第50話 牛丼!
配信後、連絡があり姫島たちと集まるのは3日後に決まった。
意外に早く出会えるのだと思うと妙に心が躍る。
たまには外食でもと街をブラブラしていたら、牛丼チェーン店が目にうつった。
「うし、じゃあここに…………」
正直、ここでやめておけばよかった。
ドアを開けた直後に身を固まらせてしまうまでは。
「うんめ、うんめぇですわああ!」
「────は?」
「疲れた体にギンギンにきますわああああ!! 空っぽの胃にズッシリのしかかりますわああああ!!」
「え、え……」
「戦いあとの牛丼ドカ食いは正義ですわああああああああああああ!!」
(か、帰ろう……)
「あ、ユウジ様! ユウジ様ー!!」
こっちに向かってブンブンと手を振るので店員やまばらな客の視線がユウジに集中する。
引くに引けない状況で、もう彼女の隣に座るしかなかった。
「オホホホホ、こんなところで出会うとは偶然ですわね」
「そ、そうかぁ~」
「それよりもユウジ様もいかがです!? 牛丼ドカ食い!」
「いや、いいです」
「あらあらあら~、遠慮なさらなくていいのに~」
(なんだ。今日はやけに俺によってくるな)
「……出会いましたのね。マドカに」
「配信みてたのか」
カタンと箸をわざとらしく音をたてて置く。
「ではもう人となりはご存知ですわね。とてもいい娘でしょう。ずっとあんな調子なんですのよホホホ」
「俺はいいと思うけどな。強さに裏打ちされた優しさってやつだろ。正直憧れちまうよ」
「ホホホ、あの娘を見た方は皆そう言われるんでしてよ。特にアナタのような純朴そうな殿方は」
「アンタのことも言ってたよ。まだ流血と力を求めてるのかって」
「ホホホ、余計なお世話ですわああ。ダンジョンに潜る身でありながら、戦いに身を投じるお嬢様が平法を語るなど笑止千万。ヘソが灼熱の茶をわかしましてよ」
「どういう表現してんだ。今でもマドカはアンタのことを……」
「ならばワタクシからも言っておきましょう。昔のよしみをあまり悪くは言いたくありませんが、マドカの思想にはお気をつけになって。ワタクシから見れば偽善も偽善。流れる血に目を背けた臆病者の戯言ですわホホホ」
思った以上に溝は深い。
かっぴらいた目で微笑みをたたえる表情からはなにも読み取れなかった。
「あーあ、すっかり話し込んでしまいましたわ。ワタクシはこれで失礼いたしますわね。あ、カルビ丼おすすめでしてよ」
「なぁ、教えてくれ」
「なんでしょうか?」
「アンタ、もしもダンジョンでマドカと出会ったら、どうするんだ?」
「ホホホ、さぁどうしてくれましょう?」
このときだけ、ほんの一瞬。
彼女がおぞましい魔人にすら感じた。
開いた自動ドアから吹き抜ける生温い風も相まってなんとも言えない気配を濃くしている。
マナはそのまま去って行ってしまった。
ただ食事に来ただけだというのに、穏やかでないことになりつつある。
食欲がなくなりそうだったとき、スマホが反応した。
クロトからだった。
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