第24話 変なの持ってやってきた!

 次の日、アカネは学校へこなかった。

 周囲は騒然、とまではいかなかったが、あれだけすさんだ学生がいないとあまりに静かで、担任も落ち着かないようだった。


 放課後、キララは久々に皆と下校する。

 元取り巻きも、いつもより穏やかな表情で会話にまじっていた。


 時刻は夕刻。

 開いた場所が見える河川敷にて……。


「キララ……いや、朝倉里奈!!」


「お前はアカネ!」


「ち、ちょっとアカネ! なにしに来たの!?」


「今日学校来てなかったけど……」


「外野は黙ってろってんのよぉ!!」


 瞳孔の開いたアカネは敵意むき出しの笑みを向けながら、キララを睨む。


「その目、そうその目よ! じっと私を見つめて……。どうせ見下してるんでしょ? 私のことバカにしてるんでしょ!? 私のことブスだって。バカなやつって!!」


「別に見下してなんかないよ」


「嘘つくな! 嘘だ嘘だ嘘だ!!」


 かん高い声を出しながら髪を振り乱す。

 いつもと違う雰囲気の彼女に周囲が恐怖を覚える中、キララは級友たちを守るために一歩でた。


「お前のせいだ!! お前のせいで私はすべてを失ったんだ!!」


「アタシはアナタからなにも奪ってない。落ち着いて!」


「グラビアなんかやりやがって! ダイバーなんてやりやがって! いい加減目ざわりなのよ!」


 アカネは例のキューブを取り出した。


「な、なにそれ? アンタなに持ってるの!?」


「これはね。私に力をくれたものなの。ダイバーのアンタを倒すためにね! ────モウファ!!」


 キューブは闇色の蒸気を発しアカネをつつむとその姿を変異させた。


 二足歩行のイノシシのような魔物。

 袈裟を乱雑にまとい、身体にには数珠つなぎにした鐘を巻きつけている。


「う、うわぁああああ!!」


「魔物だぁあ!!」


「キャアアアアアアアア!!」


「皆逃げて!!」


 蜘蛛の子を散らすよう逃げ去っていく同級生に、アカネは牙をむいた。


「やめなさい!」


『私に命令すんなぁあ!! それよりも、ホラ、アーティファクト使わないのぉ? ふふふ』


「く……」


 ダンジョン外での魔法やアーティファクトの使用は法律によって禁止されている。

 キララ自身の立場を考えると……。


『ヒャハハハハハハハハハ! 無理よね!? でも私はちがぁぁぁぁう!!』


 俊敏な体術を繰り出し、柔軟な身のこなしで攻撃を回避するもダメージをおっている気配はない。


 通常の魔物とはケタ違いの強さだ。


(どうしよう……このままじゃ……!!)


 キララたちが戦っているさなか、街ではある異変が起きていた。


「大変申し訳ありませーん! ただ今こちら封鎖しておりますー!」


「え、なになに? 事故?」


「すみませーん。ここから先は通行止めとなりまーす」


「有毒ガスの危険性がありますので近づかないでくださーい!!」


 至るところで唐突な交通規制。

 それは例の河川敷への道を防ぐように。


「おいおいなんだよこりゃ!?」


「変ね。今日こんなことやるって情報はなかったのに」


 ユウジと姫島がダンジョンへ向かおうとしていたが、この謎の事態に困惑していた。


「なぁアンタ、これどうなってんだよ」


「あーすみませんねすみません。ちょっとまだ調査中なんで詳しくは言えませんが、有毒ガスの危険性がね、すみません」


「え、でもそんな情報さっきまで全然……」


「あーまぁ突然ですからね。ほら、向こう紫色の霧っぽいの出てるでしょ? こういうの、危ないですからね。近隣の人も避難していただいてますので。はい下がって下がって」


 ガスマスクなどの装備をした作業員たちは素っ気なくせわしなく、かつ手慣れた様子で交通規制やそのたものもろを進めていく。


「な、なんだぁ?」


「行きましょうユウジ君。ここにいてもなにもならないわ」


「うっす」


 ふたりは離れた場所で隠れて作業員たち、そして紫色の霧を見る。


「なんかおかしいっすね」


「別の地方だけれど、前にもこんなことがあったような……」


「そうなんすか?」


「うん、まだ私が駆け出しのころに1回。あとチラッとダイバーづてに聞いた話でも似たようなことがあったって」


「…………なんなんだろう」


「ネットで挙げられてる位置からして河川敷のほうを囲うみたいに交通規制やってるみたいね」


「なんだぁ!? なんで河のほう……、え、河川敷って」


「なにかあるの?」


「たしか風背山学園の通学路にもなってたはずっす! ……キララ!」


 キララに連絡を取ろうとしてみるも通話ができない状態になっていた。

 普段ならありえない。

 

「もしかしてあの霧……」


「姫島さん! もしかしたらキララ、まだ河原のほうにいるのかも!」


「だとしたらなにかトラブルが?」


「ネットで挙げられてる部分見る限り、封鎖はまだ完璧じゃない。河原へ行くための入り組んだ道まではおそらく気づいてないだろうから。いけるかもしれない!」


「そういう道があるの?」


「ちょっと大回りになりますけど。あ、虫とか大丈夫っすか!?」


「そんなのへっちゃら!」


「うし、案内します!!」


 

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