勘で話しかける

 このあいだ、これまであまり雑談をする機会がなかった人から急に「◯◯さんってゲームとかするんですか?」と訊かれた。

 私はゲームをやらないから、そう答えたうえで、しかし相手はきっとゲームの話をしたくて振ってきたのだろうと同じ質問を返すと、「いや、私もあんまりやりません」とのことだった。

「え、じゃあ、なんでゲームの話題?」

「なんとなくでした」

「初手から勘で話しかけてこないでくださいよ」と、もちろん本当に話しかけてくれるなという意味ではなく、つっこみとして茶化すように言うと、「いや会話って最初はこういうものかなって……」と照れていて、それは確かにそうかもしれない。


 このあと、たまたまその人と帰るタイミングが重なり駅まで2人歩いた。

道中では、先日その人が考え事をしながら歩いているとうっかり日傘を差したまま商業施設に入っていて恥ずかしかったという話を聞かせてくれた。このエピソードの前置きが「この夏、私の一番のトピックなんですけど……」だったのがとても良いなと思った。



 私は人のちょっとしたエピソードトークを聞くのが大好きで、きっとこれは私がラジオ好きなのと関係がある。

 エピソードトークを聴きたいからラジオが好きなのか、ラジオを聴いていたらエピソードトークが好きになったのか、順番は分からないけれど。

 仲の良い友達も、私のエピソードトーク好きは知ってくれていて、特に大学生の頃なんかは友達と会うと「◯◯くん(私)、多分この話好きだと思う」と前置きして自分の周りのちょっとしたエピソードを聞かせてくれることがよくあった。この前置きをされるとき、私は友達からの愛情というか親愛の情を勝手に受け取っていた。私がどんなことを好きで、または嫌いだったり、赦せないと思っているかを友達がちゃんと知ってくれているのは心強く頼もしい。そのぶん、私も友達の考えていることをちゃんと知りたいと思える。


 勘で話しかけてきた人とは、以来、より気軽に言葉をかわすようになった。

 また帰るタイミングが重なった日があり、駅まで歩いた。

「最近、ひさびさにポケモンをやってみたら色違いのコダックを捕まえることができて嬉しい」と言っていて、なんだやっぱりちょっとはゲームの話をしたかったんじゃないですか。

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