


「あんまり時間は無いから、また今度会うときいっぱいお話しましょうね♡ 最後に私からの贈り物♡ 健康な身体と、世界の知識と、リコリスちゃんの人生に役立つスキルだよ♡ リコリスちゃんの人生が、幸せいっぱいでありますように♡」


 って言って消えちゃったんだよなあの神様。

 めっちゃキレイな人だったなぁ。




 というわけで、不肖このリコリス。

 このタルト村で、絶賛赤ちゃんライフの真っ最中であります。


「はーいリコリス。ご飯よ」

「あー!」


 ひゅーう母乳の時間だぜー!

 ちゅーちゅー。

 ぷはーたまんねー!


「いいなぁリコリス。おれも味見させてもらおうかな」

「あら、大きな赤ちゃんね」

「だーだーだー!!」

「フフ、私のご飯だーって言ってるみたい」


 ええい寄るな寄るな無礼者!この乳は我のぞ!

 合法的に乳飲める赤ちゃんサイコー!




 転生してから一週間。

 赤ちゃんライフ暇がすぎる。

 こそこそベッドを脱出してお母さんに叱られる生活は飽きた。

 この世界はスキルとかモンスターとか、そういうゲームみたいなファンタジーな世界らしく、魔法によって栄えているみたいなんだけど……マジで何ッッッにも娯楽が無い。

 ここが田舎だからか? あーん?

 タルト村は、ドラグーン王国という国の最西端、クローバー領に位置し、不毛の大地と呼ばれる荒野を境にした、所謂辺境と呼ばれるど田舎のようで。

 人口は百人居るか居ないか。

 男性は狩猟と木こりに精を出し、女性は農作物と家畜を育て、たまに来る行商人と交易しつつ、慎ましやかに日々を暮らしている。

 に・し・て・も!


「あーぅあー」


 現代日本で育った女子大生には退屈が拷問すぎて死ぬ。

 やることないからベッド脱出とハイハイだけが上手くなる。

 掴まり立ちの、足がプルプルすることよ。

 はやく大きくなりたい。

 大きくなって女の子といっぱいイチャイチャするんだ!

 今から楽しみー夢広がるー。


「へへへへへへへ」

「リコリスってたまに変な笑い方するよな」

「きっと楽しいことがあったのよ」


 変とはなんだ変とは。可愛いじゃろ。


「こんにちはー」

「邪魔するよ」


 ん? 誰か来た?


「いらっしゃいマージョリー、ヨシュア」

「お招きいただいてありがとう」


 おー、うちの両親にも負けない美男美女。

 家の中顔面偏差値っか。

 ん?子ども抱いてる。

 どうやら夫婦っぽい。

 身なりはいいし、知り合いの農夫婦というわけではなさそう。


「赤ん坊に馬車は堪えただろう。大丈夫だったか?」

「街道の整備がやっと終わったからね。以前ほどじゃないさ。揺れの少ないとびきり良い馬車も用意したしね」

「そうか。悪いなヨシュア、こんな田舎にわざわざ来てもらって。本当ならおれらが出向くべきなのに」

「その田舎はいちおう僕の領地なんだけど? ソフィアは出産してから日が浅いし、こちらから出向くのが礼儀だよ。それに、僕もマージョリーもみんなに会いたかったしね」


 おお、なんかスマートなイケメンだなぁ。


「マージョリー、その子が?」

「ええ。私たちの愛しい授かりものよ」

「あ、あー」

「まあ可愛い。挨拶してくれてるのね。こんにちはお嬢様。お名前は?」

「アルティよ」


 アルティ……うーんいいお名前。

 ていうか可愛い!

 目パッチリ! お手手ちっちゃい!

 マジ天使じゃん!

 赤ちゃんて可愛い〜。

 絶賛赤ちゃんの身で言うのもアレだけど。


「あーぅ」

「フフ、リコリスも挨拶したいのね。はいどうぞ」


 私とアルティがソファーに置かれたけど、いやどうしろと?

 言葉通じんよ?あぅあぅ言っとけばいい?

 大人たちのほんわかした視線気になる〜。

 私も正直撫でたり抱きしめたい気持ちは山々なので、とりあえず堪能させてもらおう。

 フヘヘ、赤ちゃんのミルクっぽい匂い好きだぁ。

 って、あれ?


「あー」

「ぅ?」


 何故近寄って――――――――

 チュウ

 ほへぇ?


「あらあら」

「まあまあ」


 うっはぁーなになにあらやだちょっとおっほぉーなんかほっぺにチューされたんですけどー?

 お母さんたちが目をキラキラさせてるけど天然タラシか貴様?

 私が赤ちゃんで感謝しろよ?

 まったくえっち娘がよぉ。

 性が目覚めたらどうすん――――――――

 チュウウウウウウ


「あ゛ーーーーーーーー!!」


 めっちゃ吸ってくるぅ!!

 とろけるお餅ほっぺが飲み込まれるぅ!!

 吸引力がブラックホールの如し!!

 うおお何至福の表情で人のほっぺ吸ってんだこの乳飲み子めがぁ!!

 おやめくださいおやめくださいていうか助けてぇぇぇ!!


「赤ちゃんって本当可愛いわぁ」

「本当。リコリスちゃん、アルティと仲良くしてあげてね」


 うんっ☆

 リコリスに任せて!

 マジズッ友!

 だから今だけは助けてお願いぃぃぃぃぃ!!


「あ゛ぁーーーーーーーー!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る