777文字の掌編集

UD

KAC2023用選ばなかったやつ版(全部777文字だよ)

第1話 ドブ人間

「寄るな! ドブ人間!」

「臭いがうつっちまうぞ! ドブ人間!」

「こっちに来るな! ドブ人間!」


 彼は街でドブ人間と呼ばれています。




 病気にかかる前は、見目麗しい美少年と呼ばれていました。


 でも、当時の彼は、他人の物は自分の物、他人の女も自分の女、人を騙して金を盗り、女を騙しては泣かしていたのです。



 ところが今は、人の身体に汚泥を被ったように薄汚れ、カビやコケが生え、ひどい臭いをさせています。


 しかし心は純心で赤子のような御心をその姿に宿しているのです。




 彼の仕事は街のドブさらいで、一日にもらえるお金はわずかばかり。

 パン屋に行くと、同じお金を払っても売ってくれるのは、古く固くなってカビの生えたパンだけです。




 ある日、いつものようにドブをさらっていると、ショベルがコツンッと当たり、拾い上げると、それは見たこともない宝石のついた剣でした。


 あまりの美しさに彼はその剣を家に持って帰ってしまいました。


 それとなく、教会の神父さんに聞いてみると、その剣は<聖剣>らしく、その剣に777個の傷がつくと願いが叶うと言われている、それはそれは立派な剣だったのです。


 その剣についている宝石を見ると、傷が775個ついていました。




 最初にドブ人間が高価な剣を隠し持っていることに気づいたのは宿の主でした。


 主は剣を出せとドブ人間を脅しましたが、断られ無理やり奪おうとしました。


 揉み合いになり主に剣が突き刺さり死んでしまったのです。




 剣の傷は776個になりました。




 ドブ人間は自分がこの剣で死ねば願いが叶うと考えました。


 最後にドブ人間が願った事は、宿の主を生き返らせることでも、自分の病気を治すことでもなかったのです。


 彼の願いはただ一つ。


 <汚れた街がきれいになる事>


 だったのです。


 ドブ人間は願いを叫び、自らの喉を突き命を落としました。



 その後その街からすべての人がいなくなり街はきれいになりました。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る