第38話 しゃべれクロト!

 ダンジョンからの脱出。

 外は規制をかけるように、黒服のエージェントが幾人もいた。


 クロトは軽く会釈しながら陽介の身柄を彼らにわたす。 

 異様な光景だった。映画のワンシーンのような物々しさが広場のあるべき静けさをさえぎっている。


「…………今連絡は取りました。とりあえず答えられる分は答えますんで。でも、ちょっと時間空けさせてください」


「空けるってお前……!」


「逃げませんよ。てか逃げれませんよ俺学校あるし。予定が決まったらキララに伝える。これでどうですか?」


「ユウジ、アタシはそれでいい。コイツは絶対に逃がさないから」


「わかった。クロト、ちゃんと話してくれよ」


「話せるぶんは、ですけどね。じゃ、皆さんお疲れさまでした」

 

 空気の曇った4人に対してクロトは飄々ひょうひょうとして去っていった。

 その背中を見送ることしかできない今、ユウジは硬く拳を握る。



 数日後、エミの葬儀はしめやかに行われた。

 SNS上でも彼女の死に深い悲しみを抱き、哀悼の意を込めて冥福を祈るファンがそれぞれの思いを残していく。


 セブンスター陽介へのヘイトで炎上する中、謎のキューブことブラックボックスについての噂が流れ始める。しかし真相は闇の中。


 無神経な輩がフリマアプリでルービックキューブを黒く塗ってバカみたいな値段をつけて売っているのも見られる。


 ────あの配信によって、世間とSNSの間で不安と混沌が蔓延した。




「あ、うんめぇぇぇぇぇえええええええ!! なんなのこの肉! 超うっめぇええええ!! あ˝~、こんな肉食えるなんて最高」


 クロトと話す予定が組み立てられ、密談が開かれる。

 場所はかつて姫島とユウジが食事をしにいったあの会員制のレストラン。


 プライベートルームでアルデバランのメンバーとクロトで話し合うというものなのだが…………。


「あん? ちょっと、オタクら全然食ってねえじゃねえですか。食わないと冷めますよ?」


「あきれたぁ。ごはん食べながらじゃないと話さないって。アンタ意外に神経図太いね」


「いいじゃねえか。稼いでんだろ?」


「クロト君、約束どおり話してくれるのよね?」


「もちろん。まずは腹ごしらえさせてくださいよ」


「おい、こっちは真剣にここまで来てんだ。お前から話を聞き出すまでここから出さないからな!」


「……はぁ、わかってますよ。ちゃんと話します。でも、そうだなぁ。なにから聞きたいです?」


「まずクロト、お前はいったい何者なんだ? あの変身はアーティファクトの力なのか?」

 

「……表向きは風背山学園の男子生徒。しかしてその実態は、『ホークアイ財団』の実働部隊『鷲ーAGIVIAアギアー』の構成員。あの変身はアーティファクトを組織の科学力で再現したハイテクノロジードライバーだよ…………どう? 信用する?」


「ねぇ、それ本気で言ってんの? 今どき中学生でもそんな……」


「いや、いい。続けてくれ」


「え、ユウジ!?」


「私もにわかには信じられないわね。ホークアイ財団っていう組織なんて聞いたことない」


「そりゃあそうですよ。言うなれば、影のヒーロー集団ってやつなんですから。そんなのがネットに書いてあったら笑いモンですよ」


「影のヒーロー集団? エミを見捨てることがヒーローのやることなのか?」


「あれは不可抗力だった。あのね、俺がたどり着いたときにはすでにあの人は死んでたんですぜ。……あのトンチキ陽介からブラックボックスの反応を感知したのがだいぶ遅くなりましたからね。あれでもかなり最善尽くしたんですよ?」


「最善だと!?」


「ユウジ君落ち着いて。……ブラックボックス、と言ったわね。そのことについて聞きたいところだけれど。少しいいかしら?」


「はいなんでしょう」


「どうしてここにシスター・アルベリーがいないのかしら? 彼女も呼んだはずなのだけれど」


「あー、それね」


 ドリンクをひと口含んでから、不適に笑んで見せる。


「そういやあの人、孤児院にお金入れてるって聞いたんですよねぇ」


「それがなにか?」


「いや、ね、人伝てに聞いた話なんですが、その孤児院にある日突然多額の寄付金が入ったみたいなんですよ~。いやぁ不思議なこともあるもんですね~。一体どこの誰が入れたのやら。ハハハハ」


「…………ふぅ、わかりました。もういいわ。じゃあさっきの続き。ブラックボックスってなんなのかしら?」


「あ~ブラックボックスねぇ。一応話せる範囲決まってるんで、そこまででよけりゃ」


 クロトはブラックボックスについて話せる部分を話す。


「ブラックボックスが最初に発見されたのは1950年代初頭。どこの国かは伏せるが、当時のダンジョン探窟隊が最奥で見つけたのが始まりです。それは人間の負の感情に作用して魔物といったあらゆる力の化身へと変える。で、隊員のひとりがどういうわけかそれをその場で使っちゃったわけ」


「なんだって……?」


「なんとか倒したものの、これは危険なものだってすぐに保管と研究を進めたんだが、まぬけなことに研究員も警備にあたってた軍人も皆殺し、研究所も火の海。突如現れたによってね。そしてそこから複製されただろうブラックボックスが猛威を振るったんです。俺らはそんな歴史の中で戦い続けてきた」


 さらにクロトは続ける。


「一番最初に回収したブラックボックスを調べてもわからないことだらけだった。動物か魔物の骨を加工したようにも見えるし、粘土いや、金属にも見える。これらは複製も同じだった。……もしかしたら地球とは異なる環境と法則で作られた未知の物質なのかもって。ダンジョンなんておぞましい場所があるんだ。ああいうのがあってもおかしくない」


「ね、ねぇ」


「ん?」


「アンタ、アカネはどうしたの? あのセブンスター陽介だって……」


「あーアイツらか。えーっとどう説明するかな。ブラックボックスって馴染むのに時間がかかるんだ。馴染めば身も心もはれて魔物の仲間入り。アカネは危なかったけどギリセーフだった。トンチキ陽介も同じ。……尋問、もしくは拷問してから記憶を消して家へ帰すよ。陽介は知らんけど」


「尋問、拷問ってお前!」


「あのね、学生がナイフ持ってましたーとか、ヤバい薬やってましたーとか。そういう次元じゃないんですよブラックボックスって。人が死ぬだけじゃない。


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