第53話 底辺配信者、ギルド対抗戦に参加する。14

 時は少し遡る。


「おい、なんか後ろの方で爆発音が聞こえてきたんだが……愛菜さんたちが狙われたってことだよな」


〈だろうな〉


〈おそらく、お前は罠にハマったんだ〉


〈はやく助けに行ってこい〉


「とりあえず状況を確認するために行ってみるか。愛菜さんたちの身も心配だし」


 俺は状況を確認するため、爆発音がした場所へ超特急で向かう。


 しかし…


 “ドゴっ!”


「っ!」


 俺が地面を踏んだ瞬間、地面が爆発する。


 超特急で走ってたことで直撃を避けることはできたが、爆風により木に激突する。


〈おい!地面が突然爆発したぞ!〉


〈罠だ!罠を仕掛けられたんだ!〉


〈『牙狼』には罠を仕掛けるスペシャリストがいたはず!ソイツが関与してそうだ!〉


〈運営側は罠を仕掛けないから、仕掛けたのなら『牙狼』か『霧雨』ギルドしかいねぇ!〉


〈裕哉ちゃんをすぐに愛菜たちのもとへ行かせないようにしてる!〉


「くそっ!」


 俺は走って向かうのはダメだと思い、猿のように木と木を渡って移動する。


「ちっ!これじゃ、スピードがでねぇ!」


 しかし、俺は猿ではないので走った時よりもスピードが出ず、愛菜さんたちの場所に到着するのが少し遅くなる。


〈まんまと『牙狼』と『霧雨』の術中にハマってるぞ〉


〈裕哉ちゃんが着いた頃に全滅してたら最悪のパターンだが、今のところリタイアしたというアナウンスはない〉


〈守りに徹すれば耐えることはできるんだろう。だが、急がないと長くは持たんぞ〉


 俺はできるだけ急いで爆発音のした場所へ向かう。


「っ!見えた!」


 ようやく辿り着いた俺は戦況を把握する。


 その時、剣を弾かれた美柑が龍馬さんによる攻撃を受ける瞬間だった。


「っ!このタイミングじゃ攻撃を防げない!」


 そう思った俺は攻撃を受けた後、美柑が飛んでいくであろう方向を見る。


 すると、視線の先には大きな岩山があり、あのままでは美柑が大怪我を負うと思った。


「間に合えぇぇーっ!」


 俺は美柑を受け止めるため、数10メートルの高さがある木を蹴って、隕石と見間違うようなスピードで落下する。


 その甲斐あって、なんとか美柑を受け止めることができた俺は美柑の盾になりながら岩山に激突する。


「ぐっ!」


 あまりの痛さに思わず声を上げる。


 そんな俺に…


「裕哉くん!」


「裕哉先輩!」


「裕哉さん!」


 と皆んなが声をかけてくれる。


「ごめん、間に合わなかった」


 俺は腕の中にいる美柑へ謝る。


「お…遅すぎるわよ……裕哉」


(良かった。重傷じゃなさそうだ)


 途切れつつも返答する美柑を見て安堵する。


〈うぉぉっ!間に合った!〉


〈さすがだぜ、裕哉ちゃん!〉


〈けっ!カッコ良く助けやがって!そんなんで俺の美柑ちゃんはお前に惚れたりしないからな!〉


〈お前の美柑じゃねぇだろww〉


〈それな。俺の美柑ちゃんやし〉


〈お前のでもねぇよww〉


「ごめんな。俺が囮役を全うできなかったから美柑が傷ついてしまった」


「こ、これくらい平気よ……」


 と、強がった返答をしているが、意識を保っているのがやっとのようで、立ち上がる様子は見られない。


 その様子を眺めていると、愛菜さんと千春さん、芽吹ちゃんが他の冒険者の攻撃を喰らい、吹き飛ばされていた。


(マズイな、この状況)


 愛菜さんは和歌奈さんと同等以上の実力を持っているハルカさんと対峙し、千春さんと芽吹ちゃんは1対2のバトルとなっていた。


 そして俺と美柑はいつでも攻撃できる体勢で待機している龍馬さんと対峙している。


(俺には作戦を考えることなんてできないから指示を出すことなんてできない。だが、俺が今やらなければならないことは理解してる)


 それは美柑を守りながら龍馬さんと対峙すること。


 そして龍馬さんをリタイアさせることだ。


「よしっ!」


 そう思った俺は美柑に…


「ちょっと、ごめんな。これしか方法はないんだ」


 と言って腕の中にいる美柑をお姫様抱っこする。


「ちょっ!何してんのよ!」


「バ、バカ!暴れるな!」


「ひゃっ!ど、どこ触ってんのよ!変態!」


「だから暴れんなって言ってるだろ!」


 しかし、俺の意図を全くわかってない美柑が暴れ出す。


〈はい、死刑〉


〈俺の美柑ちゃんをお姫様抱っこした罪は重いぞ〉


〈おい、裕哉。今、美柑ちゃんのどこ触ったんだ?半殺しにするから言ってみろよ〉


〈美柑ちゃんの貧乳おっぱいを触ったら生きて帰さんぞ〉


〈あの貧乳は俺のものだ〉


〈ブチ切れてる奴多すぎww〉


「この体勢じゃないと美柑を守りながら戦えないの!」


「ほ、他にも方法はあるはずよ!」


「俺にお姫様抱っこされるのは嫌かもしれないが我慢してくれ!これしか思いつかなかったんだ!」


「い、嫌ってわけじゃないけど……は、初めてのお姫様抱っこはロマンチックなところが良かっただけよ!」


 腕の中で顔を赤くしながら訴える美柑。


〈はい、可愛い〉


〈めっちゃ乙女やん〉


〈確かに全くロマンチックじゃないな〉


〈女装した男に戦場でお姫様抱っこされてるからなww。ロマンチックのカケラもないわww〉


「そ、そうか……それはすまん」


(マジでごめんなさい)


 心の底から思っているであろう発言を聞き、謝ることしかできない。


「と、とにかく、いいか、美柑。このまま動くなよ。あと、変なところ触ったら後でめっちゃ謝るから」


「ふんっ!」


 不機嫌そうにそっぽを向かれる。


 顔を赤くしてることから、マジでキレてるようだ。


(マジギレしとる。なんて言って謝ればいいんだろ……)


 本気でそう思った。

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