第27話 姫島さんの親友!
「こうして通話するのは久しぶりね」
『アナタの活躍は遠い海の向こうでも行き届いております。ヴィリストン姫島』
「そういうアナタもね。"シスター・アルベリー"。最近また登録者数増えたって? あ、信者って言ったほうがいいかしら?」
『クス、からかわないでください』
その日の夜、風背山市からだいぶ離れた大都市のホテルの一室。
バスローブに身を包む姫島はダイバー仲間であり親友と連絡を取り合っていた。
相手は今回のコラボ相手のひとり。
とある教団の日本支部所属のダイバーである。
「今度のコラボ、引き受けてくれて嬉しいわ」
『当然です。ほかでもない親友の頼みですもの。それに……』
「孤児院かしら?」
『お恥ずかしい話、我が国の財政と衰えた教団の力ではあの子たちを食べさせていけません。だから、こういうお話は嬉しいんです。有名になればそのぶん孤児院にお金を送ることができますので』
「力になれたようでよかったわ」
『油断は禁物です。白鯨の墓はかなり難易度の高いダンジョンと聞いております。6人で潜るとはいえ、危険と隣り合わせであることには……』
「わかっているわ。私も色々身に染みたから」
『え?』
「うぅん、こっちの話。そうだ。少しアナタに聞きたいことがあるの。親友でありシスターであるアナタだからこそ」
『……親友として、神に仕える身としてお約束します。口外はいたしません。なんでしょう?』
「アナタは、"人を魔物に変身させる黒いキューブ"を知っているかしら?」
姫島はキララから聞いた話をアルベリーに話す。
その間熟考したように黙し、数秒経ってから口を開いた。
『わたしが前に帰国したとき、深夜帯の暗がりでそのキューブかどうかはわかりませんが、魔物に変身した人と戦いました。なんとか鎮圧したのですが、急にその人とキューブが何者かに……』
「アナタの国でも!?」
『数日たってからその人は見つかったのですが、なにも覚えていなかったのです』
「世界規模で起きているとでも言うのかしら……」
『正直な話、嫌な予感がいたします。裏でなにか巨怪なるものが動いているのでしょうか? アナタも深入りはしないほうがよいように思います』
「そう、ありがとう。ふたりにも伝えておくわ」
『申し訳ありません。暗くなるようなことを言ってしまって』
「話を振ったのは私よ。気にしないで。……久々のコラボ、楽しみにしてるからね。ふたりともいい子よ。きっとアナタとも仲良くなれるわ」
『……アルデバラン、とても良いユニット名ですね』
「でしょう? 最初ユウジ君ったらザ・ロマンスだなんて……あれはびっくりしちゃった」
『殿方がひとりだけなのですね。大丈夫なのですか?』
「ん? なにが?」
『い、言わせないでいただきたいのですが……』
「ん~、さぁ、どうでしょうね」
『どう、とは!?』
「気になるの? それとも、レディふたりに囲まれて不埒って言いたいのかしら?」
『それは、その……』
「彼ね、強いだけじゃないの。一緒にいるとすっごく温かいのよ。きっとキララも同じことを考えてる」
『温かい?』
「今も昔も腕っぷしや羽振りのいい男はたくさんいた。私も色んな男に出会ってきたわ。でも、彼はその中でも違うように思える。なんでかしらね」
『それを聞いて少し安心いたしました。皆様と出会える日が今からでも楽しみですわ』
「うん、私もよ。……じゃあ、今夜はこれで。次はお酒でも飲みながらふたりでお話しましょ」
『ふふふ、そうですね。では』
アルベリーとの通話を切るとスマホをソファに投げ置く。
親友との会話そのものは楽しかったが、首筋にぬぐい切れない影がまとわりついているようで首筋が終始じっとりとした感じだった。
人を魔物に変えるキューブ。
カーテンの隙間から見える向こう側の闇の中で、それは今も息をひそめている。
それはどこから来たのか。
風が、海が、ダンジョンが運んできたものにしてはあまりにも異質な存在感を放つそれは、人々の運命の歯車にいともたやすく食い込んでいく。
それはきっとアルデバランやほかのダイバーにも。
(気になることだらけだけれど、情報が足りない今変に動くべきではないわね)
タブレットパソコンを開き、案件を処理していく。
ふと気になってもう一度検索にかけてみるも、ヒットすることはない。
「あーあ、嫌な情報聞いちゃったなー」
つっかかりを感じながらも今夜はもう休むことにした。
仕事を片づけていけば、1週間などすぐだ。
ささやかなエールとして、ユウジとキララにメッセージを送ることにする。
『色々大変だろうけど、お互い無理はしないように! つらいこととかあったらいつでもメッセージちょうだいね? 身体だけじゃなく心だって資本よ』
『了解っす! 姫島さんもなにか困ったことがあったら言ってくださいね!』
『アタシのことは心配しないで! もっと強くなるから』
「……クス、頼もしい子たちね。"じゃ、お休みなさい"っと」
メッセージを送ったあと、写真のフォルダを開き、あのときのコラボの記念撮影のフォトを画面に映す。
たとえ未来に不穏なことが待っていようとも、これを見ると勇気と元気が湧いてくる。
「明日も、頑張らなくちゃ」
祈るように瞳を閉じ、安息と睡魔に身をゆだねていった。
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