第31話やっぱり好き❤️

「みんな、いつもお世話になってま-す!」


 そんな甲高い声で昼寝から目を覚ましたおれは、この日がバレンタインデーだと知った。


 明るく可愛い声で毎年義理チョコを配る彼女は、ここ営業課にいる若い男性達の憧れの的である。


 おれはというと、不思議とその中には含まれておらず、正直彼女には興味はないがチョコは欲しいという、意地汚い人間だった。


「○○さん、いつも適切な指示を出してくれて有難う!」

「あっ、いや……」


“こちらこそ”と、短い言葉を伝えてチョコを細く白い手から受け取る。


 彼女がこの場から姿を消したのを見計らって、可愛い花柄のラッピングを雑に開けるおれ。


 現れたチョコには“ラッピングを見て♥️”と書いてある。


“ラッピング?”と訝し気な眼差しをその小さくて整った文字に向けたおれは、書いてある通りにぐちゃぐちゃになった包装紙を、机の上に綺麗に伸ばして広げた。


 そこには

「好きなのは○○君だけ!」

と、今度は大きくはっきりとした文字で書いてあり、またその下には

「ねぇ、今夜一緒にどう?」

とまで書かれている。


「どう?と言われると……」


 瞳を泳がせ、必要もないのに辺りの様子を伺いながら、“それはやっぱり行かなくちゃ損じゃん?”と、内心でニヤニヤして呟いた。


 ラッピングをいつも以上に丁寧に折り畳んでいた時、部長が無言で近づくと同時に

「○○、鼻の下なんか伸ばしていないで、✕✕さんを連れて外回りにでも行ってこい!」

と、突然そう命令した。


 いつもならカチンと来るおれも、今日ばかりは何でも聞きたくなる。


“はい!”と、いつになく元気な声で返事をし、✕✕さん(つまりさっきチョコをくれた彼女である)を側に呼んで、営業に行くことにした。


 部屋を出た矢先、彼女がまるで寄り添うかのようにおれに近づき、そっと耳に唇を当て

「今夜ではなく、今でもいいよ❤️」

と、可愛くおねだりする。


「仕事……今日はやめとくか?」

「はい!」


 こうしておれは義理チョコから転がった愛を、見事ゲットしたのだった。


お仕舞い😁


令和4(2022)年2月14日12:12~16:42


Mのお題

令和4(2022)年2月14日

「不義理チョコ」


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