最強格闘家、死んだら格ゲー最弱キャラになってました。天才ゲーマー女子と一緒に最強を目指します!

たかはた睦

ゲームと少年達

PRESS START BUTTON

─2000年代末期


「いてててて・・・・・・」


 喧嘩に負けた俺は、公園の水道で傷口を洗っていた。3対1じゃ分が悪すぎる。負けて当然だ。だが、俺は最後まで奴らには屈しなかった。俺の根性にビビって奴らは去って行ったんだ。これはもう俺の勝ちでもいいんじゃないか?

 俺の名は茄子原 武なすはら たけし。 この時点ではまだ小学6年生だ。

 帰ろうかと思ったが視界の角に、一人の子供(俺もガキだが、俺より年下って意味だ。)がシーソーに座ってるのを見付けてしまった。ブランコや滑り台ならともかく、シーソーなんて、二人以上で遊ぶ前提の遊具に一人で座るなんて、不自然じゃあないか?

何故だか俺は、妙にその子が気になってしまったんだ。


「よっと」


「わッ!?」


 俺がシーソーの、その子の反対側に座る。当然、俺の方が体重はあるので反対側は跳ね上がった。


「つまんなさそうな顔してんな。俺はタケシ。お前は?」


「ボク?ボクはスバル」


 ぼっち同士、気が合ったのかもな。俺と、4つ下のスバルが仲良くなるのに時間はそう掛からなかった。


 公園で何度が遊ぶ内に遊びのネタも尽きた。俺は両親がいない日にスバルを家に招き入れた。


「タケちゃん、何これ?」


 スバルが指さし訪れたのは、黒いボディをしたゲーム機。金色で書かれた16BITの文字が特徴的だ。


「それはメガドライブだ!セガが作ったんだぜ?」

「ソニックのセガ?ゲーム機なんて作ってたの!?」


セガは何年か前に販売終了したドリームキャストを最後に、ゲーム機を作るのを辞めてしまった。ゲームで遊びだした時にドリキャスもサターンも無かったスバルの反応は当然とも言える。


「叔父さんが遊ばなくなったのをくれたんだよ。ソフトはコレしかないけどな」


 と、俺はメガドラに刺さったままのカセットタイプのゲームソフトを指差した。


『GALAXIAN BALI TUDO 2」ーギャラクシアン・バーリトゥード2。宇宙最強の格闘家を決めるため、銀河中から集まった戦士たちによる格闘大会を舞台にした2D対戦格闘ゲームだ。

 メガドラの電源を入れると、テレビにギャラバリ2のタイトル画面が映る。1P側のコン トローラーを持つ俺がスタートボタンを押すと、画面はキャラクター選択に移行した。


「俺はこの『銀河刑事アポロン』が持ちキャラなんだ」


 俺が選んだのは、全身をメタリックなパワードスーツで包んだキャラクター、銀河刑事アポロン。格闘大会の裏で暗躍する悪の組織を追って潜入捜査をしている……という設定らしい。

 性能は飛び道具と対空技の2つしか無いが、コマンドがタメ技のみなので子供にも優しい初心者向けキャラクターでもある。


「じゃあボクはこいつ!」


「び、ビッグバンボイジャー!?」


 スバルが選んだのは、覆面レスラーのビッグバンボイジャーだ。新宇宙プロレスの社長兼エースであるボイジャーは、新宇宙プロレスを銀河に知らしめるため大会に参加しているという設定だ。肝心のキャラクター性能は……ぶっちゃけ、「弱い」の一言。

 まず巨漢タイプで あるが故に動きも遅く、ジャンプ力も低い。俺の使うアポロンや主人公キャラの「神宮メテオ」のように飛び道具もない。必殺技はその場で高速回転するボイジャーサイクロンと、コ マンド投げボイジャーバスターの二つ。しかもボイジャーバスターは相手に接近してレバー1回転+パンチという、家庭用コントローラーでは非常に入力しづらいコマンドとなっている。


「ボイジャーは初心者向きじゃねえぞ。こっちのメテオ」や女キャラの「レベッカ」の方が使いやすいぜ」


 俺はスバルに忠告するが、当のスバルはと言うと……


「使いやすいかどうかより、ボクはこのキャラにビビッと来たからコイツにする」


 直感でボイジャーを選んだという事らしい。まぁ遊んでみてダメだったら、別のキャラクターに変えればいいだろう。

 1ラウンド目、俺の操るアポロンのスターショット(飛び道具)とプロミネンストライク(対空技) の前にスバルの操るボイジャーは為す術なく撃沈した。

 無言で画面を睨むスバル。初心者相手に大人げなかったか?いや、俺もこの時はまだガキだけどよ。

 続く2ラウンド目、アポロンは開幕と同時にタメ入力していたスターショットを放つ。飛道具がボイジャーにぶつかる瞬間だった。ボイジャーはその場で回転し始める。ボイジャーサイクロンだ!何故この状況でその技を?と怪訝に思う間もなく信じられない事が起きた。何と、スターショットがポイジャーの体をすり抜けて画面端へと飛んでいったじゃないか。


「ゑ!!?」


 驚きのあまり、俺は変な声で驚いた。


「よし!思った通り!!」


 ボイジャーの必殺技「ボイジャーサイクロン」。一見するとただその場で回転するだけに見えるが、実はこの技、発動の瞬間ボイジャー自身の当たり判定が皆無になる完全無敵技だった。しかし、その瞬間はゼロコンマ1秒ほどの僅かな瞬間。飛び道具の当たる瞬間と技の発動タイミングを合わせるのは相当シビアだ。


「隙あり!」


 アポロンに距離を詰めたボイジャーが掴みかかる。


「ボイジャーバスター!」


 カナディアンバックブリーカーの姿勢でジャンプしたボイジャーは、お前のどこにそんなジャンプ力があるんだという高さまで跳び、着地と同時にケブラドーラ・コン・ヒーロの体勢でアポロンの腰骨を折る。宇宙プロレスという名の割に地味な技もボイジャーを不人気キャラにしている要因だろう。


だが、俺ことアポロンの体力ゲージは満タンから一気に3分の1へと減る。 ギャラバリ2 がマイナーゲームだったのはこういう極端なバランスのせいもあったからだろう。


「飛び道具対策さえ出来ればどうって事ないね」


 スバルは得意げに笑う。 まるで女の子みたいに。 こいつは1ラウンド目でボイジャーサイクロンの隠されたギミックに気付いていたのだろうか。 だとすれば恐ろしい観察眼だ。

 3ラウンド目も同じ戦法で負けた俺は全てのキャラでスバルのボイジャーに挑むも、完敗だった。  

「面白いね、ギャラバリ2。何でもっと有名にならなかったのかな」


 そりゃストリートファイターとか餓狼の伝説とか、もっと出来のいい格闘ゲームが世の中には沢山あるから、ギャラバリみてえな荒削りゲームは淘汰されただけだろう。


 俺とスバルの、年の離れたゲーム仲間という関係は一年も持たずに終わりを迎えた。 スバルは親の転勤に伴い、転校するらしい。スバルが俺の家でギャラバリ2を最後にやった日の事だ。


「お前にやるよ、メガドラとギャラバリ2」


「えっ?」


「俺よりお前の方が楽しんでたし、それはお前が遊び倒すべきだ。俺は中学に上がったら勉強も忙しくなってゲームどころじゃなくなるからな」


「……ありがとう。 ボク、これをタケちゃんだと思って大切にするよ。そんで、またいつか一緒に遊ぼうよ、このギャラバリ2で!」


「ああ。約束だ」


 その約束は未だ果たされえず、気が付けば10年の歳月が過ぎた……

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