第2話

文化祭。それは高校生たちの青春の場。

僕たちの高校でも文化祭まであと2ヶ月というところまで来た。


「今日は文化祭でする展示について話していきます。何か意見のある人はいますか?」


クラスで学級委員をしている透くんがクラスのみんなに呼びかける。返事が曖昧だったのはやりたいことが思い浮かばないからか、それともみんなが周りの様子を伺っているからか。


その様子を見た透くんが再び声を出す。


「…誰もいませんか?じゃあ今から当てていくので、何か一つ案を出してください。じゃあ左から順に_」



「…なにか皆を驚かせるようなことしたいです。」


教室の左端、髪の毛を腰まで伸ばしてる女の子。梓乃さん。あんまり目立つようなタイプではないがそれを苦ともしないタイプ、と僕は勝手に思っている。


「驚かせることか…」

「透は何したいの?」


透くんと梓乃さんは家が近く、幼稚園からの幼馴染だと聞いている。そのため会話もスムーズでこのまま順調にいけばみんなもこの"驚かせること"をするという意見に賛成するだろう。そう思いながら2人の会話を聞いていた。



「俺?俺はみんなのやりたいのでいいんだけど、強いて言うなら、迫力があって…文化祭の時期ハロウィンだからそれに関係したものでもいいかもね。_次そらさん?お願いしていい?」


左端の前から2番目。

そこが僕の席だ。

当たると分かっていてもいざ自分の番になると声が出ない。僕は弱虫だ。

ごめんなさい_そう口を開こうとした時、このクラスで1番と言っていいほどの明るい声が教室に響いた。




「俺!トリックアート展やりたい!楽しそうだし、皆のこと驚かせれるんじゃない?しかも、『トリックオアトリート』…ハロウィンっぽいじゃん!」


このクラスでいちばんのお調子者のしょうくん。

転勤族で色々な学校を転校してきた経歴がありとてもフレンドリーだ。


「しょう、まだ君の番じゃないよ。ごめん

ね、そらさん。」

「いや、僕は大丈夫です…。」


僕はいつも下を向いている。自信が出ないし、人からの目線が怖いから。

みんなバラバラの学校から来て出会ったタイミングは同じはずなのにしょうくんは「しょう」僕は「そらさん」。この時点でお察しだろう。



「そらさん。どう?」

透くんが改めて聞いてきた。


「僕もトリックアート展いいと思います。」


僕は知っている。こういう時にはマジョリティーとしてみんなの一部になることが最善策だということを。周りを見渡してみる。ほら、みんな嬉しそう。



「ならトリックアート展に反対の人いますか?」

透くんが改めてみんなの反応を伺う。

よかった僕は今日も間違えることはなかったようだ。



「じゃあトリックアート展で申請を出しておきます。リーダー決めないといけないんだけど誰かやりたい人いますか?出来れば絵とか構成とか得意な人がいいんですけど。」


この文化祭で中心となる役割。みんな誰が手を上げるのかとあたりをキョロキョロして時には小突きあっている。その様子を眺めていると

「そらさんって美術部だよな。やってみたら?」

という声が聞こえてきて僕は固まった。

僕が固まってしまったのは

あのしょうくんが僕が美術部だということを知っていたからなのか、それとも突然話題の中に放り込まれたからか、はたまたその両方か、

僕は慌てて否定する。


「い、いや、僕は、向いてないと、思う。」


そう僕には向いてないんだ。そういうリーダーとか、まとめるとか。



「まあ、まだ時間はあるから、また気が向いたら教えて。そらさんが無理なら俺がやるから。」


タイミングを見計らったかのようにチャイムが鳴って解散となる。曖昧なところで終わってしまった。

でもこのまま黙っていれば透くんがリーダーをしてくれるんじゃないかと安堵していた。

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