ブライス+弓
「冒険者養成学校に通っている人はみんなずるをしていることになりますよね?それに、ギルドでは講習を受けることを推奨しています。つまり人に教えてもらうということは大切なことだということです。教えてもらうことをずるだと考えるようであれば、冒険者は向かないのではないですか?」
ちょっと怒ったような声だ。
「じゃあ、次は君。武器はそれか?」
試験官に指名された。
「あー、はい。」
「じゃあ、的を狙って。一番端の」
言われるままに、一番端の的を狙って矢を放つ。
的に中った矢が跳ね返ってしまった。
あ、そういえば。柱は防御魔法がかかっているものがあるって言っていたけど、的もそうなのかな?だとすると、もっと強く矢を放たないとだめってことだよね?
えーっと。お爺さんに教えてもらった。腕の力だけで矢を放とうとするなと。腹の中で渦巻く力を矢に込めろと。集中力を発揮しろと。
よし。集中力。
再び矢を放つと的の中心から少しずれた場所に突き刺さった。
「あ、外してしまいました……」
だから、お爺さんに「お前は弱い」と言われるんだ。試験だと思うと緊張しちゃって。中央から拳1つ分ほどもずれている。こんなにもずれていると「目を狙って仕留めよう」とした相手の反撃を食らってしまう。
しゅんっと落ち込むと、試験官がふぅーと大きくため息をついた。
「そっちの端じゃないと言わなくても大丈夫だったようだ。そうか。うん、なるほど、そうか。なるほどな」
試験官が言葉を探している。
これは、あまりの失態に慰める言葉を考えているんでしょう。お爺さんなら「馬鹿が、緊張して失敗するなど一番だめな奴のすることだ!生きるか死ぬかの時にはむしろ実力以上の者が発揮できなくてどうする。これだからお前はいつまでも弱いままなんじゃ!」と容赦なく叱咤されたはず。
「まぁあれだ。弓は狙って放つまでに時間がかかるのが欠点だからな」
試験官が水狼を出した。
すぐに僕にめがけて襲い掛かる。
狼と弱点が同じか分からないけれど、僕にはこれしかできない。口を開けた瞬間に矢を口の中に向けて放つ。
矢はそのまま脳に突き刺さって狼なら倒れるはずだ。水狼は揺らいで消えた。
よかった。弱点が同じだったとホッとした瞬間、消えた水狼の背後から2匹目の水狼が襲ってきた。
同じように矢を放つ。遠方の獣の目を集中力を極限まで高めて射貫くより楽だ。
背後に気配を感じ、矢を構えながら振り向き姿が水狼の姿が見えた瞬間に放つ。
狼は群れる。森で何度か遭遇したから慣れている。
「なんだよ、あいつ……0点のくせに」
外野の声は聞こえない。今は水狼の相手だけで精一杯だ。7、15、20……そろそろ矢が尽きる。
「弓の欠点は矢に数の限りがあるところだな」
試験官が何か言っている。
よし。足に集中力。
「うおーっ!」
ダッシュ。全速力。
「なんだ?逃げ始めたぞ」
「矢が切れたからだろ。はははっ、だっせー」
まだ10匹以上いる水狼を引きつけ北に逃げる。そして、先ほどの場所に戻り、水狼に追いつかれないうちに、矢を拾う。
「なんだ、あの身体能力。あの状況で矢を拾えるのか……」
ぱっと水狼の姿が消えた。
「おしまいだ」
試験が終わった。全部倒せてないのに終わってしまった。……どうしよう。
「人に教えてもらうのがずるで、逃げるのがダサいと思うなら、本当に冒険者になるのはやめた方がいいですよ」
ブライス君が男の子に声をかけている。
「そうね。自分がどうなろうと知らないけれど。人に逃げるなと言うようなら害悪にしかならないわ」
ランカさんも何か言っている。
ん?逃げる?逃げるな?部分的に聞こえてきた単語に青くなる。
もしかして、矢を拾うために逃げたのが失敗だった?
……そうだ。確かに、狼は背を向けて逃げたら最後だって。目をそらしたら襲い掛かられると言われていて……。あの場合は……。
腰に下げたハンノマさんにもらった短剣が腕に当たる。
……そうだ。
いざと言うときのために接近戦も少しはできるようになれと言われたんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます