第27話
僕は今彼女が過ごしていた病室の前に立っている。
というのも先生づてに彼女の母親から呼び出されたのだ。
「失礼します。」そう言って入った病室はもうほとんど片付いてしまっているが少しだけまだ彼女の面影が残っていた。
「急に呼び出してごめんなさい。この前のこと謝りたくて。」
下げられた頭に慌てて僕も頭を下げる。
「僕も、初対面で生意気なこと言って、ごめんなさい。」
こんな光景を見たら彼女は笑うだろうか。
その笑顔を見ることはもう、できない。
「それはあなたのせいじゃないわ。」
「でも...」
「あなたのおかげで気づけたの。七海は私が思っているほど、子供じゃなかった。ありがとう。」
「いや、僕こそ、七海さんと出会えて良かったです。…産んでくれてありがとうございます。」
母親はそのまま彼女にそっくりな笑顔を見せて何かを僕に差し出した。
「これ。」
「...カメラ?」
「カメラの中に、あなたの写真があったの。きっと、七海にとってあなたは大切な人だったのね。受け取ってくれる?」
「はい、ありがとうございます。」
僕の手に彼女からの最後の思いをのせられた気がして少し怖くなった。
会話をして、絵を描いて、写真を撮って繋がってきた僕ら。これを受け取ってしまえば、もう二度と彼女の母親に会うことも、この病室に入ることもない。
そんな時間の経過を止めることなんか出来ずに気が付けばもう僕は病室の外に出ていた。
このカメラフォルダを開けば、本当に本当に最後。
恐る恐る、今この瞬間に時間が止まれと願いながらフォルダを開く。
その中には初めて二人で撮った写真。
公園の風景、どこかの猫、いつ撮ったのか分からない僕の隠し撮りまであった。
彼女らしい明るいフォルダに思わず笑みが溢れる。
そのまま写真を一枚一枚眺めていると一番最新の写真は何かのメモ帳を撮ったものだった。
その文字を読む。
ー私が死んだら、どうするか、覚えてる?ー
彼女らしい文字で書かれたその言葉にどこか見覚えがあった。
_
「うん。じゃあさ、私が死んだ後にさ公園のあの木の下掘ってみてよ。」
「なんで?」
「それは、私の死んだ後のお楽しみだね。」
「そんなの楽しみにできないよ。」
「まぁまぁいいからさ。じゃあまたね。」
_
そうだ。あの木の下。僕の足取りはいつの間にかどんどん早くなってきていた。
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