Lv.9「キミって、しっかり咀嚼するんだね」




(屋外。ざわざわと、賑やかな休日)

(サクッ、と唐揚げにかぶりつく音)


「キミって、しっかり咀嚼そしゃくするんだね」


「あ、うん。むのは大事なことなんだけど。

 ほんと、咀嚼筋そしゃくきんが発達してるんだなぁってて……

 アタシ、その速さで噛めないもん」


「咀嚼筋、さわってもいい?」


「せっかくのデート中にって……

 うちらそもそも筋肉のカンケイだったのに、うちらから筋肉をとったらわけわかんなくなるじゃん!」


「……ふふっ、さすがに理論が乱暴だった?

 つい、動いてる筋肉を見るとさわりたくなっちゃって」


「え、いいの?」


「あー、もう! キミのそーゆーとこがスキ!」


「あはは、照れてる。

 では、お言葉に甘えて……」


「きゃははっ、すっごーい!!

 思った以上だ!! すごい、これすごいよぉ!」


「あぁ、ゴメンゴメン、解説ね。

 アタシがさわってるのは咀嚼筋そしゃくきんのひとつであるコウキンで……

 『む筋』って書いて、咬筋こうきんね」


「ほっぺたの外側の……下あごの付け根のあたりについてる筋肉。

 ほんと、噛むたびモリッモリッモリッモリッって……!! ふふ、これ、クセになる……」


「え? チューされそうって?

 たしかに、両手を頬に添えるのって……キスシーンの王道かもね」


「……ねぇ、目、とじて」


「ちゅっ」


「……ふふ、びっくりした?」


「やーい、引っかかった!

 いまのは唇じゃなくて、指でしたー!」


「……え? わかってたの?

 片手がほっぺたから離れたから?

 もー、なにそれー! たまには振りでもいいから、だまされてよー!!」


「え、キミも咬筋こうきんさわりたいの?

 じゃあ、交代ね」


「もうちょっと下かな?

 ……そう、そのあたり。

 ね、すごいでしょ? カミカミすると、ボコボコ動くの」


「え、目閉じんの?

 同じことしてどーすんの」


「ほら、目つぶったよー」


(ちゅっ、とリップ音)


「ん?」


「いま、両手……添えたままじゃなかった?」


「……ぁ、え、く、くち?!」


「ちょ、そ、そーゆーのは、心の準備ってもんが……!!」


「え、ほんとに? どっち?

 ほんとに口でキスしたの?」


「どっちでしょー、じゃないってば!

 あ~、モヤるじゃんー!」


「い、イヤではないし、うれしい……けどさ。

 心の準備、できてないっていうか……」


「も、もっかい?!」


「はずい、はずいよ。

 だってほら、人いっぱいいるし……」


「じゃあ、えっと……今から、ウチ、来る?」





 Lv.9 咀嚼筋 Clear!!!

       Next ➠ Lv.10 背筋

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