第59話 底辺配信者、ギルド対抗戦に参加する。終
ハルカさんがリタイアし、俺たち『閃光』ギルドの優勝が決まる。
「やった!裕哉くん!優勝したぞ!」
「そうですね」
俺は腕の中で喜んでいる愛菜さんに返事をする。
その喜び様は無邪気な子供が喜んでいるようで、いつもキリッとした顔でみんなのことをまとめている愛菜さんからは想像もつかないくらい可愛い。
すると、急に“ボッ!”と顔を赤くする。
「〜っ!は、はやく降ろしてくれ!」
自分がお姫様抱っこされている事実に遅れて気がついた愛菜さんが降ろすように指示を出す。
〈可愛い〉
〈この可愛さで男が寄ってこないとか冗談だろ〉
〈誰かもらってあげて〉
〈〈〈〈任せろ!〉〉〉〉
〈息ぴったりだなww〉
しかし、傷を負っている愛菜さんを歩かせるわけにはいかない。
「ダメです。このまま千春さんのところまで連れて行きます。怪我人なんですから安静にしてください」
「ア、アタシは歩ける!1人で歩けるから!」
「はいはい、暴れないでください」
腕の中で顔を赤くして暴れる愛菜さんを降ろすことなく千春さんのもとへ連れていく。
しばらく歩くと美柑と芽吹ちゃんを回復している千春さんを発見する。
「あ、愛菜先輩!裕哉先輩!」
「お疲れ様、2人とも」
「さすが裕哉。愛菜さんを無事助けたのね」
向こうも俺たちに気付き、声をかけてくれる。
倒れたまま動けなかった美柑も千春さんのおかげで動ける様になっており、俺たちのもとに駆け寄る。
「ゆ、裕哉くん!千春のところに到着したぞ!はやく降ろしてくれ!」
「あ、すみません」
愛菜さんからの催促で俺は愛菜さんを地面に降ろす。
そして駆け寄ってきたみんなを見て、愛菜さんが言う。
「みんな、ありがとう。4人のおかげで優勝することができた」
「愛菜先輩の夢でしたからね!優勝できてよかったです!」
愛菜さんの夢ということは前もって聞いていたため、愛菜さんの夢を叶えることができて嬉しく思う。
すると、このタイミングで俺たちの身体が光る。
そして「『閃光』ギルドのメンバーは帰還します」というアナウンスが聞こえ、前方が眩しく光る。
眩しくて目をつぶった俺は眩しさが収まり、目を開けると…
「優勝おめでとぉぉぉっ!」
「やっぱり『閃光』ギルドが優勝したか!」
「裕哉ちゃん!素晴らしい活躍だったよ!後でライ⚪︎ーキックのコツを教えて!」
等々、観客だった冒険者たちが一斉に出迎えてくれる。
その中にはギルドマスターである和歌奈さんの姿も見える。
「さすが裕哉くん!素晴らしい活躍だったよ!」
「ありがとうございます」
和歌奈さんの期待に応えることができたようで一安心する。
「愛菜ちゃんの指示出しも良かったよ!千春ちゃんと芽吹ちゃんは1対2という不利な状況でもリタイアせずに耐え続けたところは大きかったね!そして美柑も大怪我を負ってまで頑張ってくれてありがとう!」
「もちろんです!お姉様の悲願であるギルド対抗戦優勝のため、あれくらいの怪我で力尽きるなんてできませんから!」
お姉様と慕う和歌奈さんから褒められた美柑が元気よく応える。
(どんだけ和歌奈さん好きなんだよ。あの怪我、リタイアしてもおかしくなかった怪我だったぞ)
和歌奈さんの悲願を叶えるためにリタイアせず、気力を保ち続けた美柑にあっぱれと言いたい。
「今日は『閃光』ギルドでパーティーだよ!準備はできてるから!」
「おーっ!それは楽しみです!」
和歌奈さんを交えて盛り上がる俺たち。
(師匠である和歌奈さんには世話になったからな。恩返しできたようで良かったよ)
そんなことを思いつつ、みんなの会話に耳を傾ける。
すると、ハルカさんが足を引きずりながら現れる。
「おめでとう、和歌奈」
「ハルカちゃん!怪我は大丈夫!?」
「あぁ。といっても、ダンジョンに潜るのは少し先になりそうだが」
そう言われると、怪我を負わせた俺は申し訳ない気持ちになる。
その気持ちが顔に現れていたのだろう。
「裕哉くんは気にしなくて良いよ」とハルカさんが声をかけてくれる。
「これも真剣勝負だからね。実際、私は君のリーダーである愛菜さんに怪我を負わせた。だからお互い様だよ」
ハルカさんの方が愛菜さんよりも重傷だが、お互い様と言ってくれる。
「次は『霧雨』ギルドが優勝するから。和歌奈の弟子に好き勝手させない戦略を立ててね」
「望むところだよ!裕哉くんを封じ込めることなんてできないから!」
自分のことのように堂々と和歌奈さんが応える。
「そうだね。簡単なことではないさ。だから今以上に強くなってみせるよ。また、来年会おう」
そう言ってハルカさんが立ち去る。
「来年は苦労しそうですね」
「大丈夫だよ!来年になればウチのギルドのメンバーだって今以上に強くなってるから!」
「ははっ、そうですね」
その後、ギルド対抗戦の表彰式が行われ、今年度のギルド対抗戦は『閃光』ギルドの優勝で幕を閉じた。
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