第21話 底辺配信者、ギルドメンバーに挨拶をする。
「おぉ。ここまで変わるとは。正直驚いた」
「ウチ、女子としての自身なくします」
「なかなか可愛いわよ、裕哉ちゃん」
「それは褒め言葉じゃないです!」
俺は3人に向けて大声を上げる。
部屋の中に無理やり入れられた俺は星野さんたちの手により、黒髪ロングのウィッグと女の子が着るようなフリフリした服にズボンを履かされた。
その上、顔にはナチュラルメイクを施された。
「もともと、裕哉くんは女の子から人気のありそうな中性的な顔立ちだったから、化粧とウィッグだけで美少女になるとは思っていたが………さすが裕哉ちゃんだ」
「だから褒められても嬉しくないんですよ!」
俺は星野さんの発言にツッコミをいれる。
すると、タイミングよく元凶である和歌奈さんが部屋に入ってくる。
「おぉー!裕哉ちゃん!とっても可愛いよ!私の想像通り……いや、想像以上の美少女だよ!」
和歌奈さんからもみんなと同じ感想をもらう。
「和歌奈さん!なぜ俺は女装することになったんですか!?」
「だって、『閃光』は女の子しか入れないギルドだもんっ!」
「もんっ!じゃないですよ!それに関しては考えがあるって言ってたじゃないですか!」
「うん!考えてたよ!裕哉くんが裕哉ちゃんになれば大丈夫かなーって!」
「和歌奈さんを信じたあの時の俺を殴ってやりたい!」
和歌奈さんが実はバカなことを今さら思い出す。
「いやー、『男は絶対に加入させない!』みたいなこと言いまくってたのに、裕哉くんを受け入れるのはマズイでしょ?」
「そうですね。それに関しては非常にマズイです。俺まで被害が出てきそうです」
「だから私は決めたんだ!『ウチのギルドに入れる男性は女装好きな人だけ』って!」
「………」
なぜそのような思考回路に至ったのか、小一時間くらい聞きたい。
「俺、女装なんて好きじゃありませんよ?実際、無理やり女装させられましたし」
「大丈夫だよ!女装した格好で生配信に出るだけで、視聴者の人は『裕哉くんって女装好きなんだ!』って思ってくれるから!」
「そのための配信かぁー」
どうやら今回の配信には様々な理由があるようだ。
「今からの配信に女装して出てくれるだけで、もう2度と女装なんてさせないから!」
「本当ですか?」
「あ、えーっと………あと何回かはあるかも……」
「そこは言い切ってほしかったです」
一瞬で前言撤回される。
「星野さんたちは和歌奈さんがおかしなことをやってるって気づいてましたよね?」
「…………いや、気づかなかったな」
「それは気づいてた人の反応です!」
3人とも和歌奈さんの行動を止めようとせず、嬉々として協力してるようだ。
「お願い、裕哉くん!『閃光』ギルドに男である裕哉くんを入れるにはこれしか方法がないの!」
「絶対、これ以外にも方法はあると思う!」
「いや、他の方法も探したんだよ!でも名前や性別を変えるわけにもいかなくて!それに、裕哉くんが男だってことは配信でバレてるから、他に方法がなかったんだよ!」
「つまり男性である俺をギルドへ加えるため、女装が好きな男性なら加入OKという条件を作ったと」
「うん!ただし美少女に限るという条件も加えて!そうすれば裕哉くんしか男性の冒険者はウチのギルドに入れないと思ったんだ!」
言いたいことは理解できたが、なぜこのような方法を取ることになったのかは全く理解できない。
「なぜ条件が女装なんですか?俺だけがギルドに加わることのできる条件なら女装以外にもあるはずです」
「…………私が裕哉くんの女装姿を見たかったから?」
「ダメだこの人」
和歌奈さんの行動理由に頭を抱える。
だが、今に始まったことではないことを思い出し諦める。
「和歌奈さん。いい機会だから言っときます。会うたびに無茶振りされる俺の身にもなってくださいよ」
「それを言うなら、会うたびに理解不能なことを成し遂げるのをやめてほしいね。その後の後処理をする私の身にもなってほしいよ」
