第14話
彼女と最後に会って2週間が経った。
そもそも最初の出会いは単なる偶然だった訳だし、彼女の話を聞いている限り、彼女は病院を抜け出して来ている。
このぐらい距離が空いてもおかしくはないだろうと思っていた。
それでも僕はいつも通り今日も放課後公園に行くと、彼女はすでにそこにいた。
思わず声をかける。
「久しぶり。」
「初めてだね。君から声を掛けてくれたのは。」
確かにそうかもしれない。
僕が珍しいことをすると同時に彼女からもいつもとは違う雰囲気を感じた。
「なんかあった?」
僕はこういう時の優しい声の掛け方がわからない。もういいや、直球に聞いてしまおう。
ここで変に気を使う方が彼女も嫌なはずだ。
「いつ死んでもおかしくないんだって、私。」
いつも彼女は自分はもうすぐ死ぬと言ってきた。でもそれは単なる予感だったのだろう。
生きるのが難しい病気だから近いうちに死ぬんだろうな。そういう予感がついに何者かによって確定されてしまったらしい。
「っそんな風には見えないよ。」
受け止めているつもりでいたのに口からは驚きの音色が出る。
「ふふっ まあいつ死んでもおかしくないですっていう雰囲気出してる人の方が少ないけどね。しかも、人間って皆いつ死んでもおかしくないんだよ。誰も言わないだけで、」
前よりもさらに生きることを諦めたような声。それは僕の心を苦しくした。
それでも僕はまだ死にたいらしい。
そんな感情が嫌になる。
死にたいって思わないでいいのなら思いたくない。
でも彼女はどれだけ生きたいって思っても生きられない。
「死ぬの、怖くない?」
怖いに決まっている。それなのに僕はそんな馬鹿な質問をする。
「それは死ぬ直前にならないと分からないよ。だけど死ってすごくてさ、必ずハッピーエンドなんだよ。」
彼女はいつもの面影が見えるような顔でそう言った。
「…どういうこと?」
「死ぬ直前にさ『やっと死ねる』って思ったらそれはその人にとって幸せなことだし、『まだ死にたくない』って思えるんだったらそれだけ幸せな人生が送れたってことじゃん。」
彼女は前向きだと思っていた。でも僕が思ってた以上に前向きだった。
でも関わりが深くなってきてようやく最近分かったことがある。
彼女は前向きにならざるを得なかったのだ。
こんなにやるせ無い気持ちになったのは初めてだった。
「後悔が残って『まだ死にたくない』って思った人は…?」
「そうならないように生きるっていうのが人生の目的だよ。…だから私はいつでも自分にまっすぐ生きて来たつもり。あと一つ叶えられたら私は…もう後悔ないよ。」
「あと一つ…?」
いつものいたずらっこのような顔をして僕の目を見る。
「気になる?」
「うん。」
君が悔いなく死ねるなら、そのために僕に出来ることがあるのなら、その願いを聞こうと思った。
「君には、生きてほしい。」
その言葉は僕にとってあまりにも重すぎる言葉だった。
でも彼女の思いの方が僕の感情なんかより何倍も何倍も重かった。
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