第36話 運命の歯車が動き出す!

「ま、待ってくれ……ボクは、撤退をすすめたんだ! でも、でも、彼女がおとりになるって聞かなくて。それでボクが加勢しようとしたら、そう、事故なんだ!」


「嘘でしょそれ。アンタ、この期に及んで嘘つくの?」


「ち、違う。ボクは……!」


「コメント欄を見ている限り、アナタが彼女をおいて逃げ出したみたいだけど? しかも魔物になって傷つけたみたいね」


「証拠の映像も残っているようですね。しかも、拡散されているようです」


「あのキューブはどこで手に入れたの? なんでアンタが持ってんの!? ねぇ!?」


「いや、それは、その……誤解だ。皆誤解してる! ボクは逃げたわけじゃないし、傷つけたわけでもない。そう、ボクの友人の海外ダイバーから教えてもらった手段で、えっと」


「さっきはエミさんがおとりになるって言ったのに? なんで二転三転すんの? なに? ダブスタ? マジウザいんですけど?」


 女性陣にもコメント欄にもつめられていく中、ユウジが恨めしそうに陽介を見てヨロヨロと立ち上がる。

 

 すぐさま姫島とキララが駆け寄り、ユウジの身体を支えた。


「ふざけんな……アンタ、エミがどんな思いでこのダンジョンに挑んでいたか!! なのにアンタはエミを傷つけたのか!? そのうえでエミを見捨てたってのか!?」


「ねぇ! アンタなんにも思わないの!? 自分のことばっかりで! 人が死んでるんだよ! アンタのせいで!!」


「そ、それは……ボクのせいじゃ……」


 "あーあー言っちゃったよ"


 "お前もうしゃべるな"


 "あのさぁ、SNSの頭悪いクソコメ主じゃねえんだからさぁ"


 "え、マジで今の状況わかってないの? マジでサイコパスじゃん" 


 "せいぜいただの外国上げだと思ってけど、これは……"


「ぁ……ぁ……」


 ユウジたちに睨まれ、シスター・アルベリーには目を背けられ、さらにはコメント欄からは非難轟々の嵐。


 次第に行き場を失っていく陽介の頭はドンドン極端に追い詰められていった。

 その末で起きた凶行。彼はあのキューブを取り出した。


「あ、アンタ、それって!!」


「黒い、キューブ!? なにをする気だ!?」


「ふひ、ふひひひひひ……チクショウ、チクショウ! こんなはずじゃなかった! このボクが! このボクがこのメンバーの中心にいるべきだったんだ。なのに全部メチャクチャだ! ……お前だ、お前のせいだ津川ユウジ! お前のせいでボクの人生が!」


「本気で言ってんのかアンタ?」


「本気も本気だ。配信中お前ばっかり賛美されて……このボクをそっちのけでよぉお! かえせ、お前の成果も人気も称賛も、本来ボクが得るべきものだったんだ。全部返せぇえええ!!」


「成果だの人気だの、なにわけのわかんねえこと言ってんだ。……テメェがやるべきことはそんなことじゃねえだろ!!」


「黙れぇええ!! もう面倒だ。ここにいる全員皆殺しにしてやるぅうう!!  ────怪鳥ラーガ!!」


 アカネのときと同じ闇色の蒸気を発し、陽介を変異させた。

 道化師めいた色合いと装飾をした巨大な鳥の魔物。


『ガハハハハハハハハハハハハ!! いいねぇこの感じ! 力がみなぎってくる!!』


「アナタ、それがどういうものかわかってやっているのかしら?」


『あれれ~知らないのぉ? 海外ではフツーに使ってるところもあるんだよぉお? やっぱり日本は遅れてるなぁあああぁぁぁあ~~~~?? ヒャハハハハハハ!!』

 

 コメント欄は大混乱。

 もはや配信どころではなくなっていく。

 

 


「もしもしぃ、ようやく現場つきましたけど、これ手遅れですね。えぇ、初動がかなり遅れまくったんで、これはどうしようもないですね。あのトンチキダイバーのせいで"ブラックボックス"の存在が明るみに出たと言ってもいい。どうします?」


『……恐れていたことが。だが、まだ対処は可能だ。情報を隠すには情報の中。すでにこちらで用意したフェイクをバラまく準備は整っている』


「じゃあ、これ以上余計なことはしないであのトンチキが倒させるのをここで見てたほうがいいですかね?」


『いや、お前も戦いに行け。彼らとコンタクトをとるのだ』


「一応聞きますけど、なんで?」


『今後彼らの……津川ユウジの力を借りることがあるかもしれない』


「マジっすか。……ま、俺は命令でキチッと働く立場なんで。軽く行ってきますよ」


 少年は上司にあたる人物との通話を切ると、ある装置をユウジたちのD・アイに向けて起動させた。


「ジャミング成功。これで配信は止めらた。さ、行きますか」

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