第11話 天使のアルマ
主な変更点
本編に載せてるのが初稿でこれが2稿です。終盤を書いてるときに書き直したので、最後の方、距離感を近づけ過ぎました。PVがよく途切れました。
「うん。格好いい」
廊下。シャルナと並んで校舎横のカード&デバイスショップに向かう途中。玄咲は手首に装着したSDを見てそう言った。
(クララ先生とお揃いだな)
カードバスの中で見たクララのつけていたSDを思い出す。正確には教員用と生徒用で機能に違いがあることは玄咲はゲーム知識で知っている。だが、外面的なデザインは教員用デバイスにだけついているCMAの文字を象った金属の意匠を除けばほぼ同じ。玄咲は気を良くした。
(……さて、現実逃避はここまでにするか)
シャルナ。沈痛な沈黙を携えて話し難い雰囲気を纏っている。教室を出てからずっとこうだ。原因は分かっている。サンダージョーだ。何と話しかけたものか。迷ったが、玄咲はストレートに聞きたいことを聞くことにした。
「あいつと過去に何かあったのか」
「うん……でも」
シャルナは玄咲の方を向かず、俯いて床を見て言った。
「話し、たくない」
当然の反応。出会ったばかりの人間にデリケートな話はしない。玄咲はそれ以上その話題を深堀りせず、ただこう言った。
「……そうか。その、いつでも、聞く。もしも、話したくなったら――」
言ってて、少しキモくないかと思った。話したくないと言ってるのに、話したくなったら聞くと言われるのはうざくないだろうかとも。純粋に心配して口にした言葉だが、その直後から玄咲は自分の発言を後悔し始めていた。自分はやはり対人コミニュケーション能力――特に美少女相手とのそれに欠けている。軽い自己嫌悪に駆られて玄咲は先ほどの自分の言葉を訂正しにかかった。
「いや、今の言葉は忘れ――」
「ありが、とう」
シャルナは。
玄咲の方を向いて、笑った。
「話したくなったら、言うね」
「う……」
笑みが、眩しい。丁度太陽が雲を乗り越え窓ガラスを抜けてシャルナの顔を照らした。白日に晒されたシャルナはその白さをいや増し、幻想の領域に束の間入玄した。次元の超越。天使の具現化。光彩陸離。白き世界――太陽が雲の裏側へと岩戸隠れした。それと同時、物幽両界を跨いだ光の幻想もたちまちのうちに雲散霧消し、あとにはただ笑顔のシャルナだけが残った。
魅力はいくらも減じなかった。
「か……」
「か?」
(可愛……すぎる……、駄目だ。やはりこの子は攻略対象外。永遠に俺とは釣り合わない存在なんだ……)
シャルナの美貌に玄咲の心は圧しへしゃげた。玄咲は自分のことを大した男だと思っていない。圧倒的な戦闘の才能をたまたま持ち合わせただけのただの凡愚だと信じ込んでいる。その玄咲に、シャルナの美貌は眩し過ぎた。光は時として、人にとって毒となる。まさに今、玄咲の精神はシャルナの美貌に苛まれていた。この圧倒的な美貌の天使と付き合える可能性がないという現実が、玄咲の心を打ちのめしていた。手の届く場所にいる、永遠に手の届かない触れられざる光輝。玄咲の精神は欲望と絶望でパンク寸前になった。
「か……エンクリ、知ってるか」
――だからだろう。血迷い狭き暗がりから明るみに飛び出してくるゴキブリのように謎チョイスの言葉が玄咲の口から飛び出した。玄咲は今度は違う意味で自分に絶望した。なんで自分はいつもこうなのかと。
「え? 知らない、けど」
「そうだな。知るはずもない。俺も詳しくは知らない。名前を知ってるだけだ」
2つの意味で嘘をつく玄咲にシャルナが尋ねる。
「……緊張、してる?」
「まぁ、うん。そういうクリティカルな質問はやめてくれ……」
「ふ、ふふ……」
シャルナが思わずといった風に笑う。さらに、手を背に回し少し前に屈んで、玄咲の顔を覗き込むように見上げながら尋ねてくる。
上目づかいで、
「なんで、緊張してるの?」
明らかに分かっている声と仕草だった、そしてそれが魅力的だった。シャルナにはドキドキするようなからかい方をさっきもされた。それによく笑う。もしかしたらシャルナは玄咲が思っていたよりも俗な性格をしているのかもしれなかった。ゲームでは過去の姿は全く描写されなかったキャラだから、眼にする全てが新鮮で、シャルナは魅力的な一面を次々に見せてくれる。
「ねぇ、なんで、なんで」
「い、いや、その……」
必死に顔を背けて、まともに返答すら返さない無様を晒しつつも、シャルナに構われるのが内心玄咲は嬉しくて嬉しくて仕方がない。シャルナと一緒にいると心臓の高鳴りが止まらない。美貌に打ちのめされて、釣り合わないと自覚して、攻略対象外だと自覚してなお、シャルナに惹かれて惹かれて仕方がない。シャルナともっともっと一緒にいたくて仕方がない。
天使のように可愛い、
やがて、地獄と天国に分かたれるその時まで。
(……せめて、友達くらいなら、目指してもいいかな? シャルと友達で送る生まれて初めての高校生活。うん、素敵だ。しかし――)
「玄咲」
「うん?」
「えい」
必死に逸らしていた顔を振り向かせようとする。その瞬間、頬に指がぐにゅっと突き刺さった。
シャルナの白くて細やかな指が。
小さくて可愛らしい悪戯だった。
「あはは、ずっと、顔、背けてたから、つい」
口元に手を当ててシャルナが笑う。陰など微塵も纏わず。悪戯で楽し気な目付きのその中にもう殺意は微塵も見られない。今は潜んでいるだけだろうがそれでも確かに。
シャルナは今、玄咲の隣で笑っている。
(――少しは元気になって、良かった)
それだけで、今は十分だった。
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