変な子
「リシアでちゅ」
パパの膝の上でキチッと洋服を正し、緊張で手が震えないようにパパの服を握りしめ、後ろを振り向き自己紹介。手が震えない代わりに、盛大に噛んでしまった。
恥ずかしい。
「やばぁ、可愛すぎ」
獣耳男性が上半身を乗り上げながら、机に手を着いて私に顔を近づける。
わあ、すっごい男前だなぁ。ハリウッドスターみたい。男前な顔の上にちょこんと乗るクマみたいな丸い耳がギャップで可愛い。
つい、無意識に、ぐーっと手を伸ばしてちょんと触れてしまった。
すると、大きい体をしているくせに、恐れるようにビクッと体を揺らして机から離れた。
触れてしまったことにその時気付き、私は申し訳なさそうに獣耳男性を見て眉を下げる。
「へえ、怖くねえのか」
怖がったのはそっちじゃん。
への字に眉を下げながら、パパの服の中に文字通り潜り込む。
仕事の邪魔をしているため怒られるかなと少しビクビクしたが、何も言わず抱きしめてくれた。あったかい。トクトクと規則正しい鼓動が心地いい。
「リフレシア様、獣人が怖くないのですか?」
「じゅーじん?」
パパの胸元から顔を出して、何それと首を傾げながらパパに問いかける。
「簡単に言いますと、動物の特徴を持った人間のことです。例えば、こいつはクマの獣人です」
パパではなくシャドウが問いかけに答えてくれた。
クマと人間を合わせた姿ということだろうか。
前世の頃にお店で見かけたテディベアを思い浮かべる。クマと人間。……テディベア人間。
「かあいい!」
ぱあっと顔を輝かせて再度後ろを振り向いた。
テディベアを思い出してから、獣耳男性がとても可愛く見えてしまう。
近くで見たくて、もぞもぞとパパの服の中から出ようとすると。
「寒い」
動けないように私を抱きしめたパパが、全く感情の籠ってない声でそう言った。つまり多分嘘。
季節は春頃だろう。暖かい日差しが窓から差し込み、部屋の中は少し暑いくらいだ。堅苦しいキラキラな服のせいで更に暑いと思う。
でも、抜け出そうとする私の様子に不満そうはパパが可笑しくて、私はもぞもぞをやめて。
パパのために、大人しく潜ったままでいよう。
「ふっ、ははっ!」
獣耳男性が突然笑い出した。最初は堪えるように控えめだったが、どんどんうるさいくらいの笑い声になっていく。
「はーっ、おもしろ。獣人をかわいいと言うわ、誰かさんは見たことない気持ち悪い態度を取るわ」
「ガウォン、口が悪いよ」
「あん? んだよシャドバーズ。本当のことだろ」
背中を向けているためどんな顔をしているか分からないが、シャドウから漏れたため息が何となく呆れた顔をしているんだろうなと想定させる。
ちなみに、パパは周りなど気にも止めておらず、ただただ穴があきそうなくらいじーっと私を見つめている。
私は、パパを見つめ返したり、パパの胸元のボタンで遊んだりしてシャドウと獣耳男性のやり取りを聞いていた。
その時、突然横から美人さんが。
垂れ耳が少し浮いていて、内側のピンク色がチラリズム。可愛い。ハムハムしたい。
「怖くない?」
「んー?」
主語のない美人さんの問いかけに首を傾げる。さらさらっと顔にかかった黒髪をパパが払ってくれた。
美人さんはもう一度怖くないかと聞いてきた。更に首を傾げると、まず自分自身を人差し指で指し、次に獣耳男性を指し、また同じ質問をする。
獣人が怖くないのかってことかな。
「クマしゃん?」
「クマと、ボクが」
獣耳男性はまだしも、美人さんが怖いかだって?
全く怖くないし、美人さんにうさ耳つけて下さった神様に感謝しているくらいなのに。
「リシアすきぃー」
「……変な子」
がーん。美人さんに変人扱いされた。結構ショック。
獣人って怖がらないとダメなの? この世界では獣人は恐れられている存在みたいな感じかな。
「リシア、へんちがう」
「……変」
「ちあう、あ、ちがう!」
「変」
譲らない美人さんにむぅと口を尖らせる。言いつけるように美人さんを指さしながらパパを見上げた。
パパはギロッと美人さんを睨みつける。うう、怖い顔。こんな怖い顔されたらおしっこ漏らしちゃう。美人さんに申し訳ないことしたかも。
ちらっと横目で美人さんを見ると、気にする素振りなくじーっと私を見つめたまま。
あ、垂れ耳が半分くらい上がってる。
「ぴょんぴょんかわいー!」
褒めたつもりが、美人さんは先程の私の真似をするようにむぅと口を尖らせた。
シャドウと獣耳男性の笑い声が部屋に響いた。
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