夜明け、それは久遠の目覚め。
それは始まる刻である
猿どもは、こんな平凡な日常一つに喜ぶのか。
僕はそう思った。
夏休みもあと二週間だというのにこんな事に一喜一憂するとは。
僕は、好きでこんな馬鹿どもが集まる公立高校に来たわけではない。
本当は偏差値の高い私立高校に行きたかったんだ。その為にたくさん勉強もした。
だけど両親が'お金がないから'っていう事でその高校を蹴ってしまった。
他に志望した高校がなく地元の高校に通わされる事になった。
はっきり言ってつまらない。
まぁ勉強が出来るからみんなにちやほやされるかなと思ったが、ここでの人気者は世間の目を見ないDQNと言われる頭のおかしなヤツらばかり。
ここらの地元では悪い噂で有名な高校だった。
極めつけに授業中も校則で禁止されているはずのスマホを隠れて使っている低俗な奴らだった。
家に帰ってからも沈黙を突き通す。
「学校どうだった?」
と母に言われても無視をする。
「何か言ったらどうだ」
と父が言うと心の中で舌打ちをしてしまう。
(学校の環境、知ってる癖に…)
最近、両親と話してないなと心のどこかで思う。
こんな事が毎日同じように続き、僕の心は腐りかけていた。
そんなある日の事、突如背後から蹴飛ばされる。
あまりの衝撃に倒れてしまう。
「おい、吉崎ぃ?」
下卑た笑みを見せるクラスメート。
「俺、テストの点数落ちたんだよな。これって、お前が目障りだったからだよなぁ?」
唐突によく分からない事を言い出すのが、コイツらの生態だ。
腹部に衝撃が入る。
「うぐっ!?」
蹴られた。僕の身体はサッカーボールじゃない。
「チョーシ乗んなよ。このカスがよぉ?」
そう言って、笑いながら消え去っていく。
別に、大した事じゃない。
いつもと同じ事を繰り返しているだけだ。
“転校したい”なんて言ったって親は嫌な顔をして、“我慢しろ”、“辛抱しろ”というだけ。
そして従順な僕はそれを何年も耐えて来た。
小学生から今の今まで。
慣れているから、耐えられる。
そんなちっぽけな事だと思っていた。
でも、やっぱり、心には限界があったようで。
それが音を立てて壊れていくというのはどれほど恐ろしかった事だろう。
突然の事だった。
全てにおいて無気力になった。
どうしてか、物覚えが悪くなった。
何かを考えることはできるのに、それを出力する口のほうはオンボロ。
勉強はできず、運動もできなくなる、人間として当たり前のこともできない。
ただの低能に堕ちたことにしてほしかった。そっちのほうがマシだったから。
18歳の夏、母親に病院に連れてこられたとき、僕は愕然としたのを忘れない。
「エー吉崎君。君ね、———だね」
はっきり言って、どんな事を医者に言われたのか覚えていない。ただ精神に何かしらの障害があるという事は言われた記憶がある。
呆然とした。
父は横で黙りこくっていたし、母は横で泣いていた。
その状況を見て、解ってしまった。
僕は出来損ないだった。
そこから高校へは行かず、家に引きこもった。
しかし歪んだ心は治る事が無く、逆に酷くなっていた。
明るい未来を計画する事は出来ない。
楽しそうに夢の話をする事はもうない。
ああ、毎日が暗く重い。
身体は鎖で縛られたかのように気だるい。
目の前の景色は鮮明なのに、頭の中には霧がかかっている。
それでも生きる事を強制させられている。
惨めだ。
惨めで、ゴミだ。
ああ、畜生。
「……へへ」
涙が出てんのに。顔が笑ってやがる。
「へへへ……あっはははははは!!!!」
笑いが止まらない。涙も止まらない。
もう全てがめちゃくちゃだった。
そうやって過ごしている内に、夏休みが始まっていた。
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