第42話ここまで分かった世界の仕組み(改稿前)

 対峙する2人の少年。


 一人は頭を抱え、青冷めている。


 もう一人は、勝ったとでも言わんばかりに、彼を見下した瞳を向けていた。


 この少年の名はヨドムといって、この界隈ではちょっとした名の知れた者である。


 対して青冷めた少年の名は無かった。


 単純に言えば、場所場所で名前を変えている。


 意味も理由もない。


 ただそれだけだ。


 周りにいる人間達は、彼らを役者の一人とでも思っているのか、特に興味も示していない。


 その証拠に、彼らから距離を置いて行き来していた。


“映画が公開したら見に行こう”


 そんな言葉さえ、通行人からの口から飛び出す程だ。


 しかし、2人も同じような考えらしい。


 周りが見えていない。


 まさに今がその状況トキだった。


 震えが止まらない少年にヨドムが言う。


「あなたが殺害を企てると、同じ思いを持つ誰かが知らない誰かを殺害します。


裏を返せば、誰かを幸せにしたいと考えたら、誰かが何処かで知らない誰かを愛してくれるのです。


故に、世界平和を強く願うなら、悪いことは言わない。


最悪な環境を考えるよりも、皆が笑顔でいる環境を考えた方が良い」


 言い終わると直ぐ、少年が力無く跪く。


 それはヨドムに敗けを宣言しているとでもとらえられる姿だ。


 だが、その姿は何処かおかしい。


 泣きもしなければ、嘆きもしないのだ。


「いやぁ、面白いことを教えてくれて有難う」

「?」

「バイバイ」


 少年が淡々とした声で、ヨドムに別れを告げた刹那。


 彼は声をあげる暇もなく、その場に前のめりに倒れていく。


 代わりに姿を現したのは、見ず知らずの少女だった。


 震えた手には、包丁がしっかり握られている。


 そして、ヨドムの血を浴びたであろうその顔は、恍惚に満ちた表情を浮かべていた。


 少女の口が素早く動く。


 それはまるで、呪文を唱えているようにも見え、滑稽な姿でもあった。


「これからは、自ら手を下すこと無く、人類を殺せるな」


 少年は、とても嬉しそうに声を弾ませ、その場から立ち去る。


 あとには静寂だけが残り、何事もなかったかのように、時間だけが過ぎていった。


令和4(2022)年7月9日21:15~23:04作成


Mのお題出題日:令和4(2022)年7月8日

『背筋が凍る怖い話』





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る