「ちょっとなに言ってるか分かりませんね」
「私も裕哉くんの言葉が理解できないよ」
「子供かよ」
星野さんがボソっと呟く。
その言葉がバッチリ聞こえた俺たちは話しを元に戻すため、和歌奈さんが咳払いを挟む。
「こほんっ!と、とにかく、お願い!裕哉くん!今回のギルド対抗戦には勝たなきゃいけないの!去年の雪辱を果たすために、私たちには裕哉くんの力が必要なの!」
和歌奈さんが真剣な眼差しでお願いしてくる。
師匠である和歌奈さんから「俺の力が必要」とまで言われると、弟子として応えたくなる。
「はぁ、分かりました。師匠には冒険者になる時にお世話になったんです。その恩返しができる機会を前から探してたので、我慢して女装の格好で配信に出ます」
「ほんと!?」
「はい。ギルドに入るなら知ってる人がいるギルドが良いと思ってましたし。それに女装好きじゃないことを知り合いに伝えることさえできれば、視聴者からどう思われても関係ありませんので」
「やったー!ありがとー!裕哉くん!」
「ただし!女装は今日限りですよ!」
「それは約束できないね!」
「………」
堂々と言われ、返す言葉が出なかった。
俺たちは配信準備を行っている部屋へ移動する。
部屋の中では『閃光』ギルドの職員や冒険者の女の子たちが忙しなく動いている。
俺が女装好きという誤解を解かなければいけない人は、これから一緒に活動する『閃光』ギルドのメンバーも含まれるため、ギルドメンバーへ挨拶と同時に誤解も解く。
女装好きと思われながら関わってほしくないからだ。
「はーい!みんな一旦手を止めて注目してー!」
和歌奈さんの発言で忙しなく動いていた女の子たちが手を止めて注目する。
「昨夜連絡した通り、今日からレッドドラゴンを瞬殺した中島裕哉くんが『閃光』ギルドのメンバーとなります。まずは裕哉くんに挨拶をしてもらいます」
和歌奈さんから紹介され、俺はメンバーのみんなに挨拶をする。
「えー、俺は中島裕哉です。今日から『閃光』ギルドに加入することとなりました。紹介された時に言っていたレッドドラゴンなるモンスターは瞬殺してません。俺にそんな実力はありません」
俺は自分の名前を伝えるとともに、現在出回っている噂を否定する。
「それと、今は女装してますが、やむを得ない事情があるため女装してるだけです。俺は女装好きな男というわけではないので、女装は今日限りで2度としません。その点、ご理解ください」
俺はみんなに一礼する。
しかし、俺の自己紹介が終わっても、みんなから反応がない。
拍手すらないことに疑問を感じていると、1人の女の子が手を上げる。
「えーっと……今お話した女の子が裕哉くんってことですか?」
「はい!この女の子が裕哉くんです!私の事情で女装してもらいました!」
和歌奈さんからの説明を受けると、和歌奈さんの話を聞いていた女の子たちが騒がしくなる。
「えっ!あの美少女が裕哉くん!?」
「めっちゃ可愛い!」
「裕哉くん!これからよろしくねー!」
「今度、私と一緒にダンジョン探索しましょ!」
「あ!ズルい!私とも一緒にダンジョン行こ!」
そして一瞬で囲まれる。
「………え?俺、女装してるんだよ?気持ち悪くないの?」
「和歌奈さんのせいで女装してることくらい分かってるよ!私たちも和歌奈さんの無茶振りにいつも付き合わされてるからね!」
「気持ち悪くないよ!めっちゃ似合ってることに驚いてるくらいだから!」
「女装似合ってるから今日限りと言わず何度も女装してほしい!」
なぜかギルドメンバーからの受け入れがいい。
(ありがたいことに俺が女装好きと思ってる人はいないようだ。しかし………俺、女子だけのギルドでやっていけるのか?)
今更ながら、そんなことを思った。
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