第三章 ダークダイバー編!

第81話 夏のバイト中!

 風背山市の夏は例年以上の暑さをはらんだ。

 ジワジワとやかましい蝉の声を脇に、ユウジはバイトへとおもむく。


 配信でかなり稼げてはいるが、それだけで食べていくには一抹の不安があった。

 とはいえまともに就活するのもあれかなーっと、ずっとバイトを続けていた。


「……ユウジ君、次これお願いね」


「ウッス!」


 段ボールをいくつか、指定の番号の棚へとくる。

 写真集が並ぶ列だ。


(これ、グラビアか。結構な量だなぁ。あ、そういえばこれ再入荷するって言ってたやつだ。……────ぶ!?)


 ガサガサと取り出すと表紙に水着姿のキララが映っていた。

 惜しげもなくそのプロポーションと明るい色のビキニが引き立つ角度と目線。

 思わず見とれてしまった。


「あ、いかんいかんいかん。仕事しないと。……しっかし、改めてみると本当にグラビアなんだな。なんか本当に、デケェ」


「あーやっぱちょっと映り悪いかなぁ。顔の角度もうちょっと下にって言われたとき、目ぇ細めちゃったんだよねぇ。カメラマンさんはいいよって言ってくれたけど、うぅん」


「そうかぁ? 俺もこれは別にいいと思うけど」


「っていうかユウジもやっぱりこういうの好きなんだ。へー」


「いや、好きとかそういうのは、…………って、うぉお!?」


「ヤッホ」


 キララがいた。

 夏休みということでラフな格好をしている。


「おいなんでここにいるんだよ」


「漫画買いたかったから。そしたらユウジいたから驚いちゃったよ」


「あー、とうとうバレたか」


「ご懇意にさせてもらうね。ユウジ♡」


「はぁ」


 ユウジがテキパキと陳列するそばで別の写真集を見ながら、

 

「ねぇ、あの動画見た?」


「……見たよ。なんなんだアイツは」


「ホントそれ。でもそれ以上に妙なことが起こってる」


「なんだ?」


「『消したら増える』でお馴染みのSNSが押し負けてる。転載動画がすごい早さで消されていってるのよ」


 例の謎の男によるダイバー虐殺劇。

 動画は数え切れないほど転載された。


 だが次々と消されていく。

 ガイドラインに抵触したと言われればそれまでだが、この対応速度はあまりに異常だった。


「どうなってんだよ?」


「アタシにもわかんないよ。テレビも雑誌も取り上げないし、ネットニュースの検索にもひっかからない。それらしい掲示板とかも立てても立てても消されていくって噂」


「……情報規制か? 前みたいに」


「前みたい?」


「ほら、ブラックボックスの件だ。あれだってかなりの規制がかかった」


「じゃあ、これもホークアイ財団の仕業?」


「わからない。クロトはどうしてる?」


「最近は見てないよ。アタシも撮影とかでいそがしかったし、連絡もなかなかね」


「そうか。わかった。俺が連絡してみるよ。見つからねえなら足使って探すさ」


「でも無理しないでね。バイトとかいそがしいんでしょ?」


「まかせろって。ホラ、漫画買いにきたんだろ。棚は向こうだ」


「知ってるって、ふふふ。じゃあ、またカフェで集まれる日に!」


「おう!」


 キララの背中を見送りつつ、脳裏にはあの男の黒い視線を思い浮かべる。

 

(ナーガ=ネガが言っていた奴って、あの男のことなのか?)


 休憩時間となり、ユウジは姫島にあの動画の件のメッセージを送る。

 彼女も懸念しているようで、文面からは心配の色が見えた。


 続いてクロトなのだが、なかなかに既読がつかない。

 ついたのは夜になってからだ。



『明日昼に市内にある高風寺までいいですか? 現地集合で』


「……”わかった”と。なんで寺かわかんねえけど、まあいいか」


 また皆で集まるまでには時間がある。

 それまでに普段通りの日々をこなしていくことにした。


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