許せない
パパとお花畑でらんらんしていると、突然暗転し、ハッと目が覚めた。夢だった。
チラッと隣を見ると、パパは居ない。カーテンの隙間から眩しい光が漏れているので、お天道様はとっくに上がりきっているのだろう。
起こして欲しかったなー。パパに仕事頑張ってと言いたかった。
普段は侍女に起こしてもらっているが、ここはパパの部屋なので誰もいない。ぐーっと伸びをしたあと、枕元に置いてあるベルを鳴らした。パパが置いてくれたのかな。
ノックの後、ディリアとじいや、あとは知らない4人の侍女が部屋に入ってくる。
「おはようございます、リフレシア様。よくお眠りになれましたか?」
「じいや、おはよ。たくさん寝た」
「それはようございました。少し遅いですが、朝のご飯を召し上がりますか?」
「リシア、おうち帰る」
「お家? ああ、ご自身のお部屋ですね。かしこまりました」
じいやは笑顔で私とお話した後、ディリアと他の侍女に何やら指示を飛ばした。それぞれ返事をすると、ディリア以外の侍女は部屋を出ていき、じいやも頭を下げたあと退出していく。
ディリアはベッドに近づくと、膝を着いて私と目線を合わせた。
「おはようございます、リフレシア様。お着替えとお顔を洗いましたらお部屋に行きましょうね」
優しく私の頭を撫でたあと、背の高いベッドからソファーまで運んでくれた。ソファーに座ったタイミングで扉が開き、先程の侍女達が着替えやお湯を持って入ってくる。
ディリアが着替えの服を選び、お湯を受け取ると侍女達に控えるよう指示を出す。それに、2人の侍女が不快そうな顔をした。
「この部屋の担当は私達です。リフレシア様のご準備は私達が致しますわ。外で待っていてください」
「ですが、私はリフレシア様の専属です。グレイ様より陛下のお部屋に入る許可や、ここでのリフレシア様のお世話の許可は頂いております。
初めての場所なので、知っている人がいればとのグレイ様の配慮です。ご理解下さい」
じいやの言う通り、知らない人に準備されるより、大好きなディリアの方がいい。
あくまでも私のために、わざわざ朝からここまで来てくれたのだ。じいやとディリアの優しい心遣い。
それを、この2人は分からないらしい。もう2人がやめなよと止めているが、何が嫌なのか、ディリアを見る目付きは鋭くなった。
「だからと言って、なぜあなたが指図するんですか? 服も勝手に決めて。ここに入れたからと調子に乗るものでは無いわ」
なるほど。パパの部屋付きと、ただの末っ子皇女の侍女とでは、身分の差みたいなのがあるのかもしれない。
ディリアは私専属だけど、ここの侍女に比べると専属と言えども下ってことか。
くだらないと思うが、お城に使える侍女や侍従は貴族出身が多いと聞く。単純にお城の侍女達は、身分の高い人から順番に立場のある場所へと振り分けられているのかもしれない。
仕方ないことかもしれないけど、私の前で言うことじゃない。
パパの部屋かもしれないけど、私はそのパパの部屋を使った人間。ディリアも許可を貰って今ここにいる。どっちが上とか、私が口を挟めることじゃないし、侍女達なりのプライドがあるのかもしれない。
でも、ディリアがこの部屋にいる理由は私のためで、じいやの配慮で、もっと言えば、指示を出したわけじゃないかもしれないが、結局はパパの心遣いに繋がる。
そんな気遣いを、ここの部屋付きだからというプライドのせいで蔑ろにしていいものじゃない。
それにこの2人の言い方は、末っ子皇女の侍女ごときと言っているように聞こえる。
チラッとディリアを見ると、顔には出ていないが、侍女服を悔しそうにギュッと握りしめていた。
ディリアは私専属の筆頭侍女で元乳母。他の私付き侍女より立場は上だけど、絶対こんな態度は取らない。それより、仲良くきゃあきゃあと私を愛でてくれる。冗談を言い合っているのも聞いたことがある。
何が言いたいかと言うと、ディリアが大好きだってこと。
ぎゅーっと、ディリアの腕に抱きつく。びくっと体が揺れて、驚いたように私を見つめた。ソファーから飛ぶように抱きついたから結構勢い余ってしまった。
「り、リフレシア様! そんな危ないことをしては行けません! 怪我をしたらとっても痛いんですよ?」
チョンと私の鼻をつつき、ダメですと注意。私の体を確認すると、ほっとしたようにディリアは息を吐いた。
「リフレシア様、お着替えと顔を洗いましょう。こちらにお願いします」
パパの部屋付き侍女が私に手を伸ばした。
「あの、リフレシア様はこの後少し歩きますので、動きやすいそちらの服をお願いできませんか? お顔を洗う時は、左右交互でお願いします。顔全体を覆ってしまうとびっくりしてしまいますので」
昨日ほとんど自分で歩いていないから、部屋に帰るまで少し歩かせられるかなと思っていたがビンゴだった。
ディリアの行動には必ず、私のため、って言う理由がある。
「あなた、また指図を」
「やっ! うわぁああん、ディーアがいい! わああああん!」
またディリアを責めようとした侍女の言葉を遮って、部屋の外に響くくらい号泣してやった。
暗殺の恐れがあるため、パパの部屋と言えどもそこまで防音はしっかりしていない。普通の話し声くらいじゃ外には聞こえないが、大泣きは微かに聞こえるだろう。
異変を感じたのか、扉がノックされじいやが入室の許可を求めてきた。多分私が着替えている可能性があったからだろう。
ディリアは私に捕まっているので、動けない。さっき、やめなよと止めた侍女がディリアに開放の許可を貰ってから、慌てたように扉を開けに行った。
入ってきたじいやは、着替えも何もされずに大泣きしている私に驚いたのだろう。年齢からは想像もつかない素早い動きで駆け寄ってきた。
「リフレシア様、如何されましたか?」
ポケットからハンカチを取りだし、そっと私の涙を拭う。
「ひっぐ、わああああん! うううっ、うぐっ、びえええん!」
女優さながら泣き出したのは良いが、だいぶ感情が高まっていたのか泣きやめない。大好きなディリアを悲しませたのが許せない。
ディリアがじいやに一言ことわって、私を抱き上げた。左右上下に揺れながら、ポンポンと背中を叩いて落ち着かせようとしてくれる。
ディリアの首に手を回して力強く抱きつく。幼児の力だから痛くは無いだろう。
「リフレシア様、今日のお昼はパンケーキとヨーグルト、あと甘い果物にしませんか? 私達、リフレシア様にあーんするの好きなんですよ。今日くらいはお手てはお膝の上でお休みさせましょうか」
「ひっ、く、ふああん、うん、うんっ」
まだえぐえぐと嗚咽が酷いが、涙は少しずつ止まってきた。いい子ですねと頭を撫でられる。
「お労しい、一体何が」
じいやのそんな言葉の後、ひっと侍女達の悲鳴が聞こえた。多分この後、何があったか聞くんだろうなー。じいやの教育的指導で反省してくれればいいけど。
ディリアがじいやに、このまま部屋に戻っていいか尋ねた。じいやはにこやかによろしくお願いしますと言葉を掛けてくれた。
抱っこのまま扉に向かう。部屋を出る前、じいやにフリフリと手を振ると、振り返してくれた。
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