第16話
文化祭まで後残りわずかとなり、準備も本格的に進んでいった。
「へい!パス!」
そんな中教室では高校生にもなって展示の際にできた新聞紙の余りをかき集めたものをボールにしたキャッチボール大会が執り行われている。
人数が多い上、教室の広さ的にトリックアートを描く紙を広げられるのはせいぜい二〜三枚だ。
何もすることがない、そんな人も少なくなかった。
しょうくんを含めた男子3人、みんなが真面目にしているのも他所に巫山戯る。
その時、
しょうくんの足が展示の一番の目玉である、大きな落とし穴を催した絵に引っかかった。
案の定床からはびりっびりっと嫌な音が聞こえる。
一瞬にして静かになる教室。
みんなが手を止め、固まった。
透くんが怒ったようにしょうくんに話しかける。
「おい!しょう!何やってんだよ!」
何日もかけてやっと完成が見えてきた矢先の出来事だった。
「やばい、俺やらかした…そら君ごめん!これどうしよう。」
生徒のみんながざわつく。しょうくんによって集められた僕への視線は、僕は悪くないはずなのにとても冷たいように見えてしまった。
連帯責任。そこでのリーダーは僕。
そんな重みが一気に僕にのしかかる。
「皆、どんな感じだ…ってどうした、お前ら。」
様子を見にきた先生が、僕たちのあまりの静けさと、床にある悲惨な現状を見て溜め息を吐く。
そして先生が視線を向けたのはやはり、僕であった。
何か言わなちゃ。
でも、僕はどうしてもしょうくんを悪者にしたくなかった。
僕を美術部だと知ってくれていたこと。
「そらさん」ではなく、「そら君」と呼んでくれるようになったこと。
実は透くんのことを心配するような優しい一面があること。
"しょうくんがやりました"
なんて言葉、僕の口からは出せなかった。
だからといって、別の言葉も頭が真っ白になって思い浮かばない。
「すみません。トラブルがあって。」
透くんが助け舟を出してくれる。
きっと僕がこういう場面が苦手なことを察してくれたのだろう。
僕の思いを汲み取ってか、
しょうくんのいつもは見せない、あまりにも情けない、後悔しているような顔を見てか、
誰かが悪い、そんな言い方を避けて先生に報告する。
タイミングがいいのか悪いのか、チャイムが鳴り響く。その音はいつもより大きく響いていた気がした。
「…今日はもう帰りなさい。詳しいことはまた明日決めよう。」
先生の一言で解散となる。
僕はどうすればよかったのだろうか。
正解が分からなかった。
みんなが帰った後、もうそこには無いはずのみんなの冷たい視線が、
心の奥が見えてしまった気がして仕方がない。
今のこの感情は、死にたい以外の何物でもなかった。
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